Jリーグの問題点を看破したANA総研レポートの強烈さ「ぐうの音も出ない」
2024年12月5日(木)18時0分 FOOTBALL TRIBE
2024年8月、レッドブルによる大宮アルディージャ買収に併せ、チーム呼称に「いよいよ企業名付記解禁か!?」と噂される中、同月30日付けで、全日空のグループ企業であるANA総合研究所から発表された『Jリーグは誰のものか』と題した研究レポートが注目されている。
Jリーグ全体が抱える問題を詳細に至るまで指摘し、「サッカーは文化」などという綺麗事を見事なまでに看破している同レポート。なぜこうしたレポートを、クラブ合併から2002年まで横浜F・マリノスをスポンサードしていた全日空側から出す必要があったのか。
それは2024年4月に発刊された『横浜フリューゲルスはなぜ消滅しなければならなかったのか』(田崎健太氏著・カンゼン社刊)によって、フリューゲルスの運営会社「全日空スポーツ」の放漫経営ぶりがヤリ玉に挙げられたことへの“アンサー”として世に出されたという見立てがなされている。
実に刺激的な内容で、Jリーグが置かれた実情を暴き、ファン・サポーターにとっては耳の痛い真実をこれでもかとばかりに突いている同レポート。ここでは、同レポートがサッカー界に与えるインパクトと、今後の展望について深掘りしたい。
「企業名NG」の背景に穴
まずは冒頭にも触れた企業名の点だ。Jリーグ初代チェアマンの川淵三郎氏は、チーム名については「ホームタウンの地名+愛称」にこだわり、頑として企業名の付記を認めなかった。ヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)のオーナーだった読売新聞社の渡邉恒雄主筆とのメディアを通じた論争は、創立当初のJを知る人ならば記憶しているだろう。ちなみに川淵氏は「フランチャイズ」という野球由来の概念も拒んだ。
これに対し、レポートでは「ジェフユナイテッドに関してJEFは『JR East Furukawa(JR東日本と古河電工)』の略であるが、チームの名前として見逃された形になった。フリューゲルスもチーム名をAS横浜(ANAと佐藤工業)としておけばそのまま使用できたかも知れず、面白いところだ」と、シニカルに指摘している。
そもそも渡邉氏が企業名をチーム名に含めようとしたのは、仮にクラブが赤字となっても親会社からの補填を「宣伝広告費」として経費計上できるメリットがあったからだ。Jリーグバブルに沸いた創立当初は誰しもがバラ色の未来しか想像できていなかったが、渡邉氏は“アフターバブル”を想定していた点で、先見の明があったと認めざるを得ない。
そして実際、1998年、マスコミによるスクープという形でフリューゲルスとマリノスとの合併交渉が発覚する。出資会社のもう一方の佐藤工業が経営不振のためクラブ運営から撤退し、全日空も単独でのクラブ運営を諦め、マリノス側に合併話を持ち掛けた。おおよそ合併が内定してから川淵チェアマンの耳に入り、選手などの現場組はマスコミ報道によって知ったという有り様だった。
企業と自治体に依存したビジネスモデル
同レポートでは、各クラブのビジネスセンスの無さも指摘しており、放映権料やチケット収入、物販収入など、具体的な数字を挙げ、それに対するチーム人件費の高さを批判している。そしてこう述べているのだ。
「いくつかのクラブは自治体所有の競技場の指定管理者として、自己所有の競技場に近い権利を有している。指定管理者制度は 2003年に自治法が改訂され開始された制度であり、それまでは公の施設の管理主体は出資法人、公共団体、公共的団体に限定されていたものが、法人その他の団体であれば特段の制限は設けられなくなった」
「つまりJクラブの運営会社が自治体の競技場を管理運営することができるようになったのである。そして多くの場合、運営管理を行った結果赤字になった場合は、自治体から指定管理料として赤字補填がされるのである。Jクラブは、本体の事業の赤字補填は責任企業から受け、競技場の赤字補填は自治体から受けるという、夢のような構造によって成り立っている」
嫌味タップリの筆致だが、ぐうの音も出ない真実だ。
比較対象として、試合数が違い過ぎるプロ野球(NPB)やメジャーリーグ(MLB)、バスケットボールのBリーグ、さらには世界中に放映権料を売ることができるほどの競技クオリティーを誇るイングランドのプレミアリーグやドイツのブンデスリーガを引き合いに出している点には“ズルさ”も感じさせるものの、実際にクラブ運営に携わった企業から出されたレポートだ。説得力が違う。
さらに、スポンサー企業と自治体に依存したビジネスモデルを批判的に突いた上で、DAZNとの長期大型契約のデメリットを指摘し、放映権料を現在の7倍の1クラブ20億円ほどに引き上げ、アジアのマーケットを開拓せよと提案している。ほぼ不可能な提案に思えるが、そこまでJリーグは追い込まれているのだ。
改めて「Jリーグは誰のものか」
そして最後には「現時点でのJリーグはチーム名に企業名も出せない親会社の資金により運営され、自治体によって建設された競技場を安価で使用し、身の丈に合わない選手報酬を支払って運営されている。プロスポーツビジネスとしては成り立っておらず、宣伝媒体としても機能していない状態」とトドメを刺して、レポートを締めている。
“たられば”の話になるが、もし創立当初からチーム名に企業名を入れることを認めていれば、税制上の優遇も得られ、より多くの資金を集めることが可能だったのではないか。フリューゲルスも存続可能だったのではなかったかという思いが頭をもたげる。今となっては、川淵氏の理想論より、渡邉氏の主張の方が正しかったと認めざるを得ないのだ。
外資系企業によるクラブ買収が可能となり、レッドブルという“黒船”が上陸したことで、「企業名禁止」という巨大な山が動く可能性が出てきた。もしそうなれば、レッドブルが大宮アルディージャ買収に使った3億円(累積債務は除く)など、すぐにでも回収できるだろう。ちなみに2025年1月からの大宮のチーム名は「Red Bull」ではなく、ドイツ語の「Rasen Ballsport(芝生の球技)」の略称である「RB」を加えて「RB大宮アルディージャ」と発表された。
なお、株式会社メルカリが鹿島アントラーズ買収に使った額は16億円、株式会社ミクシィはFC東京を11億5,000円で手に入れたとされている。そのニュースに触れた際には「安すぎる」と感じたが、現状Jクラブの市場価値はその程度なのだ。レポートの指摘通り、クラブの価値を上げスポーツビジネスとして成立させるには、上記の収入源のみでは不足だ。放映権もDAZNに握られている以上、頼ることもできない。
赤字体質から脱するための対症療法である上、古参サポーターからの批判も覚悟で、「企業名OK」という改革を断行する時期に来ているのではないだろうか。同レポートから言葉を借りれば、クラブを事実上支えているのはサポーターではなく親会社なのだ。レポートの題名である『Jリーグは誰のものか』の問いに対する答えは、自ずと理解できるだろう。