ドリフト界のアイドルは努力の人。仕事掛け持ちで貯金して買った車は?

11月17日(火)17時0分 Sportiva

速く、美しく、挑戦し続ける女性ドライバーたち 
第4回 下田紗弥加 
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【写真10枚】高みへ向かうドリフト界のアイドル・下田紗弥加
近年、世界のモータースポーツを統括する国際自動車連盟(FIA)や自動車メーカーが若手女性ドライバーの育成・発掘に力を入れ始めた。いまだ男性中心の競技ではあるが、サーキットレース、ラリー、ドリフトなどで活躍する女性ドライバーは増加傾向だ。そこで、国内外のさまざまなカテゴリーで挑戦を続ける日本の女性ドライバーにインタビューした。
第4回は、ドリフトドライバーの下田紗弥加。ドリフト競技の最高峰D1グランプリシリーズ直下に位置するD1ライツに参戦している。普段はキュートな笑顔を見せる下田は、ひとたびマシンに乗れば、500馬力オーバーのクルマを手足のようにコントロールし、ド派手なドリフトで観客を魅了。憧れる存在はアメリカのインディカーで女性ドライバーとして唯一優勝したダニカ・パトリック選手。「ドリフト界のダニカ・パトリックを目指します!」と意気込むドリフト界のアイドルに話を聞いた。



D1ライツに参戦しているドライバーの下田紗弥加
 
もともとスポーツが好きで、小さい頃から水泳や陸上などをしていました。中学からはバレーボールを本格的に始め、高校でも続けてプロを目指していたのですが、ケガに悩まされてその道は断念しました。
 私の両親がクルマ好きで、小さい頃、お母さんが(ドリフトマシンとして今も人気の)日産シルビアに乗っていて、いろんなところに連れていってもらっていました。多分、クルマ好きの血があったんでしょうね(笑)。私もスポーツカーが大好きで、モータースポーツにも興味がありました。
 でもモータースポーツはすごくお金がかかる世界だと知っていましたので、関わることはないと思っていました。ただバレーボールをやめた後、「このまま真剣に打ち込むことがない人生はどうなんだろう......?」と疑問を感じながら生きていました。自分の好きなことは何かと真剣に考えた時、頭に浮かんだのがやはりモータースポーツでした。
 たまたまお台場で開催されていたD1のエキシビションを観戦したのもその頃でした。会場でドリフトするマシンを見た瞬間、「走りたい!」と思ったんです。とはいえ、私の家はモータースポーツをするための資金を出してもらえるほどの余裕がなかったので、自分で働いてお金を稼ごうと決意しました。それから数年間は車を持たずに電車で通勤し、仕事をいくつか掛け持ちしてひたすら働きました。


「ドリフトは私にとって純粋に打ち込めるもの」と語る下田
 そして、貯めたお金で念願だったマツダRX-7を購入しました。運転免許もオートマチック限定を解除し、マニュアル(MT)車の免許を取得して。でも当時はMT車の運転が下手で、赤信号でエンストして渋滞の原因を作ってしまったことも何度かありました(笑)。いざサーキットへ行って練習しても、ドリフトの方法がまったくわからず、パイロンの周りをウロウロ(笑)。そんな状態からのスタートでした。
 それでも現在もお世話になっている『車楽人アソシエーション』のドライビングスクールに参加し、正しいドリフトのテクニックを基礎から教えてもらいました。ステップ・バイ・ステップで教わるようになって、グーンと伸びましたね。
 スクールにはプロのドリフト選手がいたのですが、彼らの走りを目の当たりにした時に、仕事をしながら練習していたのではとても追いつけないと感じました。それで仕事を全部辞めて、2年ぐらい徹底的に練習して、それで芽が出なければドリフトの道を諦めようと考えました。それからはサーキットに通って練習する日々が続き、気がついたら11カ月で130日もサーキットで練習していました(笑)。
 一般的なレースではシンプルに速さを競いますが、ドリフトはまず見て迫力があることが審査ポイントになります。それから芸術性です。カッコよさや美しさを感性で楽しんでもらえるスポーツですね。レースと同様に速さも必要です。遅いよりも速いほうがドリフトの迫力はありますからね。究極的に言えば、お客さんが「カッコいい!」と感じる走りをすることが一番大事です。
 ドリフトの難しさは、同じコースを同じように走り続けること。同じように淡々と走っているように見えるのですが、その日の気温や路面状況は刻々と変化しますし、1回走るとタイヤの状況も変わってきます。環境によってエンジンのパワーも若干上下しますし、車速の違いによってもドリフトの「飛距離」が違ってきます。

