DAZNの値上げとサッカーコンテンツ劣化の裏側&海外サービスとの比較

2024年11月20日(水)18時0分 FOOTBALL TRIBE

DAZN 写真:Getty Images

スポーツ専門のビデオ・オン・デマンド・サービス「DAZN」は、2016年8月に日本でのサブスクリプションサービスを開始。サッカーに関しては、2017年から10年間で約2,100億円のJリーグ放映権契約を締結(その後、契約を2年延長し、2028シーズンまで約2,239億円に変更)。加えてFIFAワールドカップ(W杯)アジア最終予選(アウェイ戦は独占配信)、AFCアジアカップやAFCチャンピオンズリーグ、WEリーグをはじめとする女子サッカーなどを配信している。


他にもプロ野球(広島東洋カープ主催試合、および日本シリーズは除く)や、F1〜F3のモータースポーツ、アメリカンフットボール(NFLの一部試合)、女子テニス(WTAツアーなど)、バスケットボール(英国のSBLチャンピオンシップ、イタリアのレガ・バスケット・セリエA)といった多彩なスポーツを網羅しているDAZN。


しかし、2019年4月に最初の値上げおよび年間プランの提供を開始し、2022年以降は毎年値上げを繰り返しており、現在サービスの利用は月額ベースで4,200円(DAZN STANDARDプラン)。開始当時の1,890円から倍以上となっている。ここではDAZNの値上げとサッカーファンにとってのコンテンツ劣化について、また海外サービスとの比較によりその裏側を考察する。




DAZN 写真:Getty Images

サッカーに関連したコンテンツの劣化


値上げの一方で、サッカーに関連したコンテンツの劣化も激しい。毎週、欧州サッカー通がMCを務めた番組『Football Freaks(火曜=セリエA、水曜=プレミアリーグ、木曜=ラ・リーガ)』は、2023/24シーズン限りで予告なく終了。Jリーグファンに「DOGSO(ドグソ)」や「SPA(スパ)」といった審判用語を浸透させた『Jリーグジャッジリプレイ』も終了した。


特に『Jリーグジャッジリプレイ』については、解説を務めていた元国際審判員の家本政明氏が昨2023シーズン最後の配信で、J1昇格プレーオフ決勝(東京ヴェルディ対清水エスパルス1-1/レギュレーションにより東京Vが昇格)における後半アディショナルタイムのPKについて、「染野(PKを得た東京VのFW染野唯月)によるイニシエイト(自らDFに接触しファウルを誘発させるプレー)ではないか」と発言し、誤審を匂わせたことが原因で“消された”という噂も立った。


事実その後に登場したのが、現役審判員が登場し舞台裏の苦労を紹介する『シンレポ:Jリーグ審判レポート』なる批判精神のかけらもない内容の番組だったことが、この噂に真実味をまとわせている。


かろうじて、Jリーグのダイジェスト番組『やべっちスタジアム』と、元日本代表DFで森保ジャパンのロールモデルコーチも務める内田篤人氏がMCを務める『Atsuto Uchida’s FOOTBALL TIME』は生き残っているが、いずれも番組スポンサーが付いている。




Jリーグ旗 写真:Getty Images

来2025シーズンからはJ3中継も終了


現在DAZNは、2026W杯アジア最終予選を戦う日本代表戦において、放映権料が高騰し民放テレビ局がアウェイ戦中継を諦めたところに“救世主”として名乗りを挙げ、独占配信を行っている。


しかし、11月15日のインドネシア代表戦と、19日の中国代表戦では「無料配信」を謳っておきながら、その内容は『Fan Zone』と題し、『やべっちスタジアム』MC矢部浩之氏を中心に、漫才コンビ・ウエストランドの井口浩之氏や、ももいろクローバーZ玉井詩織氏が出演。インドネシア戦では解説の林陵平氏が、中国戦では槙野智章氏が適時コメントを挿入するという、とても「試合中継」とは呼べないバラエティー色を前面に押し出したものだった。


その上、来2025シーズンからはJ3中継がなくなり、NTTドコモが運営する「Lemino」が全試合無料ライブ配信することが決定している。それに先立ち、今2024シーズンのJ3最終節10試合、12月1日と7日に開催されるJ2昇格プレーオフも無料配信される。


DAZNの財務諸表が公開されていない以上憶測の域を出ないが、度重なる値上げと、契約締結時の約束でもあった「Jリーグ全試合ライブ配信」を裏切る形のJ3放映権の譲渡によって、「DAZNの財務状況は、実は火の車なのではないのか」といった声もある。“損切り”された形のJ3だが、これを機にJ3クラブのサポーターのDAZN離れが進み、「Lemino」に流入するだろう。


