鹿島の次世代担う昌子源。“常勝軍団”復活へ、若きDFリーダーが背負う使命感と覚悟

11月5日(木)10時26分 フットボールチャンネル

“巨漢”パトリックを封じた昌子

 10月31日に埼玉スタジアムで行われたナビスコカップ決勝でガンバ大阪を3対0で一蹴し、大会最多となる6度目の優勝を果たした鹿島アントラーズ。2012年シーズンのナビスコカップ制覇から約3年。Jリーグ史上で歴代最多となる通算17個目の国内主要タイトルは、22歳のディフェンスリーダー、昌子源とはじめとする次代を担う世代の成長と自覚を加速させ、常勝軍団の哲学と伝統を紡がせていく。

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 ピッチの上に這いつくばらされ、尋常ではない首の痛みを必死にこらえながら、昌子源は大いなる手応えを感じていた。

 アントラーズが3点をリードしたまま、時計の針が後半44分を回った直後だった。ガンバのクリアボールに判断よく飛び出し、ヘディングで弾き返そうとした昌子がアクシデントに見舞われる。

 死角となる背後から左肩をぶつけてきたのはガンバのパトリック。189cm、82kgの巨漢フォワードの悪質なファウルの標的となった昌子の頭が、あまりの衝撃で大きく揺れる。

「ホントに痛かった。完全に(首が)いったと思いましたから」

 ホイッスルを鳴り響かせた家本政明主審が、パトリックに近づいてくる。ラフプレーによるイエローカードが提示された瞬間に、怒りと焦りでパトリックが我を忘れていると昌子は確信した。

「ちょっとイラついたら本来のプレーができないというイメージが、特に外国人のフォワードにはありますけど、パトリック選手は性格的にも穏やかで何度かやらせてもらってきたなかでもまったく怒らない。そういう駆け引きをするのは難しいかなと思っていたんですけど、今日の試合に関してはすごく怒りを感じていた。ちょっとずつ僕と(ファン・)ソッコのペースに誘いこめたのかなと」

 ナビスコカップ連覇を狙ったガンバの「4‐2‐3‐1」システムを取り、ワントップにパトリック、中盤の左サイドに宇佐美貴史を配置していた。ガンバの攻撃パターンをインプットしたうえで、昌子は不退転の決意を胸中に秘めてキックオフに臨んだ。

「パトリック選手がウチで言う左側に流れて、宇佐美選手は右サイドに流れる。2人が左右に開く特徴があるので、僕が左のセンターバックに入った時点で、パトリック選手とやらなあかんなというのは覚悟していました。そこで負けたら、絶対にチーム自体がやられてしまうとも」

蘇る苦い思い出…敗戦が優勝の糧に

 苦い思い出がある。昨年10月5日。ホームのカシマスタジアムにガンバを迎えたJ1第27節で、パトリックが仕掛けてくる空中戦と肉弾戦の攻撃のターゲットに定められた。

 2度のリードを奪うものの、オウンゴールとパトリックのゴールで追いつかれる。迎えた後半のアディショナルタイム。途中出場のFWリンスに勝ち越しゴールを決められて万事休した。

 メンタル的に打ちのめされた昌子は、肉体的にもダメージを負ってしまう。初招集されていたハビエル・アギーレ前監督に率いられる日本代表を、右太ももの負傷で辞退せざるを得なかった。

 同じ失敗は二度と繰り返さない。パトリックとのタイマン勝負の行方はアントラーズの勝敗を左右するだけでなく、この1年間に刻まれてきた昌子の軌跡が正しかったことを証明するものでもあった。

「ウチで言う左に流れてくるプレーを出させないために、わざと自分が一人だけ下がるなど、いろいろな駆け引きをしたつもりです。あれだけヘディングが強いので、たとえば常に先にジャンプしようとか」

 米子北高校から入団して4年目の昨シーズンから、昌子はディフェンスリーダーを拝命した。それまではリーグ戦での先発がわずか1試合。清水エスパルスを下した2012年シーズンのナビスコカップ決勝では本職のセンターバックではなく、左サイドバックとして大前元紀を止める役割を担ったこともある。

「若さや経験は気にしない」

 フロントが主導する形で推し進められた世代交代。その象徴が昌子であり、全34試合で先発を果たした昨シーズンは、大津高校から入団して2年目の植田直通と最も多くセンターバックのコンビを組んだ。

「若いとか経験がどうこうとよく言われますけど、僕とナオ(植田)はそういうことをあまり気にしない。お互いをカバーし合って、お互いの長所を生かし合っている。ナオは人に強いし、その武器を最大限に生かすには僕が背後をカバーしてあげるのが一番いい関係だと思っている」

 高さと強さに加えて経験が求められるポジションにおいて、合計年齢40歳のセンターバックコンビは異彩を放った。しかし、試合を重ねながら、昌子はこんな思いも募らせていた。

「連戦が続くと自分のいいパフォーマンスができる試合も限られてくるし、どうしてもベストコンディションで迎えられない試合も多くなる。非常に難しい状況でディフェンスラインを率いていく中で、僕自身はなかなか先輩と組む機会がなく、急に後輩を僕が支えなければいけない立場になった。いろいろな難しさというのは正直、覚えました」

