【F1アメリカGP無線レビュー】「このバランスでは妥協を強いられる」フェルスタッペン、善戦も0.854秒及ばず
2019年11月7日(木)16時37分 AUTOSPORT web
2019年F1第19戦アメリカGPでは、逆転優勝を狙い1ストップ作戦を採ったルイス・ハミルトン(メルセデス)と、予定通り2ストップ作戦を実行したマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)の2位争いがレース終盤まで続いた。両者が限界ギリギリのところで争っていたバトルを、無線とともに振り返る。
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3番グリッドのフェルスタッペンは、スタートでフェラーリを抜いて2番手に浮上した。しかし前を行くバルテリ・ボッタス(メルセデス)と僅かに接触しフロントウイング翼端板にダメージを負った。
フェルスタッペン:ウイングをチェックしてくれ
レッドブル:了解。モード7、ストラット8
なんとかボッタスについていこうとするフェルスタッペンだったが、逆に後方のハミルトンからプレッシャーを受けることになった。
レッドブル:モード6に戻せ。前後のギャップはコンシステントになってきた。ハミルトンの後方7.5秒にルクレールだ
フェルスタッペン:彼がDRS圏内かどうかを教えてくれ
10周目にはハミルトンの姿が背後に見え、タイヤのグリップ低下も進んできた。実際にはフロントウイングよりもリヤタイヤ前のフロアのダメージの方が大きく、リヤのダウンフォースが抜けてバランスが前寄りになっていることはチームもテレメトリーデータで把握していた。
フェルスタッペン:高速コーナーでニュートラルになってきた
レッドブル:ダメージのせいでバランスシフトして前寄りになっているからだ。ハミルトンがバックストレートでDRS圏内だ
フェルスタッペン:このバランスでは妥協を強いられるよ
レッドブル:ハミルトンがDRS圏内。エンジン8ポジション8。少しだけパフォーマンスが向上するよ
ウイングのフラップ調整によるバランスの改善という意味も含めてレッドブルはフェルスタッペンを13周目に早々にピットインさせた。後方のフェラーリのペースが遅く3番手以下に下がることはなさそうだったため、当初の予定通りアグレッシブな2ストップ作戦を採った。
翌周ピットインしたボッタスにはアンダーカットを封じられ、コース上での追い抜きは難しそうだった。ということはステイアウトして第1スティントを引っ張り続ける1ストップ作戦のハミルトンとの戦いになる。
レッドブル:ハミルトンは1分41秒7。1ストップ作戦だと思われる。モード7
フェルスタッペンもボッタスのペースにはついていけないと感じており、照準をハミルトンに絞っていた。
フェルスタッペン:ハミルトンのペースは?
レッドブル:40.9
フェルスタッペン:今のところボッタスは僕より少し速い。あのペースでは走れないよ
24周目にハミルトンがピットインし、やはり1ストップ作戦を敢行してきた。タイヤのライフ的にはややギリギリだが、ハミルトンとしてはボッタスを逆転し優勝するためにこの可能性に賭けたわけだ。
メルセデス:残り32周。ここから最後まで走る。最後はフェルスタッペンとギリギリの争いになる。フェルスタッペンとは16秒、ボッタスとは21秒だ。1ストップで走り切るのはクリティカルだ。このラップタイムで走れば勝てるが、重要なのはこのタイヤを最後まで保たせることだ
ボッタスについていけず7秒のギャップを広げられたフェルスタッペンは、30周目を過ぎる頃にはハードのリアタイヤもダメになりつつあった。依然として空力バランスは前寄りで、さらなるフラップ調整が必要だった。
フェルスタッペン:全然ターンインしていかない。もうタイヤが終わっているよ
レッドブル:デフスイッチを使え
フェルスタッペン:ターン16〜17がガスティ(突風が吹いている状態)だ。タイヤに苦しみ始めたよ。レーシングポイント(ランス・ストロール)と同じラップタイムだ、抜くのに苦労している
レッドブル:彼はピットインしたばかりでソフトを履いているからだよ
フェルスタッペン:次のスティントはフロントウイングを下げてくれ。ターン2はもう全開で行けないよ
レッドブル:了解
フェルスタッペンは34周目に2回目のピットストップを行い、再びミディアムタイヤに履き替えた。
40周目を過ぎると前を行くハミルトンもフロントタイヤがタレ始め、ペースが鈍っていく。
フェルスタッペン:燃費はどう?
レッドブル:今のところOK。リフトオフはタイヤマネージメントのためだけだから君の判断でやってくれ。ターン17でリヤタイヤをケアし続けろ
ピットストップ後は15秒あったハミルトンとのギャップが、47周目にはいよいよメインストレート1本分になって来た。
レッドブル:前のハミルトンが(ターン1の)丘の頂上にいる。残り10周だ。2台のメルセデス勢のギャップは急速に縮まっているぞ
52周目にボッタスがハミルトンに追い付いて一気にパスし首位へ。フェルスタッペンもハミルトンを追うが、周回遅れに阻まれてなかなか差が縮まらない。もっとパワーをくれと懇願するフェルスタッペンだが、すでに使えるモードは使っていた。
フェルスタッペン:ガスリーに大きくタイムを失ったよ
レッドブル:OK、ハミルトンも同じだ
フェルスタッペン:これがフルパワー? フルパワーが必要だ
レッドブル:あぁ、今フルパワーだよ
しかしハミルトンも追い付いてくるフェルスタッペンに対して全神経を集中させている。
メルセデス:フェルスタッペンとのギャップは2.9秒
ハミルトン:そんなの見りゃ分かるよ、集中させてくれ!
残り数周というところでケビン・マグヌッセン(ハース)がバックストレートエンドでブレーキディスクを壊しグラベル上にストップ。これでダブルイエローがでてしまい、バックストレートエンドでの追い抜きが禁止となったばかりかDRSも使えなくなってしまった。
レッドブル:ターン12でダブルイエローが出ている。ターン1で抜く必要がある。そこでオーバーテイクボタンを使え
最後の力を振り絞ってハミルトン攻略に賭けたフェルスタッペンだったが及ばず、最後は0.854秒差で3位フィニッシュとなった。
レッドブル:オーライ、不運だったが君は良くやったよ
フェルスタッペン:あぁ、バックマーカーで信じられないくらい大きくロスしたよ。でも良い結果だ。これだけ接近戦を演じることができたんだからね
クリスチャン・ホーナー:本当に良い結果だったよ。あと数周あれば抜けていたはずだ
レッドブル:1周目のダメージによるバランスシフトがなければもっと上に行けたはずだ
フェルスタッペン:後で詳しく説明するけど、全体的に彼らの方が少し速かったよ
自身も久々に味わったメルセデスAMG勢との僅差のトップ争いに手応えを感じながらも、同時にメルセデスAMGの速さは認めざるを得なかった。それはコクピットで戦っていたフェルスタッペン自身が最も正確に感じ取っていたことだった。