日本代表の主将がリバプールで“レギュラーになれない理由” 名門で遠藤航に課せられた課題【現地発】
2023年11月24日(金)6時0分 ココカラネクスト
リバプールでポジション争いを続ける遠藤。現地での評価はシビアだ。(C)Getty Images
「日本代表の主将、遠藤航はリバプールでレギュラーを勝ち取ることができるのか?」
編集部から受けた依頼は、端的にいえば、そういった内容だった。引き受けるか否かに迷った案件である。なぜなら、おそらく筆者はネガティブなことを書いたうえで「勝ち取れない」と、結論づけしてしまいそうだったからだ。
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しかし、最終的に引き受けた。理由は、発注後から幸か不幸か(!?)、遠藤の出場時間が少しずつ増加。プレーを見る機会が増えていたからである。遠藤は先月26日のヨーロッパリーグ(EL)のトゥールーズ戦で移籍後初得点を決め、現地時間11月12日に行われたブレントフォード戦でもプレミアリーグでは自身初となる先発フル出場も果たした。
直近の結果だけを見れば、風向きは30歳の新人に傾きつつあるように思える。だが、プレータイムの増加により、遠藤のストロングポイントよりもウイークポイントが目立ち始め、置かれている立場がより鮮明になったのも確かだった。
10月上旬だった。『The Athletic』のリバプール番で、懇意にしているジェームズ・ピアース記者と話す機会があった。彼は正真正銘のスカウサー(リバプール出身者の呼称)で、筋金入りのリバプール・ファンでもある。だからこそ、レッズ(リバプールの愛称)でプレーする選手に対する評価は総じて厳しめだ。
それだけに、彼が遠藤について「少し時間を要するだろうが、プレミアリーグのスピードに慣れてきたら定期的に試合に出場するチャンスはあるのではないか」と言ったのには少し驚いた。
昨年までは、日本人に対しても厳しかった。当時レッズに在籍していた南野拓実(現モナコ)について聞くと、「もう少しチャンスが与えられれば仕事をするかもしれない」というのが、ピアース記者の常套句だった。そこからさらに掘り下げると、笑いながら「厳しいだろうなあ」という本音を付け加えるのが、お決まりのパターンだった。
しかし、そんなピアース記者が遠藤の場合には「見込みがある」と判断していた。だが、彼と同様に、リバプール関連のメディアやファンサイトにおける現時点での遠藤評は「スピードについていけていない」というのが圧倒的に占めている。
英公共放送『BBC』のラジオ・マージーサイドのDJで、熱烈なリバプール・ファンのポール・ソルト氏も厳しい評価を下すうちの一人だ。リバプールFC専門のポッドキャスト『The Red Kop』では、次のように述べている。
「遠藤は半ヤード程度のスピードが足りない。彼にはプレミアのサッカーが速すぎるようだ。ブレントフォード戦だけの話をしているのではなく、彼のプレーを見るたびにそう感じる。懸念事項なのは確かだ。
プレミアリーグには遠藤は遅すぎるように映るし、言い換えれば、このリーグのペースは遠藤には速すぎるんだ。タックルも正確性を欠くが、もしかしたらそれはスピード不足が要因かもしれない」
「遠藤は試合を変えられるような選手ではない」
日本代表で絶対的レギュラーとなっている遠藤。しかし、リバプールではそこまでの存在になりきれていない。(C)Getty Images
さらに先発フル出場を飾ったブレントフォード戦後には、リバプールのファンサイトで最も人気のある『This is Anfield』で、サポーターのサム・ミルン氏とオリバー・フレッチャー氏もこう触れている。
「安価で獲得できた選手だから批判をする気は毛頭ないが、遠藤は試合を変えられるような選手ではない。ただ格下相手の試合で、レギュラー陣を休ませるためのスカッドプレーヤーとしては使い勝手が良いと思う。だけど我々はリバプールFCなのだから、“仕事をできる”程度の選手を獲得するべきではないと思う」(フレッチャー氏)
「ボールを素早く動かせるし、クレバーなパスも持っているから、スカッドプレーヤーとしてのポテンシャルは十分あると思う。だけどオリバー同様に、彼はファンやクラブが求めていたファビーニョにとって代わる選手では決してない」(ミルン氏)
このように辛辣な意見が多いのは確かで、スポーツデータ提供会社『OPTA』などで活躍するアナリストのサム・マグワイア氏もブレントフォード戦後に「スカッドプレーヤーに適している」と結論付けている。
彼は「ブレントフォード戦の遠藤は、前後半でまるで違った。前半はスピード不足が顕著だったが、試合途中から、次第に改善されていった」とリバプールの専門サイト『Anfield Watch』に記している。
「アンカーとしては“OKレベル”のプレーだ。スタッツを見ても、あまり良いものではない。デュエルで勝ったのは1回のみで、空中戦も5回のうち2回だけ勝っただけ。ファウルは4回、イエローカードになるべきだった悪いファウルもあった。ドリブルで抜かれた場面は2度あり、トランジションの時にもスピードのなさが目立った。タックル成功は1回、パス成功率は86パーセントだった」