 それらを人間がすべて感知し、一周一周、細かく修正しながら走っているんです。しかも最近のマシンはハイパワーで、タイヤのグリップ力も高く、すごく速いので、すぐにコーナーが迫ってきます。マシンを自分の手足のように扱えるようにならなければなりません。
 そのために自分がコントロールしやすいクルマを仕上げていく能力も求められます。クルマは精密機械で当然ながら気持ちや気合いでなく物理の法則で動いています。データの分析力やセッティング能力、幅広い知識も必要となってきます。
 現在はD1ライツに参戦しています。私はモータースポーツを始めてまだ5年程度ですが、周りにはキャリア10年、15年のベテランの方がたくさんいます。経験値が圧倒的に足りないので、今年は地方戦やコンテストのようなイベントにも積極的に出場して、いろんな相手と、さまざまなコンディションの中で戦うことで特訓しています。
 ドリフト競技は女性でも肉体的なハンデは少ないという意見もありますが、私はやればやるほどハンデはあると感じます。例えば、重いステアリングを瞬時に素早く回さなければならないことがあります。そういう時には、男性と女性の腕力の差は影響してきます。
 でも一番大変なのは自分のメンタルや技術に対してどこまでこだわって、突き詰められるかということ。どんなに練習しても結果がなかなかついてこない辛さを感じることがありますが、諦めが悪いのが私の強みです(笑)。何回も心が折れるのですが、絶対に諦めません。折れるたびに、「いや、もうちょっと、もうちょっと」という感じでここまで来ました。

 将来は、アメリカで開催されているドリフトイベント、フォーミュラ・ドリフト(FD)に出場してみたいです。ドリフト競技はもともと日本発祥ですが、今ではアメリカで大人気。FDは2日間で約10万人のお客さんが集まる大きなイベントになっています。2年前、実際に私も見てきましたが、まるでお祭りのように盛り上がっていました。
 FDの出場資格が取れる大会にも少しずつ出ていますが、国内で結果を残せない人間が海外に行っても意味がないとも思っています。ドリフトは日本の文化で、その最高峰に位置するのがD1グランプリです。まずはD1に昇格し、しっかりと結果を出すことが目標です。
 昨年、新型コロナウイルスが流行する前に中国へドリフトのデモ走行を行ってきました。世界各国からD1の大会を開催したいとの声がかかっているようですし、私もコロナ禍がなければ今年は本格的に海外のイベントに出場する予定でした。これからドリフトの人気がさらに来ると思います。
 その盛り上がりが、残念なことに日本国内であまり知られていないんですよね。海外のドリフト競技では、多くのドライバーが日本車を使用しています。彼らにとって日本車は憧れなんです。実際にアメリカでは「日本車がカッコいいからほしい」という声をよく聞きます。もしかしたら、ドリフトの魅力や日本車のすばらしさを日本人が一番、知らないのかもしれないですね。
 レーシングドライバーは、エンターテインメントの仕事だと思っています。もちろん技術に対してストイックになることも大事ですが、どうすればお客さんが楽しめるのかというのは常に意識しています。

 運転技術を追い求めて練習に明け暮れていると、身だしなみはおろそかになりがちです。例えば、せっかくネイルをきれいにしても、走ったり、タイヤ交換をしたりして爪が折れてしまいます。ヘルメットをかぶったら化粧も落ちます。それでも人前に出る以上はいつもきれいにしようと心がけています。モータースポーツの世界に女性が少ないのであれば、それは強みとして意識するべきだと思っています。
 ドリフトの道へ進んで本当によかったです。「これは私の世界」と思えるぐらい合っていると感じます。私にとってドリフトは人生で唯一、純粋に打ち込めること。いつも、どうしたらもっと成長できるのか、カッコいい走りができるのかと自然に頭の中で考えています。そこまで日々追求したいと思えるものが、ドリフトなんです。
【profile】 
下田紗弥加(しもだ・さやか) 
4月19日生まれ。千葉県出身。モータースポーツ 歴は約5年だが、今季は「TEAM Mercury 車楽人 VALINO」からD1ライツに参戦中。マシンは500馬力オーバーの日産シルビア(S15)。タイヤメーカーとコラボしたグッズが数多く販売され、大人気となっているドリフト界のアイドル的な存在。最近新たに導入したシミュレーターでも練習中。

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