チップ・ガナッシのハマーは初優勝目前に散る。ロズベルグ率いるRXRが3勝目/エクストリームE第4戦

2021年10月28日(木)7時10分 AUTOSPORT web

 10月23〜24日に第4戦『Island X Prix』としてヨーロッパ地域での初開催ラウンドを実現した2021年創設の電動ワンメイクSUVによるオフロード選手権Extreme E(エクストリームE)は、山火事被害に苦しんだイタリア・サルディニア島を舞台とする初の“ウエット”ファイナルが争われた。


 その決勝では初日から速さを見せながらアクシデントやトラブルに苦しんだ現役F1王者ルイス・ハミルトン創設のX44や、決勝で終始リードを奪ったSEGI TVチップ・ガナッシ・レーシングらが次々と姿を消す波乱の展開を尻目に、開幕から連勝を飾っていたニコ・ ロズベルグ率いるロズベルグ・Xレーシング(RXR)のヨハン・クリストファーソン/モリー・テイラー組が、シリーズ独走体制を築く3勝目を挙げている。


 本来なら当初カレンダーに組み込まれていた南米2連戦が予定されていたエクストリームEは、新型コロナウイルス(COVID-19)感染症蔓延による渡航制限などの影響を受け、南半球ラウンドのキャンセルを発表。新たにヨーロッパ初開催イベントとしてイタリア・サルディニア島での1戦を代替地とすることを決めた。


 シリーズのコースダイレクターを務める元DTMドイツ・ツーリングカー選手権2冠のティモ・シャイダーと、ERCヨーロッパ・ラリー選手権やラリークロス競技で活躍するタマラ・モリナーロにより設定された全長7kmのコースは、スタート直後から複数のレーンを選択可能なユニークな構成に。


 その後は勾配の厳しい岩場やガレ場が続き、ウォータースプラッシュではシリーズにワンメイクタイヤを供給するコンチネンタルの名を冠した“トラクション・チャレンジ”エリアも設定され、高速な砂のサーフェースから急降下のダウンヒルセクションを経て、男女ペアが1周ずつで交代を行うスイッチゾーンに戻る設定となった。


 そんな周回コースをいち早く攻略し、土曜予選ラウンドから速さを見せたのはWRC世界ラリー選手権“ナイン・タイムス・チャンピオン”のレジェンド、セバスチャン・ローブとクリスティーナ・グティエレスのX44で、日曜最初のセミファイナル1でもセッション制覇の筆頭候補と考えられていた。


 しかしグリーンライト直後のレーン選択でティミー・ハンセン(アンドレッティ・ユナテッド・エクストリームE)が、ライバル勢の鼻先を掠めるようにして先行。この際わずかなコンタクトからバランスを崩したサラ・プライス(SEGI TVチップ・ガナッシ・レーシング)に続き、WorldRX世界ラリークロス選手権の2019年王者にヒットしたX44のグティエレスは、速度を乗せた状態で岩に激突しマシンが大破する事態に。


 このアクシデントでハンセンも左前輪を破損し、最大出力400kW(約544PS)の電動パワートレインを搭載したワンメイク車両『オデッセイ21』の2台が早々にリタイアを喫するとともに、第3戦勝者のアンドレッティ・ユナイテッド・エクストリームEにはペナルティが課せられ、ヒート最下位に降格することに。


 この結果、混乱をくぐり抜け勝利を飾ったプライスとカイル・ルデュックのチップ・ガナッシ組と、2位に昇格したX44がファイナル進出枠を確保する波乱の展開となり、損傷を受けたX44の車両は時間内に修復するため作業が山積みという大きな課題を抱えることとなった。


 同様にセミファイナル2からはユタ・クラインシュミット(アプト・クプラXE)の活躍により初のファイナル進出を決めた『e-CUPRA ABT XE1』と、盤石のコンビネーションを見せたRXRが順当に決勝へと進出。


 そして敗者復活とも言うべき最後の1枠を賭けた“The Crazy Race(クレイジーレース)”のヒートからは、こちらも元F1王者のジェンソン・バトン率いるJBXEが前戦に引き続き勝利を収め、大逆転での決勝進出権を獲得した。

