勝敗を分けたKeePerとRAYBRIGの残酷な燃費バトル。タイヤの摩耗と燃費の不確実性【第8戦富士GT500あと読み】

2020年11月30日(月)10時30分 AUTOSPORT web

 ファイナルラップの最終コーナーを立ち上がって、チェッカー手前の大逆転により決まった2020年のGT500チャンピオン。チェッカー手前でガス欠してタイトルを逃したKeePer TOM’S GRスープラと、大逆転でタイトルを決めたチェッカー後にガス欠したRAYBRIG NSX-GT。両車のエンジニアのコメントとともにレース終盤を振り返る。


 レースも3分の1を終えてピットウインドウが開いた(規定周回数をクリアする)22周目、7番手グリッドから2番手まで順位を上げていたRAYBRIG NSX-GTがピットインした。


「セーフティカーのリスクなどを考えて予定どおりミニマムの22周目にピットイン。燃料はスタートで満タン、ピットタイミングでも満タンでした」とRAYBRIGの伊与木仁エンジニア。


 残り周回数は43周。数周が過ぎてステアリングを握る山本尚貴に燃費計を読んでもらうと、「そんなに余裕があるわけではなかった」(伊与木エンジニア)。


 テレメトリーの使用が許されていないスーパーGTでは、正確な燃費は把握できない。ドライバーは燃料流量計の数字をエンジニアに伝え、およその燃費と燃料タンクに残っているガソリン量を類推しながら、ドライバーにエンジンマッピング変更などの指示を出す。


 RAYBRIGはこのままでは燃費が厳しく、伊与木エンジニアは山本に燃費セーブを伝えた。アンチラグを切り、山本は後ろのau TOM’S GRスープラに迫られながらもリフト&コースト(ストレートエンドでアクセルを抜いて惰性で進む距離を稼ぐ)で若干ペースを調整しながら、燃費を稼いだ。


 そして残り10周、勝負どころを迎えることになった。


「尚貴から『チャンピオンが獲れないならリタイアしても一緒だから行かせてくれ』と言われて、本人がそれで納得ができるのなら、チームとしても納得できるし、今回がレイブリックの最後のレースだけど懸けようと。そして残り10周あたりに尚貴に『もう、行っちゃえ!』と。アンチラグも全部入れました」(伊与木エンジニア)


 実はこのタイミング、伊与木エンジニアにとってはまさに懸けでもあった。


「燃費はもう、カツカツよ(笑)。計算だとチェッカーを受けたときに残り1kgという状態だった。1kgだと(燃料ポンプが)吸えるかどうかわからない。これまでは最低でも2kgは残るようにしていた」


 そしてもうひとつ、この時期ならではの読めない要素があった。


「気温が下がってきてロータンクになると、もっとペースが上がる。そこでタイヤのグリップが落ちてきていたらペースが上がらずに燃費も上がらないけど、今回選んだタイヤだとデグラデーション(タイヤの劣化)が少ないから、ロータンクになっていくと結構タイムが上がる。タイムが上がると、燃料もより喰ってしまう。それが怖かった」


 通常なら、ガソリンの量が減ってクルマが軽くなることよりもタイヤの劣化の影響が大きく、ラップタイムは下がっていくが、今回はタイヤの劣化が少なかったためにタイムは下がらず、その結果燃費もよくなかった。そしてレース後、RAYBRIGとKeePerは同じコンパウンドのタイヤを使っていたことが判明した。


 結果的にRAYBRIGはチェッカー後にガス欠。「おそらく、たとえば今回のサーキットがSUGOだったなら、最後のストレートの坂で登らなかったかもしれない」と伊与木エンジニアが話すように、ギリギリの状態でRAYBRIGはトップチェッカーを受けることになった。


 一方、チェッカー直前でガス欠してRAYBRIGにトップを奪われ、惰性で2位チェッカーを受けることになったKeePer TOM’S GRスープラ。小枝正樹エンジニアがレース直後、肩を落としながらも取材に答える。

チェッカー後にガス欠してウイニングランがFROで牽引となったRAYBRIG NSX-GT



■自分を責めるKeePer小枝エンジニア。それでも強かった今季のトムス



「(止まったのは)ガス欠です。燃費はそこまでギリギリではないと思っていたんですけど、もうちょっと給油をしておかなくてはいけなかった……満タンにしておかなければいけなかったのだと思います。ピットインの時は予定どおりの給油は入っていたはずですが……ちょっと……考えが足りていませんでした」と、自分を責める小枝エンジニア。


 まだマシンが戻って来ていない段階でのコメントで、ガス欠の原因はトラブルやアクシデントの可能性もあり、原因調査はこれからだが、小枝エンジニアは自分を責める。


「いろいろ要因はあるとは思いますが、いろいろな意味で僕のミスです」


 KeePer TOM’S GRスープラはレース終盤、残り数周となったところでステアリングを握る平川亮から無線が入り、そこで小枝エンジニアはじめチーム全員が驚くことになった。


「最後の最後に『ロー・フューエル』と亮が無線で言って来た時に、本当はそんなことはないはずなのに、というとことはありました……本来はそんなはずではない。『なんで!?』となっていたところで……」


「そこでまたセーブしてもらうべきだったのかもしれません。でも、後ろから(RAYBRIGが)来ていた状況でしたから行くしかないと思ったけど、でも、それ以前にちょっと……考えが至らなかったところがあります。本当に申し訳ない。あそこまでは順調だと思っていましたけど、あとひとつ……いやひとつじゃない、僕がちょっと考えが及んでいないところがあった」


 この言葉を聞いた時、平川はまだ表情台のセレモニーの途中で、小枝エンジニアはマシンを降りた平川とは話をしていない段階だった。


「亮には本当にごめんなさいと言いたい。こちらのミスです。本当にごめんなさい」


 KeePer TOM’S GRスープラの山田淳監督もまた、ドライバーふたりに頭を下げる。


「決してずっと攻めて走っていたわけでもなく、ピットタイミングにピット作業、ファイナルラップの最終コーナーまではすべて順調に進んでいたはずなんですけど……。結果的にガソリンが足らずにというところですけど、どうしてそうなったかという原因がつかめていません。まずは何が起きてそうなったか、しっかりとリサーチしないといけない。少し時間はかかると思います」


「(レース後)平川とも話をしましたけど、本人的にはまだちょっと、なかなか受け入れられない状況なので……平川、山下(健太)ともに一生懸命走ってくれて、すばらしい仕事はしてくれたので、結果からすると非常に申し訳なかったという思いは当然あります」と山田淳監督。


 KeePer TOM’S GRスープラにとっては、あまりに残酷な結末。それでも、敗れたものの2020年シーズンを通してau TOM’S GRスープラとともにトムスの2台が強かったことに変わりはない。


 逆転でチャンピオンに輝いたRAYBRIGはもちろん、この最終戦一戦の結末だけでなく、むしろKeePerも今シーズンここまで強力なチームとしてGT500を率いてきた存在であることを讃えたい。

まさかの逆転負けとなり、チェッカー直後に険しい表情を見せるKeePer山下健太


大逆転のチェッカー後、涙と嗚咽が堪えきれず座り込むRAYBRIG牧野任祐

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