ハリルJに必要な人材。「持たされること」への懸念。パッキングポイントという評価軸【データアナリストの眼力】

12月8日(金)10時39分 フットボールチャンネル

ハリルホジッチ監督が落とし込もうとしているコンセプト

 12月9日から始まるE-1選手権に向けて準備を進めているハリルジャパン。11月の欧州遠征ではブラジル、ベルギーといった強豪を相手に苦戦を強いられたが、本大会に向けた課題はどのようなものだろうか。ハリルホジッチ監督が日本代表チームに落とし込もうとしているコンセプトを踏まえ、データアナリストの庄司悟氏が分析する。(分析:庄司悟/取材・文:中山佑輔)

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 2017年11月のインターナショナルマッチウィークでは欧州遠征を実施した日本代表。2018年ロシアワールドカップでシード国であるポット1に入ったブラジル、ベルギーとの2連戦となったが、力の差を見せつけられ、ブラジルには1-3、ベルギーには0-1で敗れた。

 データアナリストの庄司悟氏は、この2連戦でヴァイッド・ハリルホジッチ監督が落とし込もうとしている本番仕様のコンセプトが試されたと考えている。そのコンセプトとはどういったものか。

「ワールドカップのアジア最終予選を通して、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が日本代表に叩きこもうとしている戦い方のコンセプトが見えてきました。ボールを持ったときは、センターバック間でのやり取りを減らして前線の選手に素早くボールをつける。それも中盤中央にボールを通すのではなく、サイドバックからウイングへパスをして前進するというイメージです。

 なぜそうしているかというと、中盤でのボールロストは相手の決定機創出に直結するからだと思います。これは現代サッカーのトレンドに即したものです。中盤中央を打開できる技術やスピードを兼ね備えたデ・ブルイネのような選手がいれば話は別ですが、日本にそういったクラスの選手はいない。

 となれば、中盤中央を通すのはメリットよりもデメリットのほうが大きい。いっぽうで中盤を打開されると大ピンチになるので、そこには守備強度が高い選手を置くかたちになっています」

プランの実行が難しかった欧州遠征の2試合

 そのような戦い方がW杯で上位進出を狙う強豪国相手にどれだけ通用するか。庄司氏は、それが11月シリーズのポイントになると指摘していたが、この2試合をどのように評価しているのだろうか。

「正直に言って、厳しい結果になってしまったと言わざるを得ないです。ベルギー戦ではかなり改善されたとはいえ、ブラジル戦では後方でのやり取りが多くなってしまいました。表1を見てください。ハリルホジッチ監督のゲームコンセプトがはまったアジア最終予選のオーストラリア戦と欧州遠征の2試合を比較します。

 前線の選手は交代選手が多いので個々の数値を見るとわかりづらいかもしれませんが、パス受けの数字を4バックと3トップでそれぞれ合計して、その割合を見てみると、ブラジル戦では4バックの選手たちの割合が明らかに増えています。ベルギー戦では後方で回す割合は改善されたとはいえ、結局FWの3人にボールが入っている割合は低いです。

 オーストラリアとの2戦では、4割ないし3割のパスを3トップに供給できていました。ですが、ブラジル、ベルギーとの2戦では、3トップが受けたパス数はどちらも17.5%と2割にも到達していません。当初想定していたプランはポット1のチームを相手にすると実行が難しかったと言えそうです」

 庄司氏が語るように、特にブラジル戦の前半はまさしく「格の違い」を見せつけられたような試合となった。序盤に2点を奪われ、なかなかボールを前に運べず、ペナルティエリア付近まで前進したかと思えばそこからボールを奪われてカウンターから3失点目も喫してしまった。庄司氏はこの3失点目が特に印象的だったと語っている。

「ブラジル戦の3失点目はとても残念でした。というのも、2013年のコンフェデレーションズカップのブラジル戦でパウリーニョに決められたゴールとよく似ていたからです。クロスが飛んできたコースがディフェンスラインの手前か後方かという違いはあるのですが、問題は同じようなところにあると思います。

 クロスが上がるときに、ペナルティエリア内にいる日本の選手は一直線になっています。日本のDFが一直線になっているということは、クロスを上げる選手の視野から考えると、極端な言い方をすればDF1人分のパスコースしかなくなっていないんですよ。

 だからクロスを上げる選手からすれば、ボールを通すのが楽なんです。クロスを受ける側からしても、DFラインからずれたポジションを取っていればボールを受けやすいはずです。日本の守備陣は人数こそいたものの、守っているエリアは狭かった。4年間経っても、選手が変わっても、同じような失点をしてしまったのは残念ですね」

