“魔物”が棲んでいたJ1昇格プレーオフ準決勝。長崎と山形はなぜ敗れたのか
2024年12月3日(火)14時30分 FOOTBALL TRIBE
12月1日に開催された2024シーズンのJ1昇格プレーオフ準決勝。J2リーグ3位のV・ファーレン長崎が同6位のベガルタ仙台戦(ピーススタジアム長崎)で1-4で敗れた。また、同4位のモンテディオ山形も同5位のファジアーノ岡山戦(NDソフトスタジアム山形)で0-3で完敗。いずれも下剋上を許し、J1昇格を逃した。
共にリーグ戦上位の長崎と山形はなぜ敗れたのか。ここまでの背景や来2025シーズンに向けての状況から、12月7日に行われるJ1昇格プレーオフ決勝についてまで、詳しく見ていこう。
プレーオフの大本命だった長崎
長崎は、2023年12月末に2022シーズンから指揮を執るファビオ・カリーレ監督が突然、レアンドロコーチ、デニスコーチ、セザールコーチらスタッフを引き連れ、ブラジルのサントスFCと契約。二重契約にあたるとして、クラブがFIFAに提訴するに至るというゴタゴタ劇があったにも関わらず、ヘッドコーチに内定していた下平隆宏氏が監督に“昇格”する形で2024シーズンに臨んだ。
2019シーズンには横浜FCをJ1昇格に導いた実績もある下平監督は、フアンマ・デルガド、エジガル・ジュニオ、マルコス・ギリェルメといった強力なブラジル人FWの得点力を最大限に生かした攻撃的スタイルで臨み、J2リーグの総得点はぶっちぎりの「74」。総失点「39」もリーグ戦4位の数字で、得失点差ではJ2最大の「35」だ。
第3節から22戦負けなしで、リーグ戦での連敗は1度だけという手堅さも持ち合わせる一方で、夏場に7戦未勝利に陥るものの、思い切った若手の登用などで悪い流れを断ち切り、結果的に2位で自動昇格した横浜FCとの勝ち点差「1」にまで迫ったことで、プレーオフの大本命と目されていた。
しかし、12月1日のJ1昇格プレーオフ準決勝では、リーグ戦最終節(10月27日)の愛媛FC戦(ニンジニアスタジアム)での勝利でプレーオフ圏内に滑り込んだ仙台の森山佳郎監督に研究し尽くされていた。リーグ戦で1勝1引き分けと勝ち越していることも自信に繋がっていたこともあるだろう。
圧倒的にボールを支配しながらも、しっかりと構え、ショートカウンターを狙う仙台。前半31分、長崎DFヴァウドがPKを献上。追う立場に立たされると、徐々にその術中にハマり、後半にはさらに失点を重ねていく。後半31分、MFマテウス・ジェズスの得点で反撃の狼煙を上げるが、時すでに遅し。その後、ダメ押しの4失点目を喫し、収容人数とほぼ同数の2万0001人(うちベガルタ仙台サポーターは約2,000人)の前で、“プレーオフの魔物”を目の当たりにする結果となった。
長崎が来季J1自動昇格を目指すには
長崎は今年、オーナー企業であるジャパネットホールディングスが総工費約1000億円をかけ、スタジアムに加え、ホテルやアリーナ、商業施設などを組み込んだ一大複合施設プロジェクト「長崎スタジアムシティ(2024年10月オープン)」を完成させ、勝負のシーズンとして臨んだ。
J1昇格という果実を得られなかったことで、来2025シーズン再びJ2を戦うことになったが、今季披露した圧倒的な攻撃力には、他クラブも放っておくわけもなく“草刈り場”となってしまいかねない。
MFマテウス・ジェズス(今季リーグ戦18点)、FWエジガル・ジュニオ(同15点)、MFマルコス・ギリェルメ(同12点)、FWフアンマ・デルガド(同10点)の強力外国人アタッカーには熱視線が送られており、ギリェルメ以外はJ1での経験もあることから、触手が伸びてくることは必至だ。ジェズスは長崎との契約を1年残すものの、契約解除金(移籍金)を支払ってでも、その決定力を欲しがるクラブが現れるだろう。
想定より1週早くストーブリーグに突入してしまった長崎が、来季J1自動昇格を目指すためには、上記助っ人4選手の残留が必須であり、さらに、GK、DF陣も補強ポイントとなる。J1クラブのオファーに対し、“ジャパネット・マネー”でどれだけ相対することができるのかが、今オフの見どころの1つだ。
不運だった山形の現在地
一方、リーグ戦終盤、怒涛の9連勝でプレーオフ圏内に滑り込んだ山形は、最終節からプレーオフまで3週間もの期間が空いてしまったことで、勢いが削がれてしまったのは不運だった。J1昇格プレーオフ準決勝岡山戦では、前半に2失点したことで完全に浮き足立ってしまい、後半9分には焦りからDF川井が一発退場。さらに失点を重ね、スコア通りの完敗だった。
夏の移籍期間に、地元出身のMF土居聖真が鹿島アントラーズから完全移籍で加入したことがきっかけで快進撃が始まった山形だが、純国産チームとあって、今オフに他クラブから引き抜きに遭うことは少ないと考えられる。
継続性の観点では、続投なら来季3シーズン目を迎える渡邉晋監督の下、より洗練されたサッカーを披露するだろう。2桁得点がFW高橋潤哉(11点)1人だったことから、願わくば点取り屋タイプの選手が欲しいところだ。
J1昇格プレーオフ決勝、岡山vs仙台
そして12月7日に行われるJ1昇格プレーオフ決勝。J1初昇格まであと1つの岡山が、V候補に圧勝し勢いに乗る仙台をホームのシティライトスタジアムに迎えて対決する。2006年創立以来の悲願を目の前にする岡山に対し、4年ぶりのJ1復帰を目指す仙台という対照的な立ち位置のクラブによる一戦だが、再び劇的展開が待っているのか。
昨2023シーズンのJ1昇格プレーオフ決勝、東京ヴェルディ対清水エスパルス(2023年12月2日国立競技場1-1/レギュレーションにより東京Vが昇格)では、後半アディショナルタイムでのPK判定で、清水が天国から地獄に突き落とされた。
岡山のホーム「シティライトスタジアム」は、竣功当初は「桃太郎スタジアム」の名で親しまれ、のぞみも停車するJR岡山駅から徒歩圏内だ。J1昇格となれば、J1クラブのサポーターも大挙遠征してくることが予想され、市街地も活気付くだろう。
一方、仙台は来季、ユアテックスタジアム仙台の芝生張替工事のため6月末まで、2002年ワールドカップ日韓大会で日本代表がラウンド16でトルコ代表に敗れたことでも知られる収容人数約5万人の東北最大スタジアム「キューアンドエースタジアムみやぎ(宮城スタジアム)」を使用することになる。J1に昇格して、そのキャパシティーに相応しいクラブを目指すことは当然のことだ。
それぞれが最大級のモチベーションをもって臨むことに加え、サッカーの神様の“いたずら”が今回も出現するのか、見逃せない一戦だ。