【三浦愛の突撃ドライビング取材/第6回】小林可夢偉選手に聞く、何事においても“極める”ことの大事さ

2021年10月27日(水)18時30分 AUTOSPORT web

 2021年もスーパーフォーミュラのピットリポーターを務めるほか、レーシングドライバーとしてスーパー耐久をはじめとしたさまざまなカテゴリーに参戦中の三浦愛さん。今シーズン、オートスポーツwebでは、三浦さんの目線で気になるスーパーフォーミュラドライバーに突撃取材を敢行し、同じドライバー目線で気になることをぐいぐい質問していく企画『三浦愛の突撃ドライビング取材』を不定期でお届けしております。


 第6回目の取材ターゲットはKCMGの小林可夢偉選手です。2012年のF1日本GPでは日本人史上3人目となる3位表彰台を経験し、今ではさまざまなレースで活躍中。今年もスーパーフォーミュラだけでなくWEC世界選手権やデイトナ24時間レースなど、国内外のレースに挑戦し、8月に開催されたWEC第4戦/第89回ル・マン24時間レースでは念願の初優勝を飾りました。


 そんな可夢偉選手にとって、今季最初で最後のスーパーフォーミュラ参戦となった第6戦もてぎ大会にて突撃取材を決行! 三浦さんが可夢偉選手に聞きたいこととは?


「可夢偉選手は世界で戦う日本人ドライバーのひとりですので、ぜひお話を聞きたいと思っていました。また、私と同じ関西出身というところで勝手に親近感も持っていました。私の兄もカートをやっていたのですが、可夢偉選手と一緒に走っていて、そのころから可夢偉選手はすごく速くて、ひとつ抜け出た存在だなと思っていました。今までも何度かお話はしたことあるのですけど、詳しく話したことはなかったので、どういうふうな戦い方で世界の頂点までいったのかを聞きたいです!」


 それでは、三浦愛さんと小林可夢偉選手のドライバーズトークをお楽しみください!

2021スーパーフォーミュラ第6戦もてぎ 小林可夢偉(KCMG)


* * * * * * * * *


【世界を転戦する小林可夢偉選手、気になる食生活は?】


(この取材前に可夢偉選手がチームホスピタリティのお菓子を食べるところを見た三浦さん……)


三浦:お菓子とか、食べるんですね? 


可夢偉:普通に食べますね。


三浦:食生活とかはどうしているのですか?


可夢偉:食生活を気にしているというよりも、必要なものをお金でごまかしています。


三浦:……と、言うと?


可夢偉:ドリンクとかですね。たとえば、お弁当で野菜が足りないなと思ったら、それを補うためのジェルとか、酵素のドリンクなどで栄養を摂るようにしています。その代わり、量はあまり食べないです。


三浦:じゃあ、そんなに我慢して節制する、とかではないのですね。


可夢偉:全然しないです。


三浦:可夢偉選手は海外での生活が長いので、どのようなな食生活なのかなと気になっていました。


可夢偉:海外の方が楽ですよ。野菜だけしっかり摂って、あとは適当にお肉を食べておけば、基本はなんとかなります。逆に日本の方が野菜が全然摂れない印象で大変です。


三浦:なるほど……(食べ物で)好き嫌いはないのでしょうか?


可夢偉:ないです。昔は嫌いなものがいっぱいあったけど、この歳になったら、正直『どうでもいいことだな』と思い始めてきました。


 例えば、1週間何も食べられなかったら、嫌いなものでも食べるじゃないですか。そういう意味です。これを食べたくないとかは、どうでもいいなと思うようになりました。だからと言って、無理して食べる必要もないなと思っています。

小林可夢偉(KCMG)


【何事においても“極める”ことの大事さ】


三浦:可夢偉選手は会見でのコメントや、取材記事などを見ていても、本当に飾らないというか、自分が思ったことを言うし、行動しているなという印象ですけど……自分のなかで、ためらったりすることはないのですか?


可夢偉:いやいや、人生“ためらい”ばっかりですよ!


三浦:そうなのですね!


可夢偉:ためらうというか、逆にためらう理由があるのか? というところですよね。自分が正しいと思っているのであれば、しっかりと言うべきだし、なぜ正しいと思っているかも本来は言うべきです。


 そこで、ためらうのは『自分が間違っているかもしれない』という不安があるわけです。じゃあ、なぜその不安を自分のなかでクリアにしないのか? というところだと思います。


三浦:なるほど……。


可夢偉:不安な要素があって、それがモヤモヤしたままだから、ためらったまま終わってしまうのだと思います。自分がためらっているなと思ったときに、どうやったら自分が思っている方向につなげられるのか? それは自分でいろいろ調べたりして裏付けになるものを見つけて、相手を納得させるまでやるしかないです。中途半端なままためらっていたら、“ためらい人間”になってしまいますからね。