UEFAチャンピオンズリーグ 写真:Getty Images

海外版DAZNとの比較


果たして、DAZNのこの判断の決め手は何なのか。Jリーグとの大型契約は見込み違いだったのか。ここでは、日本以外でDAZNのサービスを展開するドイツ、イタリア、イギリス、スペイン、アメリカ、カナダ、ブラジルといった国との比較を示していきたい。まず料金面で、月額ベースでの料金は下記の通り。



  • DAZNドイツ:29.99ユーロ(約4,890円)

  • DAZNイタリア:29.99ユーロ(約4,890円)

  • DAZNイギリス:9.99ポンド(約1,950円)

  • DAZNスペイン:9.99ユーロ(約1,630円)

  • DAZNアメリカ:19.99ドル(約3,080円)

  • DAZNカナダ:19.99ドル(約3,080円)

  • DAZNブラジル:34.90レアル(約935円)


2022年、DAZNドイツも14.99ユーロ(約2,447円)からほぼ倍額の値上げを敢行し、同年にはDAZNイギリス、その前年にはDAZNイタリアも値上げされ、続くようにDAZNスペインも値上げされた。単純比較だけで言えば、ドイツ、イタリアとは同程度であり、日本だけ特に割高というわけではないことが分かる。


しかし、問題はその中身だ。上記のうちドイツとカナダでは、サッカーのキラーコンテンツでもあるUEFAチャンピオンズリーグ(CL)が視聴可能なのだ(カナダではUEFAヨーロッパリーグ(EL)も視聴可能)。


日本版DAZNも、欧州CLの放映権を2018/19シーズンから3年契約で獲得したものの、2020年にコロナ禍のあおりを受け2年目の途中で契約を破棄。放映権が宙ぶらりんとなってしまい、その後に「WOWOW」が放映権を再獲得するまで、日本の欧州サッカーファンはUEFAが運営する「UEFA TV」でのストリーミング中継(日本語実況なし)に頼らざるを得ない時期もあった。そして日本での欧州CL・ELの放映権は、今でもWOWOWが持っている。


また、欧州CLに続く人気コンテンツであるイングランドのプレミアリーグは、2023年に韓国の「SPOTV NOW」に奪われ、今2024/25シーズンは「U-NEXT」で独占配信されている。ドイツのブンデスリーガは「スカパー!」で長期にわたって放送されている。


現在の日本版DAZNが放送しているのは、スペインのラ・リーガ、イタリアのセリエA、フランスのリーグ・アン、ベルギーリーグに加え、イングランドのカップ戦(FAカップ、カラバオカップ)と2部のEFLチャンピオンシップ、イタリア杯(コッパ・イタリア)、フランスリーグ杯(クープ・ドゥ・フランス)、ベルギーカップなど。2部リーグやカップ戦を配信しているものの、日本代表MF久保建英(レアル・ソシエダ)がいるラ・リーガと、日本代表GK鈴木彩艶(パルマ)がいるセリエAだけでは「目玉コンテンツ」としては、やや弱い印象だ。




東京ヴェルディのサポーター 写真:Getty Images

サッカーファンの心を逆撫で?


そこに日本版DAZNは、サッカーファンの心を逆撫でするようなサービスを打ち出す。プロ野球専用の「DAZN Baseball」という安価なプランが提供されたのだ。こうしたパック料金がサッカーに関して設定されなかったことで、「DAZNはサッカーを見捨て、野球に乗り換えたのか」と反発を受けた。


DAZN側から見れば、Jリーグを視聴する術が他にないことで、応援するクラブの試合を見るという“推し行為”でもある消費者心理を巧みに突いた合理的な経営判断ともいえる。


また現在、DAZNは度重なるサービスの改悪によって、裁判に訴えられてもいる。従来「1契約につき2デバイスでの同時視聴が可能」とされていたものの「同じIPアドレスに限る」とされたためだ。簡単に言えば、自宅と外出先での同時視聴が不可能となるものだ。


これに異を唱え訴えたのは、東京ヴェルディサポーターの都内の大学生「おさしみ」氏。法学部で学ぶ同氏は弁護士も付けずに独りで、世界でサービスを展開している巨大プラットフォームと闘っている。例えDAZNがこの裁判に敗訴したとしても、IPアドレスの制限を解除し、場所を問わずに2デバイスでの同時視聴を可能にするだけで良く、金銭的賠償を伴うものではない。しかしながら、DAZNへのイメージや信用が低下することは必至で、2028シーズンまでのJリーグとの配信契約が全うされるかも疑わしくなってくる。


サッカーコンテンツの劣化の裏には、Jリーグの視聴者数の先細りが指摘されているが、コンテンツがスポーツに限られていることで、ドラマや映画、バラエティーも含む他のサブスクサービスと比べ、利用者の裾野を広げることが困難なことが一番の理由だろう。短期的に見て、値上げによって既存のユーザーから売り上げを増やしていくしかないのが、DAZNが置かれた現状なのだと思われる。

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