秋春制導入に二の足を踏む韓国Kリーグの憂鬱
2024年11月28日(木)17時0分 FOOTBALL TRIBE

11月27日に横浜国際総合競技場で行われたAFCチャンピオンズリーグエリート2024/25(ACLE)第5節で、横浜F・マリノスは、韓国Kリーグの浦項スティーラーズを2-0で一蹴。勝ち点を10に伸ばし、順位も3位をキープ。上位8チームによるノックアウトステージ進出に大きく近付いた。
この試合で浦項は、23日にアウェイの江陵総合競技場で行われた江原FC戦(0-1)からスタメン10人を入れ替えて臨んだ。第4節終了時点でラウンド16進出圏内の7位にいたにも関わらず、パク・テハ監督が苦渋の選択をしたのには訳がある。

ACLに臨むクラブの超ハードスケジュール
韓国内では2024シーズンKリーグ順位決定プレーオフの真っ最中。加えて浦項は、11月30日に中2日で蔚山HDとのコリアカップ決勝(ソウルワールドカップスタジアム)で単独トップとなる6回目の優勝を目指し、さらに12月3日、中2日でACLE第6節のヴィッセル神戸戦(浦項スティールヤード)を戦うという超ハードスケジュールなのだ。
現在、浦項は順位決定プレーオフで6位と苦しい戦いが続いている。この順位のままでは来季ACL出場権は手にできない。コリアカップを制覇すれば、少なくとも来季のAFCチャンピオンズリーグ2(ACL2)には出場できる(ACLEに出場できるかどうかはプレーオフの順位次第)。両方とも落とせない大事な一戦で、パク監督の心中は察するに余りある。しかし27日の横浜FM戦に敗れたことで、ACLEの順位も10位にまで落ちてしまった。
ACLに臨むクラブが過密日程に苦しむのは、Jリーグのクラブも一緒だ。しかも横浜FMは、7月に解任されたハリー・キューウェル監督の後を受け就任したジョン・ハッチンソン暫定監督が今季限りで退任し、新監督に前イングランド代表ヘッドコーチのスティーブ・ホランド氏の招聘が濃厚となっている。2月12日のACLE第7節上海申花戦(横浜国際総合競技場)では新体制で臨むことになるのだ。

秋春制導入による歪み
これは、アジアサッカー連盟(AFC)が欧州のカレンダーに合わせた形で、AFCなどの主催大会において秋春制を導入したことによる歪みといえる。Jリーグも2026年からの秋春制導入を決定している。
日本でも賛否両論が飛び交い、雪国クラブへの配慮やウインターブレークなどの問題を棚上げした形で、半ば強引に決定された印象の秋春制。韓国でも秋春制への論議が始まっているが、なかなか前に進まないのが現状だ。
韓国の冬の寒さは日本以上で、首都ソウルの冬の平均気温はおよそマイナス4度にまで冷え込む。また、夏の蒸し暑さが日本ほどではないということも、この議論に待ったをかけている。
韓国ナンバーワンのシェアを誇るスポーツ紙『スポーツ朝鮮』では、「Jリーグでは、雪国にある一部クラブから反対の声が挙がりつつも、最終的にシーズン移行を決断した。サッカー界の世界的な流れに沿う形を採ったことで、Kリーグも岐路に立たされている」としつつも、秋春制の移行には多くの問題があることを指摘している。

Kリーグで秋春制導入議論が進まない理由
Kリーグは長くプロ野球(KBOリーグ)の人気に押され、2002年の日韓ワールドカップに向けて建設された巨大スタジアムにも閑古鳥が鳴いていた。しかし各クラブの集客努力の結果、2023シーズンにようやく最多観客新記録を樹立し、「平均1万人」を実現した。
この現状の中、強引に秋春制導入すればファン離れを招き、各クラブの努力を無に帰す恐れがある。また、日本とは逆に「あまりの寒さのせいで芝が凍ってしまい、選手のパフォーマンスが低下する」という指摘もあるほどだ。「酷暑での試合を回避できる」という最大のメリットがないとなれば、Kリーグに秋春制を導入するメリットが見当たらないのだ。
欧州5大リーグが秋春制であるからといって、欧州の全てのリーグがそうなのかといえば否だ。ノルウェー、スウェーデン、フィンランドなどといった北欧の国や、エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国、南米に目を向ければアルゼンチン以外のリーグは全て春秋制だ。
韓国の新学期は日本より1か月早い3月で、新入団選手にも合ったカレンダーでもある。デメリットを挙げるとすれば、現在のJリーグのようにシーズン途中で主力選手が欧州移籍してしまうケースが挙げられるが、だからといって何から何まで欧州5大リーグに合わせる必要はないと思われる。
大韓サッカー協会傘下である韓国プロサッカー連盟のチョ・ヨンサン事務総長は「秋春制移行検討のための公聴会」の席上で、「秋春制導入の検討は続ける。ただ、Kリーグは欧州とは違う。性急な決定は難しい」とコメントし、慎重な構えを示した。恐らくKリーグは、Jリーグの秋春制導入後の動きを見てから、本格的な導入議論に入るのではないだろうか。
ここ数年のJリーグは、夏場のゲリラ豪雨による試合中止や中断が続出している。秋春制導入の暁には、同程度かそれ以上の頻度で「大雪中止」の試合が現れるだろう。その際リーグ側は、雪国クラブが背負うことになるハンディキャップに対しどう対応するのか。Jリーグファンのみならず、これから秋春制を導入しようとする他国からも注目されていることを、Jリーグ側は認識しなければならないだろう。