三浦:それは自分の詰めが足りないということですね。


可夢偉:そういうことです。それが自分のなかでなぜためらいになるのかを考えて、基本的にはやりきった方がいいです。たとえば『これ、面白そうだな』と思ったことでも実際にどうしたらいいかわからないこともあるじゃないですか。それを最後まで極めなかったら、わからないままですけど、いろいろなことを極めていれば「これをこうやれば、つながるな』とか、けっこう道筋が見えてきます。


三浦:なるほど、極める……ですね。


可夢偉:それが結果的に人生経験になって、スキルになっていきます。レースとはぜんぜん関係のないことでも、そうやってほかのことを極めていけば『こういうところはレースで使えるな』というものにもつながります。だから、物ごとを“極める”ってすごい大事です。


 たとえば、会社が倒産した人もいっぱいますけど、もう一度復活して、お金持ちになっている人もいます。それに対して『お金持ちになりたい!』と言っているだけでは、一生実現できない。その違いは何なのか……極め方を知らないからです。“極める”と言うことに対して、どこまでやり切るのか?というのができていないから、結局は言っているだけになってしまいます。


三浦:何でも極めると言うのが大事なのですね。


可夢偉:極めるというか、調べて理解する……まずはそこが大事ですね。


三浦:ちなみにレース以外で極めたこととかありますか?


可夢偉:けっこう何でもやっています。それこそ、ピットの裏に用意しているキャンピングカーもそうです。


三浦:あ、これ富士24時間のときに使わさせてもらいました!


可夢偉:これも、まずは自分で使ってみて、極めるところから始めてみて『どうしたら、もっと快適になるだろう?』というのを考えながら使っています。


 実はこれ、メンテナンスをするのにメカニカル的な勉強が必要なのです。たとえば、電気を動かすのに何ボルトで、何ワットで、何アンペアで……というのを調べながらやっていると、そこで得た知識とかで、レースで電気系のトラブルが出たときにすぐに察知できたり、役立ったりすることもあります。


 難しいからやめるのではなくて、極めることによって、どこかで意味があるものにつながります。


三浦:そういう考え方とか、マインドというのは小さいころからあったのでしょうか? それとも世界で戦ううちに変わっていったり、成長していったものなのですか?


可夢偉:成長したというか、すごくラッキーな時代に生まれたなと思います。今はインターネットで調べたら何でも答えが出てきます。だから、難しいことではないです。


 実際に調べもせずに『面白そうだね』とだけ言って、物ごとを終わらせている人もいます。せっかく興味が湧いているのに、自分から調べたり、質問ができないことは、すごくもったいないなと思います。そういうところで人の知能はすごく差がついてきます。


 昔なら、図書館に行って調べるとか、どこかに問い合わせて調べるとか、誰かにお金を払って教えてもらうのが当たり前でしたけど、今はお金を払わなくてもインターネットが一定のことを教えてくれる時代です。だから、調べない人ほど差がついてくると思います。


三浦:なるほど。そういうのが、レースにもつながってくるのですね。


可夢偉:そう思います。そうやって日頃から頭を使って勉強するというのは大事なことです。


三浦:……納得です。


可夢偉:勉強せずにというか、考えずして速く走るというのは不可能ですからね。

2021スーパーフォーミュラ第6戦もてぎ 小林可夢偉(KCMG)


【“自分のキャラ”を知ってもらうことの重要性】


三浦:ちなみに、日本のレースと海外のレースで、取り組み方とか、ドライバーの意識などで違うところはありますか?


可夢偉:その国によって違います。メンタル面に関しては、普通というか、不安に思うことはないですけど、レースの作り方というところでは国々によって違いますね。


 アメリカはエンターテイメント寄りですね。イコールとかフェアとか、そういう話ではなく“お客さんを楽しませるためにこういうルールにする”というのがマストだし、その上でやらないといけません。


 人の考え方というか、アメリカとかだとレースが終わってご飯に行こうとなると、ワインが飲めないといけません。アメリカ人のオーナーとかスポンサーはだいたいワイン畑を持っています。だから、ちょっとくらいワインの知識があって、ある程度語れないと、コミュニケーションが始まりません。


三浦:そうなのですね!


可夢偉:ヨーロッパはそこまでではなくて、割と真面目な方ですけど、アメリカの場合はそれでコミュニケーションがとれます。それができないと、人脈が広がらなかったりします。


 それは別に営業とかでも何でもなく、スポーツ選手だから飲まないってなったら、そこから広がりがない。自分から進んでやることで、向こうも目で話してくれるようになるから、つながりが広がりやすくなります。


三浦:速く走る以外の部分でも、やらなければいけないことは多いのですね


可夢偉:僕みたいにひとりで行く場合はそうですね。アメリカとかも自分で交渉してやっています。まずは人間性を知ってもらうということが大事だと思っています。


三浦:すごくざっくりな質問になりますけど、世界で戦うために必要なことは、まずレースで結果を出すことだと思いますが、そのために技術的にこういうものがないといけないみたいなものはありますか?


