長谷川勇也のヘッスラに見たホークスと巨人、勝者のメンタリティの違い

11月29日(日)11時20分 Sportiva

 野球は生き物だ----。

「何度やっても同じ試合はない。1球1球の状況の変化に、生きている、戦っているという実感がある」

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 以前、王貞治球団会長がインタビューで話してくれた言葉だ。ただひとつのプレーが勝敗を分ける。短期決戦の日本シリーズでは、それがとくに色濃くなる。

 あまりにも一方的な展開で終わってしまった今年の日本シリーズ。ソフトバンクは終始勢いを手放さなかった。

 第1戦に先発した千賀滉大が巨人打線を力で封じこめば、5番で起用された24歳の若鷹・栗原陵矢が球界のエース・菅野智之から先制2ランを含む3安打4打点の活躍を見せた。

 初戦を終えたところで、ソフトバンクには「今年もいけるぞ!」、巨人には「やはり敵わないのか......」というムードが漂ったはずだ。そして第2戦は13対2という大差でソフトバンクが圧勝した。

 この時点でシリーズの行方が見えたという声は少なくなかった。たしかに、2試合を見ただけで両者の力の差は明白だった。だが、勝負ごとに「絶対大丈夫」は存在しない。

 昨年までの日本シリーズで連勝発進したケースは37回あり、そのうち連勝したチームが日本一になったのは28回だった。V確率76%と聞けば高く感じるが、逆にこの展開からひっくり返されたのは9度もあった。

 そのひとつが2000年、あの"ONシリーズ"を戦ったソフトバンクの前身であるダイエーホークスだ。ダイエーは東京ドームで連勝したが、地元・福岡に戻って敗れ、結局4連敗を喫してしまった。

 そういう意味で、第3戦もまた今回のシリーズのカギを握る重要な試合だった。

 ソフトバンクはマット・ムーア、巨人はエンジェル・サンチェスの両外国人の先発で始まった。試合はいきなり波乱の幕開けとなる。

 1回表、巨人1番打者の吉川尚輝のショートゴロをソフトバンクの牧原大成が一塁へ悪送球して無死二塁となった。ソフトバンクに生じた綻びにつけ込みたい巨人だったが、2番の松原聖弥は送りバントを失敗して、せっかく掴みかけた流れを自ら手放してしまった。

 試合が動いたのは3回裏だ。二死二塁から中村晃がライトへ先制2ランを放った。この試合もソフトバンクが先行する形となり、流れをグッと引き寄せたのは誰の目にも明らかだった。

 それでもこの試合は両チームの先発が好投し、緊迫した展開が続いた。ノーヒット投球を続けたムーアはもちろん、サンチェスも巨人担当記者いわく「レギュラーシーズンの時よりもよかった」というピッチングだった。だから、ひとつのプレーで展開が大きく変わってもまったく不思議ではなかった。

 このシリーズの明暗を分けた1つめのポイントが第1戦の勝敗だったとするならば、2つめのポイントは第3戦の6回裏だったのではないだろうか。

 ソフトバンクが2点リードのまま迎えた攻撃のイニング。先頭の中村が四球を選び、続く柳田悠岐がライト前ヒットを放ち無死一、三塁と絶好のチャンスをつくった。ここで4番のグラシアルはショートゴロに倒れるが、三塁走者の中村が挟殺プレーで粘り、一死二、三塁と好機を潰さなかった。

 その後、栗原は申告敬遠、デスパイネが三振で二死満塁となった。打順は7番の牧原。シーズン終盤に調子を上げてきた左打者だが、工藤公康監督は動いた。

「打撃一閃」

 オリジナルの演出がPayPayドームの巨大なビジョンに映し出される。とっておきの代打、長谷川勇也の登場だ。

 長谷川は2013年シーズンに198安打で最多安打、打率.341で首位打者に輝いた屈指の好打者である。その翌年の終盤戦で本塁突入の際に右足首を痛めて以来、成績こそ落ちたものの、ひと振りにかける集中力は健在のまさに"打撃職人"である。

 決着は初球だった。強烈な打球が一、二塁間へ飛ぶと、二塁手の吉川がダイビングキャッチ。一方で長谷川は鬼の形相で一塁めがけて走った。

 このシリーズで何度か送球ミスを犯した吉川だったが、この場面では一塁へ素早く正確なボールを送った。長谷川は全力疾走の勢いのまま頭から突っ込んだ。

 判定はアウト。わずかの差で送球のほうが早かった。沸き立つ巨人ベンチとG党たち。ただ、まだ球場中の視線が集まっていた一塁ベースの少し先で、長谷川はしゃがみ込んだまま体を震わせて悔しがっていた。


シリーズ第3戦で気迫のヘッドスライディングを見せたソフトバンク長谷川勇也
 その瞬間「ドスン」という音が聞こえた。筆者はバックネット裏の最前列という良席で観戦していたのだが、少なくとも長谷川までの距離は30m以上あったはずだ。しかもスタンドはざわついていた。それでも、長谷川が悔しさのあまり右手でグラウンドを叩きつけた音ははっきりと耳に届いた。

 その姿に地元・福岡のソフトバンクファンは心打たれた。7回表の攻撃が始まるところなので巨人の球団歌『闘魂こめて』が流れだしたが、それをかき消すほどの大きな拍手がPayPayドームを包み込んだ。

 この試合で唯一、巨人に流れがいきそうになった場面。それを食い止めたのが長谷川の気迫であり、ソフトバンクファンだった。

 長谷川は前述したように走塁中にケガを負った選手である。野球人生に狂いが生じたといっても過言ではない。そんな選手が、そしてあれだけのベテランがひとつのプレーに全集中を注ぐ。勝利を使命とし、勝つために何が必要なのか──ソフトバンクはそれを全員が理解し、実行しているように見えた。

 ソフトバンクに息づく勝利のメンタリティ。南海、ダイエーと長かった低迷期を脱出した1999年以降のチームから代々継承されてきたものだ。

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 工藤公康監督は日本一決定後の記者会見でこのような話をしていた。

「ホークスは、王会長が強いチームにしたいという思いでつくられたチーム。それを秋山(幸二)監督、そして私と受け継いできたつもりです」

 ソフトバンクの強さの理由は、王イズムの浸透だ。ただ、ふと思う。その源流は巨人だ。V9というプロ野球史に燦然と輝くあの当時の巨人に息づいていた魂を、王会長はホークスに持ち込み、伝えたのだ。

 だからこの両チームのメンタリティは同じはずだ。しかし、今の巨人を見ていて、ソフトバンクと同じ魂は感じなかった。これは想像にすぎないが、FA戦士をかき集めた時期に伝統の継承が薄まってしまったのではないだろうか。本当の意味での「GIANTS PRIDE」をどこかに置き去りにしたままであるのなら、ソフトバンクの牙城を崩すのは容易なことではない。

 来年はどんな顔合わせになるかわからないが、もっと胸熱くなる頂上決戦を期待したい。

Sportiva

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