【レースフォーカス】チャンピオンに輝いたスズキのミル、若きライダーが持つ“強み”/MotoGP第14戦

2020年11月17日(火)8時55分 AUTOSPORT web

 MotoGPの2020年シーズンのタイトル争いは、第14戦バレンシアGPで決着した。チャンピオンに輝いたのはジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)。スズキに20年ぶりのタイトルをもたらした。


 冒頭でも触れたように、ミルのチャンピオン獲得は、スズキにとっての20年ぶりのライダータイトルとなった。2000年シーズン、ケニー・ロバーツJr.(Telefonica Movistar Suzuki)が獲得して以来の最高峰クラスのタイトルである。スズキは今年創立100周年。さらにレース活動60周年という節目の年に最高の結果をもたらした。


 2020年シーズン、最高峰クラスに参戦して2年目を迎えるミルは、落ち着かない勢力図のなかにあって安定した結果を残してきた。今季、第14戦までに1勝を含む7度の表彰台を獲得。特に後半の安定感は抜群だった。第11戦アラゴンGPにはランキングトップに浮上。前戦ヨーロッパGPでランキング2番手に37ポイントの差を築き、バレンシアGPでは7位フィニッシュを果たして2020年シーズンのチャンピオンに輝いた。


「この状況を理解するには、たぶんシャワーが必要かもね。10歳のころからずっと戦ってきたんだから」と、ミルはレース後のチャンピオン会見で笑顔を浮かべた。ちなみにこのプレスカンファレンスには、ミルと同郷、スペイン・マヨルカ島出身のホルヘ・ロレンソが“飛び入り”参加。オンライン越しにミルにお祝いを述べる一幕もあった。さらに余談ではあるが、ミルはキャリア初期、ロレンソの父、チーチョ氏のスクールに通っていたのだそうだ。


「この夢を思い浮かべてきたんだ。タイトルを獲得するまでは決して立ち止まらなかった。そして、今年だけじゃなくて、以前から僕のそばにいるたくさんの人たちにお礼を言いたい。まずは家族、それから2018年に、スズキがチャンスをくれたことにも感謝したい。2020年、僕は世界チャンピオンになることができたんだ。正直言って、期待はしていなかった。もう少し先になると思っていた。でもとにかく、今、僕はタイトルを獲得できた。うれしいよ」


 チャンピオンシップを意識し始めた時期について問われると、ミルは「スティリアGPは、僕が強く走れて優勝に向けて戦った最初のレースだった。そしてたぶん、ミサノとバルセロナのあと、こう思ったんだ」と語った。


「『もしかしたら僕が速いのはスティリアGPだけじゃなくて、このバイクのフィーリングを維持できるかもしれない』って。このとき(チャンピオンシップで勝つかもしれないと)思った瞬間だった」


 第6戦スティリアGPは、アクシデントにより赤旗中断となったレースだった。このレースで、ミルは中断前には序盤にトップに立ち、10周以上もの間、レースをリードし続けていたのだった。再開後のレース2では4位に終わったが、ミルにとっては手ごたえを感じたレースだったということだ。そして実際、第6戦スティリアGPから第14戦バレンシアGPまでの9戦で、6度の表彰台を獲得した。


 ここでチームマネージャーのダビデ・ブリビオ氏が、バレンシアGP後に語ったコメントも付け加えたい。ブリビオ氏は「僕としてはジョアンが数レース前にチャンピオンシップを突然リードし始めて、チャンピオンシップについて考え始めました」と、少し驚いたような口調に交えて語っていた。


 ミルがチャンピオンシップのランキングトップに浮上したのは第11戦アラゴンGP。なお、このときのプレスカンファレンスでチャンピオンシップについて問われたときには、「あまりチャンピオンシップについては気にしていないんだ。レースの方が気になっている。たぶんほかのライダーよりも(チャンピオンシップについて)気にしていない。レースへのアプローチの仕方は変えないよ。優勝を目指していく。それから、ポイント差がどうであれ、チャンピオンシップについて考え始めるだろう」と語っている。


 それまでにランキング2番手につけていたミルは、もちろんチャンピオン候補と目されてきたのだが、ミル本人と、ブリビオ氏にわずかならがもタイトル争いを意識し始めた時期のずれがあるのはなかなかに興味深いところ。総合して考えると、ミルはカタルーニャGPあたりから、心の奥底でチャンピオンシップを考えつつも、目の前のレースに集中し続けてきた、ということになる。


■ミルがタイトル争いのなかで見せた“強み”


 こうした冷静なシーズンの戦いぶりや落ち着きを失わない点が、ひとつにはミルの武器ではないだろうか。「僕は精神的に強いと思う」と自身でも語っていたミル。とはいえ、タイトル獲得がかかるレースのグリッド上では、さすがにプレッシャーを感じていたと明かした。


「大事なのは、落ち着いて見えること、プレッシャーがないように見えることだ。でも、落ち着いてなんかいなかったし、プレッシャーだってあった。すごく緊張していたよ」


 そう語るミルは「でも、実のところ、僕たちにはコース上だけではなく、家でもウイルスにかからないようにするというプレッシャーがあった。特にマネジメントが難しかった」と、シーズン全体で感じていたもうひとつの“プレッシャー”についても語った。


 バレンシアGPは「このレースは悪夢だったよ、シーズンを通してとても苦しんだレースだった」と語るほど、苦しいレースだったらしい。それでも12番グリッドから5つポジションを上げ、そして7位でチェッカーを受けた。その結果は、ミルにMotoGPチャンピオンの称号をもたらした。ミルの精神的な強さについては、ブリビオ氏も言及している。


「今シーズン、ジョアンが精神的にどれほど強いのかを知りました。彼はいつも、とてもリラックスしていて、常にレースに集中していました。ただ、おそらく今日は少し違ったみたいですけどね。ジョアンは常にいいレースをすることに集中し、表彰台、そして優勝に挑戦してきました」


 ミルがライダータイトルを決めただけではなく、バレンシアGPの結果によりチーム・スズキ・エクスターはチームタイトルをも獲得した。2011年をもってMotoGPへの参戦を休止し、2015年に世界最高峰の二輪ロードレース選手権への挑戦を再開したスズキ。2020年シーズンが始まる前の5月上旬、オンラインで開催されたブリビオ氏の取材会で、彼はシーズンの展望を尋ねられ、そのなかで「スズキが驚きの成績を出すことを期待しますが、同時にそれが驚くべきことではなくなることも望みます」と語っていた。


 そして、ブリビオ氏が期待したように、今季、スズキのライダーが表彰台を獲得することはセンセーショナルなニュースではなくなった。そればかりか、ライダータイトルとチームタイトル獲得という結果を手にすることに成功したのだった。残るはコンストラクターズタイトル。最終戦ポルトガルGPでは3冠の期待が高まっている。

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