ハリルホジッチ監督から飛ばされた厳しい檄

 他のJクラブの追随を許さないタイトル数を誇り、いつしか常勝軍団と呼ばれるようになったアントラーズの屋台骨を背負うことの難しさ。センターバックは黎明期から空中戦と地上戦で無類の強さを発揮する武闘派と、カバーリングとポジショニングに長けた頭脳派がコンビを組むことを伝統としてきた。

 自らは後者と信じて疑わなかった昌子の既成概念を、歯に衣着せない言葉ともに木っ端微塵に打ち砕いたのが日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督だった。

 待望の初キャップを獲得する3月31日のウズベキスタン代表戦の数日前。大分市内で行われていた短期合宿中のグループ面談で、積み重ねてきたスタイルに軒並みNGを突きつけられる。

「相手をリスペクトしすぎていると言われました。優しく当たりにいって、逆に相手にひじ打ちを食らっていると。試合中は常に強気でプレーして、激しくいきすぎたら試合後に謝ればいいとも言われました」

 秋田豊から岩政大樹と、歴代のディフェンスリーダーを務めたレジェンドの象徴だった背番号「3」を託された今シーズン。コンビを組む相手がサンフレッチェ広島から完全移籍で加入した韓国代表のファン・ソッコに代わっただけでなく、昌子自身のプレースタイルにも新たな項目がつけ加えられた。

 激しく、泥臭く。ハリルホジッチ監督の檄を受けて「ピッチの上に立てば、それこそ人格を変えてプレーしていくしかない」と考え方を改めた昌子の決意がピッチで体現されていた。

主力として初めて掴んだタイトルにも満足せず

 迎えたナビスコカップ決勝。空中戦でも地上戦でも、昌子はパトリックとの死闘のほとんどを制した。パトリックにボールが収まらなければ、宇佐美が逆サイドから仕掛けてくるパターンも、左右に開いたパトリックと宇佐美が作り出したスペースを倉田秋や阿部浩之が突くパターンも奏功しない。

 パトリックが昌子に見舞ったラフプレーはガンバの攻撃をけん引できなかったフラストレーションと、常に目の前に立ちはだかった昌子へのいら立ちが凝縮されていた。逆の見方をすれば、それだけ昌子の成長を物語っていたことにもなる。

「人にも強くいけないと、この先プレーの幅的にも広がっていかないと思うので。もっともっと、センターバックの幅というものを広げていきたい」

 昌子はパトリックを沈黙させた90分間を笑顔で振り返りながら、主力として初めて手にしたタイトルの重みをかみしめた。約3年間に及んだ無冠の期間を終焉させた喜びはある。それ以上に、一度だけの戴冠で満足することを、常勝軍団の歴史と伝統が許さない。

「間違いなくチームが前進するタイトルだと思うし、僕自身のキャリアのなかでも大きなタイトルだったかなとも思う。でも、これで常勝軍団が復活したとは、おそらくチームの全員が思わない。ここではさまざまなプレッシャーがある。タイトルが取れないと周りからいろいろな目で見られて、それこそタイトルに関わらなかったら弱いとまで言われるチームなので。

 もう23歳になる年ですし、僕たちももう若手じゃないと思っている。下にはもう何十人もいるわけで、そういう選手たちを僕や(柴崎)岳、(土居)聖真や梅鉢(貴秀)がしっかりと引っ張っていかないと。僕はもう中堅に入ったと思っているので」

“常勝軍団”で戦う使命感と覚悟を背負う昌子

 昨シーズンから公式戦で4連敗を喫していたガンバを、攻守両面で凌駕した直後。左足甲の骨折で戦列を離れている同期入団のMF土居聖真の「8」番が記されたユニフォーム姿で、昌子はチームメイトたちと喜びを分かち合った。

 全治から逆算すると、元日の天皇杯決勝には間に合う。土居自身も「絶対に戻るから」と昌子たちに勝利を託して治療に臨んでいたが、アントラーズは水戸ホーリーホックにPK戦の末に涙を飲み、まさかの3回戦敗退を喫してしまった。

「天皇杯を僕たちがなくしてしまったことが、すごく申し訳なくて。そういう気持ちも込めて、今日は聖真のためにも戦おうと決めていました」

 クレバーかつ冷静に、ときには激しく、熱くプレーするだけではない。神戸出身の昌子の心には、義理人情に厚い浪花節も脈打っている。そして、名門クラブを背負っていく使命感と覚悟も。

 決勝を観戦に訪れていた秋田豊氏から、試合後に「今日は完璧だったぞ」と声をかけられた。聞き逃してしまいがちな一文字の違いに、昌子は苦笑いを隠せない。

「今日も、じゃないんですよね。今日は、としか言われていないので」

 どんな状況でも常にベストのパフォーマンスを求められる宿命をエネルギーに代えながら、昌子は成長への歩を止めることなく、貪欲に前進していく。

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