天下を獲ったモドリッチの頭脳明晰なプレースタイルまとめ
2024年11月28日(木)16時0分 FOOTBALL TRIBE

39歳のMFルカ・モドリッチは、2012年から所属するレアル・マドリードでの最年長出場記録や、クロアチア代表歴代最多出場記録を持ち、2018年には東欧出身者で唯一バロンドール(世界年間最優秀選手賞)に輝いたプレーヤーだ。
172cm・66kgと平均的な日本人と大差ない体格で、特段速いわけでも強いわけでもないにもかかわらず、どのようにして世界の頂点に上り詰めることができたのだろうか。その創意工夫されたプレースタイルを検証してみよう。

魔法の右足アウトサイド
モドリッチのプレーにおいて、すぐに分かる特徴は右足アウトサイドのタッチだ。身体の向きだけではボールがピッチの右に飛んでくるのかその真逆の左なのか、それとも頭上なのか見当がつかないのでディフェンダーは対処に遅れが生じる。
ボールを持つと、素早く小さなモーションで球出しをするものだから、バスケットボールのノールックパスのように、いつどこに飛んでくるか予測がつかない。しかも、軸足の左足の前にあるボールも右足をねじ込んで右方向に蹴れてしまう。この種のアウトサイドキックはディエゴ・マラドーナ(元アルゼンチン代表、2020年没)などにも見られたが、世界でも非常に稀だ。
モドリッチは右足アウトサイドを股抜きにも有効活用している。また、ドリブルやパスの際に右足の裏やヒールも巧みに使って相手を翻弄する。シザーズ(ドリブルのフェイント)もするが、一つ一つのさりげない動きのなかで次々と意表を突くため、相手は腰砕けになる。

粘りのあるボールキープ力
モドリッチは自分が一番プレーしやすく、かつ相手が一番奪いにくい所にボールを置く類まれな能力を持つ。身体を回転させながら浮き球をトラップするといった難易度の高いボールでも、ファーストタッチでピタリと次にプレーしやすい所に収める。
よって、簡単に飛び込むとドリブルで交わされて突破される。かといって、離れると決定的なパスを放たれる。ロングレンジからのドライブシュートが得意なため、ゴールが見えてくると相手に極めて難しい選択を迫ることになる。プレスがかかった状況でも高い技術とセンスでボールをキープするため、相手は簡単にボールを奪うことができない。
小柄なため屈強なDFは力でネジ伏せることができると思うかもしれない。しかし、素早いため身体を寄せられるところまでいかない。そして、ようやく身体を当てられる距離感になってチャージしても倒れるのではなく、その力を利用してさらに加速するボディーバランスと粘り強い下半身を持つ。
ボールを奪われないので、ためるも早く出すも自由自在で、中盤で試合のリズムを作り出すことができる。ひとまずボールを預ければ、うまくゲームをコントロールしてくれる頼もしい存在だ。

想像力あふれるビジョンで攻撃を構築
モドリッチは小柄なため狭い所でも股抜きするなど細かいパスやボール捌きがうまいが、その瞬間にも遠くが見えていて、狭い所から小さなモーションで急にロングパスを出すことができるのが凄い。ピッチのどこにいてどんな体勢でも、決定的なパスが飛んでくるので相手は安心していられない。
モドリッチはサッカーIQが高く、空間認知能力に優れる。常にピッチ上で何が起こっているのかつぶさに観察し、まるで上空を飛ぶドローンの映像と接続し頭の中でデジタルツインをリアルタイムで更新しているかのような精密さで把握している。俯瞰するように状況を深く理解しているからこそ、プレーのその先の読みが早く的確なのだ。
いつ誰がどこにいるかを分かっているので、パスだけではなくボールを触らずにスルーすることもある。また、ボールを触らずして体の動きや目線で逆をとって相手を交わすこともある。ボール捌きが巧みなら、ボールを触らない動きも巧みだ。

セットプレーのプレースキッカー、ボールの軌道をイメージ
一方、小柄なためゴール前の空中戦で相手と身体をぶつけて競り合うのにはあまり向かない。しかしプレースキッカーとして優れ、しっかりとセットプレーの居場所を見つけている。いつどこにボールを蹴れば、味方選手に合うかというシミュレーションを行い、そこにピンポイントでボールを届ける技術力が伴っている。
モドリッチはプレースキックをした後に、身を乗り出して目でボールを追う。これは、ボールが飛んでいって味方につながる軌道を脳内でイメージしているため、それが体の動きにも表出しているのだ。

研ぎ澄まされた守備の読み
接触プレーにおいては、アメフトのように真正面から体当りしたら不利だが、身体がぶつかる状況になる前にもう勝負を決めているモドリッチ。重要なポイントにいち早く入るため、小柄な外見とは乖離した守備力を発揮する。
駆け引きと読みに優れるため一歩目が早く、インターセプトやタックルに入るタイミングが早い。相手にぶつかる前にもう次の展開が頭にあり、ボールを奪うなり、あわよくばそのまま攻撃に転じる。

中盤のユーティリティプレーヤー
モドリッチの洞察力と状況判断力は天賦の才だろう。中盤のどこでもプレー可能だが小柄なため、ヘディングが多くなるアンカーではなくインサイドMFやサイドMFに配置されることもある。少し前掛かりのポジションのほうが攻撃力が活きるというものだ。
ドリブルよし、パスよし、シュートよし、そして守備よし。ポリバレントなミッドフィルダーということができるだろう。