厳しい内容が続いた。しかし、遠藤のパスレンジと安定した守備力については「ボールを上手に回していた。目立ったパスをするわけではないが、ポゼッションをしっかりキープして、先制点を狙おうと、積極的に敵陣でボールを動かすことができた」とポジティブな評価も下している。
「そんななかでクロップ監督が褒めていたのが、試合終了間際の場面。遠藤はバックポストで、ヘディングでクリアして、チームのクリーンシートを死守した。3点リードしている場面で1点献上しようが試合は変わらないが、この時に集中力を切らさずにしっかりと守備をできるのが遠藤の長所。これだけでレギュラーになれるかといったらそうではないが、スカッドプレーヤーとしてはチームに役立つことを証明した。まだまだ改善しなくてはいけない部分も多いが、リバプールでプレーできるレベルの選手と証明した」
遠藤が漏らした「リバプールのサッカーはすごいな」の意味
遠藤と同じく新戦力のマカリステル。そんな彼もボランチでは苦戦を余儀なくされている。(C)Getty Images
現地のメディアや識者の間では、往々にして否定的な意見が目立つ。しかし、日本代表の主将がリバプールに合流してから、わずか2か月半である。もちろん判断を下すのは尚早だ。
移籍後2戦目に、本拠地アンフィールドで行われたアストン・ビラ戦後(プレミアリーグ第4節)に、遠藤は次のように語っていた。
「リバプールのサッカーはすごいなというか……縦に行くイメージがすごくある。ポジションをしていくなかでも、今日(アストンビラ戦)も裏を取ったりとか、そういうところの判断っていうのは中盤でプレーしているうえではすごく大事かなっていう風に思う。ただショートパスで動かすだけじゃなくて、いつ裏を取るのみたいな、そこら辺の勢いだったり、精度だったりっていうのが、すごいなと思います」
そして、同時に彼は「慣れてくれば、やれると思う」と自信をのぞかせていた。その言葉通り、遠藤は10月26日にホームで行われたトゥールーズ戦に先発出場し、攻守にわたりダイナミックなプレーを披露。ついにはゴールまで奪い取った。
だが、この日のリバプールのスタメンは控え組が中心。さらに言えば、トゥールーズはリーグ・アンの中堅クラブでもある。両クラブの地力の差を考えても、遠藤が常時、名門クラブでピッチに立ち続けるには物足りない。
とはいえ、レギュラー争いにおいて、現時点で遠藤の前に立ちふさがるのは、アルゼンチン代表MFのアレクシス・マカリステルだ。
もっとも、彼もスピードに長けたタイプではなく、何より中盤の底を務めるボランチでもない。これはブライトンに所属した昨シーズンに同ポジションで起用された際に、実力を発揮できていなかったことからも明らかである。
移籍直後にクロップ監督が語った「求め」
クロップ監督も遠藤への期待を寄せている。(C)Getty Images
移籍直後の出来事だ。ロッカールームにやってきたユルゲン・クロップ監督は、遠藤を見るなり、「我々は君のことが本当に必要なんだ。キミのハート、両脚、サッカーセンス、そしてフットボール脳。君の強い気持ち、これらすべてが必要なんだ」と話していた。
それが具現化されたのが、トゥールーズとの一戦だったと言えよう。しかし、彼が30歳にしてイングランドに来た理由はより高いレベルで、クロップ監督の求めるプレーを継続することにある。
でなければ、リバプールはシビアに評価を下すチームでもある。チームキャプテンだったジョーダン・ヘンダーソンが、今年7月にチームを離れ、サウジアラビアのアル・イテファクに移籍したのは、クラブに「レギュラー選手としての給料を払えない」と言われたからである。
相次ぐ故障も影響し、昨季の時点でプレー時間が大幅に減少していた33歳は、今季はさらに減るだろうと告げられた。ゆえに長年キャプテンを務めたチームを去る決断をしたのである(※無論、サウジアラビアの潤沢なオイルマネーの恩恵も受けられる影響もある)。
現時点で遠藤に与えられているのは、このヘンダーソンの立ち位置だ。準レギュラーのカップ要員ではあるが、リバプールの1シーズンの試合数は50〜60試合に及ぶため、リーグ戦でも出場機会が与えられるのは確実である。
今後の課題はプレミアリーグのペースへの対応と、スピード不足を補う新たな武器の習得だ。シュツットガルト時代にはデュエルでの強度に加えて、パス能力の高さも評価されていた遠藤は、9月下旬のレスター戦(リーグカップ3回戦)では、難易度の高いラストパスをドミニク・ソボスライに提供。見事に決勝ゴールを演出してみせている。
レスター戦のようにパサーとしての実力に磨きがかかれば、守備力はマカリステルに勝るだけに、先発の機会もグッと上昇するだろう。はたして、“オールドルーキー”は、今シーズン中に、世界的名門で定位置をつかみ取ることができるのだろうか。
[取材・文:松澤浩三 Text by Kozo Matsuzawa]