可夢偉:正直、僕の場合はアメリカに行こうが、ヨーロッパに行こうが、日本でレースをしようが、自分のキャラのままでレースをしていると思います。アグレッシブに行かなきゃいけないときに、だいたい(チームは)僕を使ってきます。それが日頃からそういうキャラクターになっていて、わかりやすいです。だから、相手からしたら扱い方がすごい楽だと思います。


 仕事をするということは、他人をだし抜こうとするとするのではなくて、この状況になったら自分を100%使ってくれるインスピレーションを常に相手に与えるという。そのインスピレーションがあれば、信頼して仕事をくれるし『最後ここが勝負だ』というときに任せたら、何とかやってくれると思ってもらえるようになります。それも日頃から周りと接する時の会話から始まっていることです。


三浦:そうなのですね。


可夢偉:トータルでいろいろなものが必要なのです。『これ以上は無理だ!』って言ったら、『そうだよね』って向こうも理解してくれます。そこはプロフェッショナルとしてコントロールしなきゃいけないのだけども、壊れるまでやるのではなく、『これ以上は無理だから、ここまでは攻めた』というのはちゃんと見せなきゃいけません。そういうひとつひとつのことが人間関係につながります。


 僕たちは勝つために仕事をもらっているわけだから、仮に勝てなかったとしても『ごめんね。ちょっと足りなかったね』という一言があるだけでも、人間関係はぜんぜん変わってきます。


 彼らも僕も、求めているものは勝つことです。勝ったら『よくやった!』となりますけど、勝てなかったときに、誰かを責めるのなくて、『僕にもっと何かできることはなかったか?』ということを常に考えて、次につなげる。結局、それが人間関係につながります。


三浦:…………あ、ありがとうございます(←圧倒されまくっている三浦さん)


可夢偉:なかなか難しいけど、そういう世界です。


三浦:具体的なドライビングのこととか聞いていないですけど、いろいろ勉強になりました!


可夢偉:僕にドライビングのこととかは聞かない方がいいですよ!


三浦:そうなのですか? 確かに天性というか才能で走れているのかなと、遠目に見ていて思っていたのですが、でも速く走るためにいろいろなことをしているのですね。


可夢偉:最初は感覚派ではありました。でも、感覚だけでは走れない世界なのですよ。だから、早い段階で頭を使うようになりました。『なぜこうなのだろう?』という疑問を持ったら、ずっとそれをやらないと気が済まないタイプだから、それが経験になって、今こうなっているのだと思います。


三浦:ありがとうごます!! 最後にお決まりの質問なのですが、師匠みたいな人はいますか?


可夢偉:いない!


三浦:ということは……一匹狼みたいな感じですか?


可夢偉:決して一匹狼ではないけど、師匠という感じで何かを教え込まれたことはないですね。正直言うと、いろいろな人がさまざまなことを教えてくれたから、誰かひとりを挙げることができないです。


 ただ、僕が思うのは、誰かが“こうだよ”と教えてくれたから、それをやり続けているというのは、今はすごく時代遅れだなと思っています。特に今は時代が変化していくスピードがものすごく速いです。20年前に主流だったことを今やっても時代遅れかもしれないし、その人を超えられないかもしれません。


 そもそも、誰が師匠というのは考えないです。これから自分がやったことを、もっと若い人に伝えていかなきゃいけないです。“師匠が言っていたから”というのはないです。“走り方はこうだ”と言える人はなかなかいないですからね。


三浦:なるほど……ありがとうございます!

同じドライバーとして、気になるポイントをぐいぐい突っ込む三浦愛さん


【インタビューを終えて/三浦愛さんの感想】


「可夢偉選手は天性の才能で走っているのかと思っていたのですけど、やはり世界に行く人は、とことん突き詰めて、誰に何を言われても、“自分はこれだけやってきた”と言う確固たる自信を持って走っていました。私はけっこう不安になりやすい方です。それって、可夢偉選手が言っていたように、自分の詰めが甘いから不安な気持ちが出てきてしまうというのは、確かにその通りだなと思いました。“極める”ってすごく大変だし難しいけど、それができた人だからこそ、今こうして活躍されているのだなというのを、改めて話を聞いて痛感しました。外から見ていたときよりも、可夢偉選手の印象が変わりました!


 次回もスーパーフォーミュラに参戦するトップドライバーに、突撃インタビューを予定。今度は誰に、どんな質問をするのか……お楽しみに!


【プロフィール】
三浦愛(みうら あい)

1989年生まれ。レーシングカートで実績を重ね、フォーミュラ・チャレンジ・ジャパン、全日本F3選手権などに参戦。2014年には全日本F3Nクラスで日本人女性初優勝を飾った。2021年はスーパー耐久、フォーミュラ・リージョナル・ジャパニーズ・チャンピオンシップに参戦しつつ、スーパーフォーミュラではテレビ中継の現場解説を務める。
三浦愛 公式HP:https://ai-miura.com/

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