「ボールを持たされる」ことへの懸念

 ブラジル戦の3失点目は被カウンターによるものだったが、日本は2014年のブラジルワールドカップでもカウンターを受けたときのもろさを露呈していた。庄司氏は、ハリルホジッチ監督が日本代表を率いている現在でも、この部分が本大会に向けて危険なところだと指摘している。

「日本がボールポゼッションからのカウンターに弱いということは2014年のワールドカップで証明済みです。前大会のコロンビア戦のボールポゼッション率の推移を時間ごとに示したのが図1なのですが、ボールポゼッションでは日本が上回っていますね。結果はご存じのとおり、1-4で日本が負けました。得点が必要だったという状況もありましたが、前がかりになってカウンターから失点を重ねたことは記憶に新しいですね。

 ハリルホジッチ監督は『ポゼッションすれば勝てるというわけではない』という趣旨のことを言っていて、ポゼッション志向でないことは明白です。そして、ハリルホジッチ監督が落とし込もうとしているゲームコンセプトは、ポゼッション重視でないことに加え、不用意なボールロストを減らそうという意図が読み取れます。

 相手から奪ったボールをサイドから素早く前線に送り、そこで攻めきるイメージです。カウンターは相手の守備が整っていないところを攻め込むので、守備ブロックを作られたときよりも攻めやすいということもあるでしょう。

 とはいえ、相手が守備ブロックを整えてきたら、ボールを握りながら崩さなければならない。ですがポゼッションをして攻めるというのは、今の日本の陣容的に難しいところがある。それは守備の強度を優先しているので仕方ない部分が大きいですが、被カウンターに弱いチームが、ボールを持ったら崩せないという状態です。となると、日本にボールポゼッションさせてしまえという戦い方をされる恐れがあります。

 ポゼッションを重視していなくても、そうした状況に誘導されてしまう可能性があるわけです。ボールを持たされた状況で困難に陥ってしまうと、ブラジル戦の3失点目のようなカウンターをくらう可能性が高まります。そうした例としては、ドルトムントでクロップ監督が最後に指揮を執ったシーズンを思い返すとわかりやすいでしょう。まさにそのような戦略をブンデスリーガで取られてしまい、大苦戦していました」

攻撃面での成果を評価できる「パッキングポイント」という指標

 庄司氏が「ポゼッションをメインにしていなくても、ボールを持ったときにどうするかということは本大会を戦う上で必要なことです」と語るように、相手の守備ブロックを崩すときにどうするかは日本の課題になりそうだ。ただ、ボールを持っているだけでフィニッシュまで持ち込めない状況でボールを失えば、カウンターから失点してしまいかねない。ボールを持ったときに、より実効的な攻めができているかが重要になる。

 ボールポゼッション率は相手の守備を崩せているかに関してそれほど直接的な意味をもたないが、攻撃面での成果、プレー内容を評価できる値はないのだろうか。庄司氏によれば、相手の守備を崩すという意味でより有意義な指標として「パッキングポイント」という考え方がドイツで考案されているという。

「ボールポゼッション率では、実際に相手を崩せているかがわかりません。それを踏まえて考案されたのが『パッキングポイント』というものです。これは、1本のパスで何人の相手選手を飛ばすことができたか、を計る指標です。

 図2にあるように、たとえば選手Aが選手Bにパスを通して、Bが前を向けたとします。このパスでは6人の相手選手を通過しているので、6ポイントが入ります。Bが前を向けなかった場合は、貢献度が下がるのでポイントは80%減らされて20%分のポイントが入ります。このケースでBが前を向けなければ、6×0.2で1.2ポイントが入るということですね。

 これは出し手と受け手の両方にポイントが入ることになっています。つまりパス出しがうまいだけでなく、パス受けがうまい選手も評価されるわけです。手元にEURO2016におけるチームごとの『パッキングポイント』をまとめたデータがあるのですが、GS1位突破を果たした6チームが全24チームのトップ6を独占していました。現代サッカーにおいては、かなり有意義な指標と言えると思いますね」

 日本代表は9日からE-1選手権に臨む。庄司氏はこの大会の注目ポイントについて、「ハリルホジッチ監督がまず落とし込もうとしているゲームコンセプトに適応できるかということに加えて、ボールを持ったときに『パッキングポイント』のような考え方でどれくらい貢献ができるかというところも見どころになりそうですね」と語った。北朝鮮、中国、韓国という東アジアの3チームを相手に、日本はどのような戦いぶりを見せるだろうか。

(分析:庄司悟/取材・文:中山佑輔)

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