コース全域で果敢なバトルを繰り広げたリカルドに敢闘賞【今宮純のF1メキシコ&アメリカGP採点】
2019年11月9日(土)7時10分 AUTOSPORT web
F1ジャーナリストの今宮純氏が独自の視点でドライバーを採点。週末を通して、20人のドライバーから「ベスト・イレブン」を選出。予選やレースの結果だけにとらわれず、3日間のパドックでの振る舞い、そしてコース上での走りを重視して評価する。今回はF1第18戦メキシコGP、第19戦アメリカGP編だ。
☆ ピエール・ガスリー(トロロッソ・ホンダ)
メキシコGP決勝=9位/アメリカGP決勝=16位
いっそう激しくなっている終盤の“中間チーム戦線”で、レッドブルにいたときよりも自力を発揮。フリー走行からトップ10内をしっかりとキープしQ3へ。アメリカGPのレース終盤ではセルジオ・ペレスとの接触がありサスペンションを破損。DNF(16位)に終わったがいまの彼は昨年以上にトロロッソ・ホンダを乗りこなしている。
☆☆ ランド・ノリス(マクラーレン)
メキシコGP決勝=リタイア/アメリカGP決勝=7位
初F1コースを二日目にはマスターする学習能力の早さがまさに速さにつながっている(シミュレーターでの“特訓効果”なのだろう)。鈴鹿からサインツに次ぐ連続予選8番手は驚く。アメリカGPスタートの1周目にはスペースを見切り5番手へ。そこからダニエル・リカルドとの攻防に没頭し、サインツとは異なる2ストップ作戦で7位入賞。マクラーレンにとって実に頼もしいルーキーだ。
☆☆ マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)
メキシコGP決勝=6位/アメリカGP決勝=3位
せっかくの才能を無駄にしてはいけない。メキシコGP予選での“黄旗振動無視事件”によってPPを自らダメにしてしまい、4番手スタートからまたも接触。アメリカGPでもそうだがダメージを負ったマシンであれほど走れるだけに、非常に惜しまれる。もう新鋭ではない百戦錬磨なのだから……。
■PP発進のメキシコでメルセデスに完敗したルクレール
☆☆ アレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)
メキシコGP決勝=5位/アメリカGP決勝=5位
メキシコGPでは初日にクラッシュ、そのミスを認めてしっかり結果を出しきるのは秘めたメンタルの強さ。フェルスタッペンとかなりタイム差があっても悩まずに受けとめ、自己啓発の糧にしているよう。挽回力をレースで示す連続5位で計84点(トロロッソでは16点)、ランク6位まで上昇。
☆☆☆ シャルル・ルクレール(フェラーリ)
メキシコGP決勝=4位/アメリカGP決勝=4位
内心、相当ストレスがたまる連戦ではなかったか。繰り上がりとはいえPP発進のメキシコGPを2ストップ作戦で行った結果が4位後退。アメリカGPではトラブルが多発し旧スペックPUに交換。レースでもチームが「原因不明」と言うタイヤ変調に苦しんだ末に4位。その鬱憤をはらすかのように連続最速ラップ樹立、今季4度目だ。
☆☆☆ カルロス・サインツJr.(マクラーレン)
メキシコGP決勝=13位/アメリカGP決勝=8位
20年に向けたパーツ・テストなど多くのプログラムをこなす彼は『走るエンジニア』。予選になればアタックを決め“BリーグPP”の7位を第17戦日本GPから3戦連続で獲得。メキシコGPではチームメイトともども決勝で苦戦したが翌週のアメリカGPでは10点追加。事実上これでルノーを38点リードするマクラーレンは5年ぶりの4位確定だろう。
☆☆☆ セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)
メキシコGP決勝=2位/アメリカGP決勝=リタイア
なによりアスリートとしてレーサーとして、V6戴冠決定のルイス・ハミルトンに表彰台前の控え室で祝福した行動は立派だ。V4をやりぬいた彼だからこそ、その偉業がよく分かる。なにかと批判対象になったシリーズ後半にも、ひたむきな彼の戦う態度に変わりはなかったと思う(イタリア・メディアの見方は厳しいが)。サスペンションが折れるまで全力疾走したアメリカGP、スクーデリアを引っ張っていくのは若いルクレールではなく、エースの任務である。
■確実性と安定性、ベテランらしい走りを見せる2019年のハミルトン
☆☆☆☆ セルジオ・ペレス(レーシングポイント)
メキシコGP決勝=7位/アメリカGP決勝=10位
トップチームには評価されずとも、フォースインディア時代からやるべきことをやりとおす。チームプレイヤーとして模範的な存在だ。母国メキシコGPのF1人気を毎年高め大観衆の前で7位入賞、トロロッソと同点。そして“1点勝負”がかかったアメリカGPではピットレーンスタートから10位入賞。逆転ランク6位は分配金に換算すれば、7番手とは“5億円(推定)”の差額になる。新メルセデスPUを彼に投入したレーシングポイント、残り2戦をエースに託す。
☆☆☆☆ バルテリ・ボッタス(メルセデス)
メキシコGP決勝=3位/アメリカGP決勝=1位
自分が劣るのはどの部分か優っている部分はどこか。“ハミルトン研究”の成果をアメリカGPでは見出せたのだろう。土曜からセクター2のラインを微妙に変えバンプで跳ねる症状も減り、しなやかなドライビング・タッチで今季5回目PP獲得(ハミルトン4回)。OBカメラ画面ではやや早めの減速から滑らかに加速するのが見てとれた。PPウインが少ないと揶揄されてきた彼の“ベストレース”のひとつ、6冠王をコース上で抜いたのだから。
☆☆☆☆☆ ダニエル・リカルド(ルノー)
メキシコGP決勝=8位/アメリカGP決勝=6位
サーキット・オブ・ジ・アメリカズのコース全域で技能・敢闘・殊勲賞にふさわしいレース。アメリカのハイウェイのように広い“道幅”を自由自在に使って抜く、抜かせないその攻守のスキルは彼ならでは。直近ライバルのマクラーレン2台をひとりで抑えこむ6位入賞、ランク6位のレーシングポイントとは18点差。これでルノーのランク5位はほぼ確定だろう。
☆☆☆☆☆☆ ルイス・ハミルトン(メルセデス)
メキシコGP決勝=1位/アメリカGP決勝=2位
六冠達成を祝し『シックス・スター』を捧げる──。数々の記録がとり上げられているが個人的には(1)19戦全周回走破、(2)31戦連続入賞(昨年第10戦から)、(3)ペナルティポイント最少1点、これらを評価したい。チャンピオンの確実性とある意味の安全性、さらにフェアプレーをも表すものだ。
振り返れば今シーズン、何度か接触に巻き込まれているがそのきっかけにはなっていない。ぎりぎりのところで身を引く勇気と自信、王者はひとつのコーナーの勝負におぼれず、305kmの先を見据えて戦うものだ。『ハミルトン2019』——象徴するような中北米2連戦のフィナーレ。