角居勝彦調教師 ラストの直線でどこを通るか

11月12日(日)7時0分 NEWSポストセブン

角居勝彦調教師が競馬の極意を語る

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 秋のGIシーズン真っ只中。毎週のようにビッグレースが行なわれている。「さあ、最後の直線」というアナウンスにはいつも胸が躍る。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、直線でどこを通るのがよいのかについて考察する。


 * * *

 ラストの直線勝負での、鮮やかな差し切りは競馬の醍醐味でもあります。その際、「大外強襲」とか「猛烈な勢いで外から飛んできた」とか、スポットライトの多くは外側の馬に当たる。


 たしかに「大内強襲」とはいわないし、内側から複数の差し馬が前を行く馬に襲いかかるという印象も少ない。アナウンスでも「ドドドっと内側から馬群が迫る」なんて聞いたことがない。「内側で粘った」とか、1頭だけ「内からスルスルとよく伸びた」くらいでしょうか。やはり外側のほうに豪快なイメージが強いようです。


 内側の馬場は荒れ気味で、外のほうが伸びるとよくいわれます。しかし昔とは違って馬場のメンテナンスがいいので、良馬場ならば内と外の差はそれほど大きくはないはずです。


 外に出すメリットはなんでしょう。ジョッキーが追いやすい。内側の馬混みにいると、前の馬のムチが目の前に飛んできて怯むこともある。それを嫌う馬ならば、外に出したいところです。馬混みからビュッと飛び出せるタイプの馬ならば、なおさら外がいい。


 ただし早めの決断が要ります。内が混んでるから外に、などと悠長に構える暇はない。M.デムーロなどは、なにがなんでも外に出すように見えるときがある。それが奏功しそうに思えるのは、外側からの豪快な差し切りの印象が強いからでしょうか。


 キセキが勝った菊花賞では、自然な流れで外につけ、稀に見る泥濘戦を制してくれました。「自信があった」というレース後のコメントも、外から差し切るパターンにはまった彼なりの手応えなのでしょう。


 もちろん外側のデメリットもある。目安となるラチがないから真っ直ぐ走れず、ぶれていく心配です。斜行して後ろの馬の進路を阻んでしまう。東京競馬場のように直線が長くて上り坂がある場合は、よれて進路妨害となる懸念は決して小さくない。


 内ラチから離れたがらない馬もいる。調教のクセです。ラチ沿いで調教を続けると、そうなってくる。栗東では内ラチ沿いは遅い調教で外ラチが速い調教。昔、坂路がないときに、内ラチ沿いで滑らかに走れる馬が、外ラチに出すと、追い切りモードにはいって引っかかることがあった。右回りの調教だと、右ラチ好きになる傾向がありました。


 内側のメリットは、なんといっても最短距離を走れること。そしてラチのおかげで走りがよれない。外を行く馬と比べると、どこか堅実なイメージがありますね。結論としては、内外それほど差はない。外は外なりにリスクがあるということです。そしてそれは調教師が指示することではなく、ジョッキーがレースの流れの中で判断することです。


 これはあくまで余談です……前のほうで内を走っているのに、外に出して届かずに負けてしまうと、ジョッキーは後で馬主さんから「なんで、あそこで外に出したんだ」といわれることがある。同じ状況で、内で我慢して負けたとしても、脚がなくなったということで、それほど咎められはしない。


 外か内か。ジョッキーの感性を信じるのみです。


●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後15年で中央GI勝利数24は歴代3位、現役では2位。(2017年10月22日終了現在)今年は13週連続勝利の日本記録を達成した。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。本連載をまとめた『競馬感性の法則』(小学館新書)が好評発売中。


※週刊ポスト2017年11月17日号

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