全長7kmのコースは、スタート直後から複数の“レーン”を選択可能なユニークな構成に
練習走行から予選と速さを見せつけた現役F1王者ルイス・ハミルトン創設のX44だが、そのスピードが仇になったか
グリーンライト直後のレーン選択では各陣営の駆け引きが見られ、アクシデントも多発する事態に


■左側のドアを失ったが、チーム初の表彰台を獲得


 現地日曜の午後16時開始となったファイナルは、直前の大雨によりシリーズ史上初のフルウエット・コンディションとなるなか、アンドレッティ・ユナイテッドがメカニックを派遣して修復作業に協力したX44のマシンも、無事スタートラインに並ぶことができた。


 セミファイナルでも明暗を分けるセクションとなったレーンに向け、電動車両でまさかのストールを喫して出遅れたクラインシュミットを除く4台がダッシュすると、まずはX44が先頭で最初のコーナーにたどり着く。しかし、ここで別ルートを選択したルデュックのハマーがX44のローブを出し抜き、トップへと躍り出る。


 STCCスカンジナビアン・ツーリングカー選手権唯一の女性ウイナーで、今季はドライバーズランキング2位を獲得したミカエラ-アーリン・コチュリンスキー(JBXE)が中盤スピンを喫して遅れると、スロースターターとなった“砂漠の女王”ことクラインシュミットが反撃を開始し、RXRの元オーストラリア・ラリー選手権王者テイラーと3番手争いを繰り広げる。


 すると前を行くローブのマシンに異変が生じ、スローパンクチャーによりペースダウン。テイラーとクラインシュミットの女性ラリースト同士のバトルは2番手争いへと変化し、その後にX44のマシンはステアリングを破損してリタイアを強いられてしまう。


 その間、印象的なリードを構築したルデュックが大量のマージンを維持したままドライバーミックスゾーンに飛び込むと、ステアリングを引き継いだプライスは快調にハマーを飛ばしていく。


 シーズン前半戦はトラブルやアクシデントなど不運続きだったチップ・ガナッシに、ようやく初の栄冠が舞い込むか……と思われたそのとき。岩にヒットした衝撃で電動パワートレーンのターミナル部にダメージを受けたハマーは、敢えなく優勝戦線から脱落。


 これにより首位を引き継いだRXRのクリストファーソンが盤石のシリーズ3勝目を持ち帰り、左側のドアを失う状況でも快走を見せたマティアス・エクストロームが2位に続いて、アプト・クプラXEに待望の初表彰台をもたらした。


「僕がマシンを受け取ったときは2番手で、かなり孤立した状態だった。もちろん背後にはマティアス(・エクストローム)がいたけど、オーバーテイクは難しいだろうと知っていたんだ」と語った勝者クリストファーソン。


「その直後に、前を行くサラ(・プライス)のステアリングが壊れたと聞いた。だから慎重にも慎重を期してマシンをフィニッシュさせることに集中した。今回もリスク管理で絶大な仕事を達成したモリー(・テイラー)の働きに尽きる。こうして勝利を持ち帰ることができて最高の気分だよ」


 これで初年度“シーズン1”の全5戦中4戦を終えたエクストリームEは、直近の10月初旬にもアナウンスされた新たなフィナーレの地、イギリス・ドーセット周辺の陸軍基地施設をベースとした『the Jurassic X Prix(ジュラシックXプリ)』で、12月18〜19日に最終戦を迎えることになる。

「路面はかなり滑りやすく、最初は判断が難しかった」と語るRXRのモリー・テイラーだが、ファイナルでも見事にバトンをつないだ
ミカエラ-アーリン・コチュリンスキーとケビン・ハンセンのJBXEは、ライバル勢の脱落もあり連続の3位表彰台を獲得
開幕からの連勝を含め、4戦3勝とシリーズ争いを優位に進めるヨハン・クリストファーソン/モリー・テイラー組

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