批判多い2020東京五輪ボランティア募集 ラグビーW杯に学べ

11月23日(土)7時0分 NEWSポストセブン

ラグビーW杯2019のボランティアスタッフ(右)。観客と笑顔でハイタッチを交わした(時事通信フォト)

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 いよいよ開催まで250日を切った東京五輪・パラリンピック。来年のビッグイベントに向け、東京都が都内の中高生から6000人のボランティアを募集する計画を立てたと報じられた。事前に人数が割り当てられて半ば強制的に参加を求められる学校もあり、専門家からは「ボランティアで大切なのは自発性」との異論もあると指摘されている。


 東京五輪・パラリンピックでは、競技会場で案内などを行う「大会ボランティア」と、駅や空港で観光案内などを行う「都市ボランティア」あわせて約11万人の活動が見込まれるが、「炎天下に無償で働かせるなんてブラック・ボランティアじゃないか」との批判もあり、ボランティアはどうあるべきかが議論されている。


 参考にしたいのは、11月2日に幕を閉じたラグビーワールドカップだ。日本代表の快進撃で「にわかファン」が急増した同大会では、スタジアム内、会場への道中、最寄り駅などにおそろいのユニフォームを着たボランティアが陣取り、満面の笑顔で観客を迎えた。


「こうした人々をスポーツボランティアと呼びます」と語るのは、文教大学人間科学部の二宮雅也准教授だ。


「スポーツを『する』『見る』だけでなく、『支える』人々を総称してスポーツボランティアと呼びます。地域スポーツの指導や少年野球の審判といった実践的な活動から、今回のW杯のようなイベントの運営をサポートする活動まで、その内容は多岐にわたります。運営を支えるスポーツボランティアは、2007年の東京マラソンを機に注目されるようになりました」(二宮准教授)


 ラグビーW杯2019組織委員会によると、今大会は12会場で合計およそ1万3000人のボランティアが参加した。年齢層は10代〜80代と幅広く、単純計算で1会場あたり1000人強のボランティアがいたことになる。


 東京、横浜、大阪、熊谷で計13試合をスタジアム観戦した筆者がとりわけ強い印象を受けたのが、すべてのボランティアがみせた「屈託のない笑顔」だ。彼ら、彼女らは常に柔和な表情でスタジアムへの道順を示し、困っている人に声をかけ、観客からの写真撮影の要請に快く応じ、道行く一行に「ようこそ!」と挨拶した。


「こうした笑顔こそがスポーツボランティアの存在理由です」と二宮准教授が続ける。


「これまでのボランティアは立場の弱い人を助けたり、災害で困った人の力となることが主流でした。しかし時代とともにボランティアが多様化するなかで、“自分自身が楽しむ活動”としても注目されているのがスポーツボランティアです。自らの意思で参加し、スポーツにかかわるすべての人々を笑顔にするのがその大きな役割です」(二宮准教授)


 みんなを笑顔にする活動の象徴が、各地で咲き乱れたハイタッチだ。今大会は各会場でボランティアが「行ってらっしゃい!」「おかえりなさい!」などと声をかけながら右手を掲げて長い列をつくり、多くの観客とにこやかにハイタッチを交わした。


 中には恥ずかしそうにうつむきながらそそくさと立ち去る人や、普段ハイタッチなどしたことないだろうが意を決して列に近づき右手を挙げるも、残念ながらタイミングが合わず“ギクシャクした触れ合い”になった人もいたが、ボランティアたちが醸し出す「幸せな空間」に異を唱える者は見当たらなかった。


 振り返れば、日本のボランティアのターニングポイントは1995年だった。この年、約6500人の命を奪った阪神大震災が発生すると、全国からやむにやまれぬ思いで集まった人々はのべ137万人に達し、「ボランティア元年」と呼ばれた。それから被災地ボランティアが徐々に根付き、2011年の東日本大震災ではのべ550万人が参加した。


 一方で「ボランティアを自ら楽しむ」という習慣はなかなか浸透しなかったようだ。ボランティアには奉仕や自己犠牲のイメージがあり、中高生が内申書の評価を高めるために参加することがあった。2002年のサッカー日韓W杯にも運営ボランティアがいたが、規則を遵守するあまり融通が利かず、観客とトラブルになるケースが報告された。


 だが今回のラグビーW杯を見て、「ボランティアって楽しいんだ」「ボランティアが笑顔を見せてもいいんだ」と気づかされた人も多いはずだ。


 笑顔や楽しさは響き合って波及する。ボランティアと笑顔で接した観客は気分が盛り上がり、観客から「ありがとう」「サンキュー」と感謝を伝えられたボランティアは活動がますます楽しくなる。施す側と受ける側のポジティブな相互作用が「幸せな空間」をもたらす。


 広い意味で11万人のスポーツボランティアが活動する東京五輪・パラリンピックに必要なのも、「自ら進んで笑顔や楽しさを提供するボランティア」ではないだろうか。


 人々の心がどことなくギスギスして、自分のことで精一杯で他人を思いやる余裕がなく、否定や分断の言葉ばかり飛び交う現在、自ら進んで笑顔になり、そのことで周囲も笑顔にできるスポーツボランティアは貴重な存在だ。少子高齢化のなかで家族や地域社会といった昔ながらの共同体が崩壊し、孤独を抱えて生きがいを失う人が増えるなか、いろいろな立場の人と“つながる場”としてのスポーツボランティアには大きな意義がある。


 日本にはプロ野球やJリーグ、Bリーグなど地域に根差したプロスポーツがあり、市民マラソンや地域のスポーツといったアマチュアスポーツも盛んだ。東京五輪・パラリンピックも含めて、スポーツボランティアに参加する機会には事欠かない。


 かつてマザー・テレサは「笑顔は想像できないほどの可能性をうむ」と語った。人々を笑顔にするスポーツボランティアも、想像できないほどの可能性を秘めている。


●取材・文/池田道大(フリーライター)

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