【津川哲夫F1私的メカチェック】セナ&ニューウェイから始まった、自動車工学の常識を覆す今どきのウィッシュボーン

11月10日(日)6時37分 AUTOSPORT web

 レーシングカーのサスペンションアームの構成にはウィッシュボーン(鳥の胸骨、叉骨を意味する)型サスペンションアームが使われている。前後ともに、このウィッシュボーンを上下に使ったダブルウィッシュボーン形式がレーシング・サスペンションの定番で、V型をしたアームを上下に使ってサスペンションを動かしているわけだ。


 現在のF1カーのサスペンションはすべて、このダブルウィッシュボーン型だ。


 外観からもすぐ見えるフロントサスペンションはダブルウィッシュボーンの形状が解りやすいが、リヤサスペンションとなると複雑だ。まだアッパーアームは見えるのだが、ロワアームになると各チーム独特な処理が施され、見えずらいこともあるため実際のアーム形状を把握するのは極めて困難だ。


 リヤサスペンションのロワアームは現在、すべてリヤのアクスルセンター高さに位置している。アクスルセンターにはギヤボックスからドライブシャフト(写真ブラウンのライン)が伸びていて、エンジンの回転トルクをタイヤに伝えているのだが、このドライブシャフトの高さにウィッシュボーンとトラックロッドが並んでいる。

【津川哲夫F1私的メカチェック】セナ&ニューウェイから始まった、自動車工学の常識を覆す今どきのウィッシュボーン
青のラインでなぞられているのはロッド、赤はロワウィッシュボーンの後方アーム(バックレグ)。茶色のドライブシャフトとの位置関係がわかる


 力学上、リヤで発生する巨大なトルクを路面に伝える時や、巨大な減速トルク等で発生する大きな負荷に耐えるため、ウィッシュボーンの前後マウント位置はドライブシャフトを挟んで搭載することになる。


 しかし、ロワウィッシュボーンのバックレグ(後方アーム)の車体側マウント位置をドライブシャフトの後方に置くには、同じ高さに平行して存在する太いドライブシャフトをまたがねばならない。


 そこで登場したのがドライブスルー型バックレグだ。ロワウィッシュボーンのバックレグを鍵型に造り(写真のレッドライン)、そのクランク部にドライブシャフトを貫通させる形式だ。これはカーボンコンポジット製のアームだから出来る処理だと言える。


 そして、このバックレグにリヤのトラックロッド(リヤホイールのトーを受け持つロッド/写真のブルーのライン)を併設し、フェアリングで覆っている。複雑で理解が難しいが、これが今のF1の現状で、これまでの自動車工学の常識はとっくに覆されていることがわかる。


 この設計はもちろん、力学的見地からではなく、完全にエアロに対するデザインであることは言うまでもない。


 この手のサスペンション設計が始まったのは、94年にアイルトン・セナを失ったウイリアムスFW16から。つまり、エアロのカリスマ、エイドリアン・ニューウェイがアッパーアームで始めたものだ。


 そしてこの斬新なスタイルは、基礎工学とストレス解析をコンピューターが解析して始めて可能となったのは言うまでもない。近代F1に今や一般常識は通用しないのだ。


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