【MotoGPコラム前編】90%が心理戦のバイクレース。日本GPの燃費問題も克服した王者マルケスの強さ

10月25日(金)22時9分 AUTOSPORT web

 イギリス在住のフリーライター、マット・オクスリーのMotoGPコラムをお届け。第16戦日本GPの舞台となるツインリンクもてぎは燃費に厳しいサーキットと言われており、王者マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)もこの問題の対処に悩んでいた。そんなマルケスは、決勝を燃料ギリギリの状態で制し、ホンダにコンストラクターズタイトルをもたらした。そんな日本GPでのレースをオクスリーが分析する。


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 MotoGP第16戦の舞台となるツインリンクもてぎでは、他のどのMotoGPサーキットよりも燃料が消費される。それがレース勝者のマルク・マルケスがフィニッシュライン通過後にマシンを停めた理由だ。


 マルケスは日本GPで最高峰クラス54勝目を上げた。これはマイケル・ドゥーハンが1990年9月から1998年10月までの間に500ccクラスで達成した54勝に並ぶ記録だ。ホンダのマシンでこれ以上の勝利を飾ったライダーは他にいない。

日本GPを制したマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)
日本GPを制したマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)


 マルケスの2019年シーズン10勝目は、4戦連続優勝の4戦目にあたる。言い換えればマルケスは、決勝日の朝に目を覚ましたライバルたちに、今日2位になるのは誰だろうかと考えさせ始めてしまっているのだ。これはまさにドゥーハンが好んでやったことだ。


 ドゥーハンが、バイクレースは90%が心理戦だと語っていたのはよく知られている。そうして、バイクに乗る前から、ライバルたちを負かすことができるという。ファビオ・クアルタラロ(ペトロナス・ヤマハSRT)がヤマハYZR-M1に乗ってピットレーンから出て行く前から負けていたとは私は思わないが、現王者マルケスに打ち勝つためにクアルタラロが何を試したにしろ、それはあまり役には立たなかったようだ。


■マルケスが抱えていた唯一の問題


 なお、マルケスにとって日本GPで唯一問題になりかけたのはガス欠だ。この問題により、1998年にホンダ設立50周年を記念して建設されたホンダのホームサーキットで少々恥ずべき結果となる可能性があった。


 ツインリンクもてぎのコースレイアウトは他のどのMotoGPサーキットよりも多くの燃料を消費させる。バイクは毎周回、5カ所の低速ギヤコーナーの立ち上がりで加速する際に燃料を燃やすことになる。ツインリンクもてぎに近いところまでMotoGPマシンの22リットル燃料タンクを空にするサーキットは、第9戦オーストリアGPの舞台となったレッドブルリンクだ。


 レッドブルリンクでは毎周回、3回のドラッグレースがあるようなものなのだ。また開幕戦カタールGPの舞台となったロサイル・インターナショナル・サーキットでは、酸素量が多い夜間の気温下で、バイクのエンジン管理システムを燃料をより消費するようなセッティングにする必要がある。


 決勝日、マルケスは燃料がギリギリであることを常に承知していた。実際にマルケスは、第13戦サンマリノGP、第15戦タイGPでやったことをやるべきかどうか真剣に考えていた。それは、レース中にライバルのスリップストリームを活用して燃料をセーブし、フィニッシュ間近で攻撃に転ずることだ。


 だが、マルケスは決勝日朝のウォームアップ走行でバイクに非常に良い感触を得ていた。そのため、マルケスは最初の数周で全員を引き離し、その後はホイールスピンを最小限にしてスムーズに走り、燃費消費の管理に集中することにした。ホイールスピンほど燃料を無駄に消費することはない。なぜなら前に進む代わりにタイヤをスピンさせることに燃料を使うことになるからだ。

最初の数周で全員を引き離したマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)
最初の数周で全員を引き離したマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)


 それにもかかわらず、最後から2周目半ば、あと約7.2kmを残すところで、マルケスのホンダRC213Vの燃料アラームが作動した。この時点でマルケスは2.3秒差で首位につけていたが、次の半周でクアルタラロに対し0.5秒を失い、最終ラップではさらに1秒失った。


 今になって、マルケスはレースをすべてをコントロールできていたと言うのは簡単なことだ。だが燃料とタイヤのラバーが少なくなっている状況で、クアルタラロのような才能あるライダーが後ろに迫ってくることは、いい気分にはならないだろう。


 しかし、マルケスは気が休まらなかったとしても、そのことをレース後に明らかにすることはなかった。繰り返すが、バイクレースは心理的側面が(ほとんど)すべてなのだ。

レース後のパルクフェルメで笑顔を見せるマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)
レース後のパルクフェルメで笑顔を見せるマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)


■共通ECUによって増えたライダーの仕事


 こうしたことはどれも数年前には起きなかった。ドルナがローテクでライダー任せのソフトウェアを導入した2016年以前、燃料消費などの厄介な物事はバイクに取り付けられた小さな黒い箱が処理していた。


 そのためライダーはバイクをできるだけ速く走らせるという本来の仕事に集中でき、燃料をセーブすることを考えなくてもよかった。なぜならエンジン管理システムがすべてをやってくれたからだ。バイクのコンピュータは、ライダーがフィニッシュラインに至るまでに燃料を使いすぎていると計算すると、単純にトルク伝達量を減らすようになっていたため、燃料消費も減る仕組みになっていた。


 ライダーはこれを非常に嫌っていた。最後の表彰台圏内を賭けた必死のバトルの最中に自分がいるところを想像してみてほしい。最終ラップでライバルをどうにかして抜こうとしている時に、エンジンが不思議なことに数馬力を失い、それに対して何もできることがないのだ。できることはライバルに負けて、不機嫌にピットレーンに戻ることだけで、表彰台のパーティに招かれることはない。


 現在のやや低性能(神に感謝だ)なエンジン管理ソフトウェアは、この仕事をライダーの脳と右手首に戻すことになった。だから、ライダーは単にバイクのスロットルを開けること以上のことをまた考えなければならなくなった。


 MotoGPはバイクレースであり、燃料走行をするなどナンセンスだと不満に思うかもしれないが、レースというものは常にこういうものだった。何十年もの間、本当に多くのライダーたちが、チェッカーフラッグに到達する前に燃料を消費し尽くして、レースを失ってきた。レースというものは、スロットルをできるところまで開けることが重要なのではない。それ以上に複雑なものなのだ。


【後編に続く】


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