ロッテは佐々木朗希を「本物の怪物」に育てられるのか

10月22日(火)16時0分 NEWSポストセブン

令和の怪物はロッテに

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 かつて例のない高卒ドラ1が誕生した。未完の大器は「本物の怪物」へと進化できるのか。新著『投げない怪物 佐々木朗希と高校野球の新時代』で激変する高校球界の実情を描いたノンフィクションライター・柳川悠二氏がレポートする。


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 大船渡(岩手)の163キロ右腕・佐々木朗希の指名に踏み切ったのは、以前から公言していた北海道日本ハムを含むパ・リーグの4球団──。事前の情報戦では、過去最多に並ぶ8球団とも、それ以上とも噂されていた。他の投手に指名がばらけたというよりは、佐々木の育成に自信が持てない球団が指名を回避したと考えるべきだろう。千葉ロッテに交渉権が決まっても、表情を変えない佐々木はこう第一声を発した。


「これがスタートラインだと思います。千葉ロッテは、12球団で一番、応援が凄いかなと思う。自分の武器はストレートですが、これだけでは通用しない」


 この春から佐々木を追い続ける中で、私が最も衝撃を受けたのは韓国・機張で開催されたU-18野球W杯で目撃した一球だった。初の世界一に向け、負けられない韓国戦、初回の投球練習中の4球目だった。それまで脱力して投げていた佐々木が、突如、左足を高々と上げ、大きく体重を乗せて踏み出すと、目一杯に右腕を、鞭のようにしならせた。その球速は自身の最速(163キロ)に迫るものだったように見えた。


 160キロを超える直球は、150キロのボールと比べても、プロペラ機とジェット機ぐらいにスピード感が違う。固唾を飲んで怪物の初登板を待っていた韓国のファンも、思わず叫声を上げた。それほどまでに、佐々木のこの一球が異次元に映ったのだ。


 ところが佐々木はこの回を19球で投げきったところで、降板する。理由は右手中指の血マメの悪化。本人は詳細を明かさなかったが、私は“あの一球”で血マメが破れたのではないか、と推察している。降板する際、佐々木のユニフォームの右太もも部分は、血に染まっていた。163キロのボールは諸刃の剣だった。デリケートな身体だと自ら証明するように、世界の舞台でも不完全燃焼に終わってしまった。




◆巨大な「先行投資」


 一方、3球団が競合し、東京ヤクルトが交渉権を獲得した石川・星稜の奥川恭伸は、あまりに対照的な存在だ。甲子園には春夏通算4回出場し、今夏は準優勝に輝いた。150キロを超える直球、大きく曲がるスライダー、ストンと落ちるフォークを狙ったコースに投げ分ける。W杯でも、7回18奪三振(カナダ戦)という衝撃の投球を見せた。


 4月の高校日本代表第一次選考合宿で初めて対面したふたりは、実力を認め合う仲となった。W杯が開催された韓国で、佐々木は奥川を「おっくん」と呼んで慕い、いつも奥川の姿を探し、投球練習でもわざわざ奥川が使用したマウンドが空くのを待つほどだった。佐々木は奥川について、「器用なところや、頭の良さ、変化球の精度。それは自分にはないもの」と話した。その言葉は両右腕へのプロのスカウトの評価に通じる。


 素材の佐々木、即戦力の奥川──。ある程度、計算の立つ奥川と違い、佐々木の交渉権を獲得した千葉ロッテに求められるのは、選手生命を脅かしかねない163キロの球速に耐えうる肉体の育成だ。前例のない挑戦となるがゆえに、指名を迷った球団もあったであろう。


 プロで活躍するには、あまりにデリケートな身体ではないか。率直な疑問を“平成の怪物”を育てた名伯楽にぶつけた。1998年のドラフトで西武に1位指名され、1年目から16勝5敗という成績で新人王に輝いた松坂大輔を、横浜高校時代に同校野球部長として鍛え上げた小倉清一郎氏だ。


「佐々木ほどスケールの大きな投手はこれまで見たことがない。身体はまだまだで、足腰も鍛えられていないが、フォームをいじる必要性を感じない。血マメができやすい体質は、それだけ投球時、指先に力が伝わっている証拠。プロに行けば豊富な治療法がある。心配はないだろう」




 もちろん、高校時代に小倉氏が猛練習を課していた松坂のような1年目からの活躍は見込めず、「大きな先行投資になる」としたが、その上でこう付け加えた。


「松坂はプロ1年目が一番良かった。その後、野球を舐めちゃったからああなった。その点、佐々木はそういう心配はなさそうだね」


 成長痛や腰の疲労骨折で投げられない時期が長く、大船渡でも慎重に、慎重に起用されてきた。忸怩たる思いもあったであろう佐々木は、たしかに“野球を舐める”という思考とは無縁に思える。あとは球団があくまで「先行投資」として、辛抱強く育てられるかだ。佐々木が真の意味で“令和の怪物”と呼ばれる日は訪れるだろうか。そうなって初めて、佐々木の交渉権を獲得した千葉ロッテは2019年のドラフトの勝者になる。


撮影■藤岡雅樹


※週刊ポスト2019年11月1日号



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