鬼木体制で培われた川崎Fの対応力【天皇杯決勝】まるで黄金時代の鹿島

2023年12月11日(月)14時0分 FOOTBALL TRIBE

天皇杯優勝 川崎フロンターレ 写真:Getty Images

天皇杯JFA第103回全日本サッカー選手権大会の決勝が12月9日に行われ、川崎フロンターレが柏レイソルにPK戦の末に勝利(0-0、PK8-7)。3大会ぶり2度目の天皇杯優勝を成し遂げている。


柏に攻め込まれる時間があったものの、これを耐え忍んだ川崎F。いかにして試合の均衡を保ち、勝利を手繰り寄せたのか。ここでは国立競技場(東京都新宿区)にて行われた激闘を振り返るとともに、この点について論評する。川崎Fを天皇杯優勝に導いた鬼木達監督の会見コメントも、併せて紹介したい。




川崎フロンターレ GKチョン・ソンリョン 写真:Getty Images

川崎Fvs柏:試合展開


45分ハーフの前後半を終えた時点で、スコアは0-0。延長前半9分に、川崎FのGKチョン・ソンリョンが柏のFW細谷真大との1対1を制したほか、柏のGK松本健太も延長後半13分に相手FWバフェティンビ・ゴミスのヘディングシュートを懸命の横飛びで防ぐ。15分ハーフの延長戦でもスコアは動かず。試合の決着はPK戦に委ねられた。


PK戦も天皇杯の歴史に残る激闘に。後攻の柏の4人目キッカー、MF仙頭啓矢のシュートがポストに嫌われたが、先攻の川崎Fの5人目ゴミスのシュートが松本に防がれる。両チーム5人蹴り合ってPK戦スコア4-4と、ここでも決着がつかなかった。


川崎Fの6人目、DF登里享平のシュートを松本が止めたことで柏は優勝に近づいたが、この直後のDF片山瑛一(柏の6人目)のシュートがクロスバーに当たり勝利を逃してしまう。川崎Fの10人目チョンのシュートがゴールネットに突き刺さり、同じく10人目のキッカー松本のシュートがチョンに防がれたことで、激闘に終止符が打たれた。




川崎フロンターレvs柏レイソル、先発メンバー

巧みだった前半20分までの凌ぎ方


基本布陣[4-4-2]の2トップ、細谷とMF山田康太を起点にハイプレスを仕掛けてきた柏に対し、川崎Fは手始めに最終ラインからのロングパスで局面打開を試みる。基本布陣[4-1-2-3]のセンターFWレアンドロ・ダミアンや、柏の両サイドバック(片山とMF土屋巧)の背後を狙う意図が窺えた。このロングパスはなかなか決定機に繋がらなかったが、自陣での危険なボールロストを防ぐという点では効果的だった。


前半20分頃まで川崎Fはボールを保持できなかったが、この時間を境に隊形変化を駆使し、柏のハイプレスを掻い潜りにかかる。この日も中盤の底を務めたMF橘田健人と、インサイドハーフとして先発したMF瀬古樹が、自陣からのパス回し(ビルドアップ)の際に味方センターバックとサイドバックの間へ降りるように。これにより、細谷と山田のプレスに晒されていた川崎Fの2センターバック、MF山村和也とDF大南拓磨の負担が軽減された。


DF山根視来(右サイドバック)が自陣タッチライン際から内側にポジションを移し、味方センターバックの手前付近でボールを捌いたことも、川崎Fが防戦一方に陥らなかった要因のひとつ。橘田、瀬古、山根が立ち位置を変えたことで柏はハイプレスを躊躇するようになり、[4-4-2]の守備隊形のままセンターサークル近辺や自陣へ撤退している。前半20分以降の、川崎Fの試合の主導権の手繰り寄せ方は巧みだった。




柏レイソル FW細谷真大 写真:Getty Images

柏が活かしたかった好機


試合全体を通じて柏の[4-4-2]の守備ブロックは強固で、最前線、中盤、最終ラインの3列の距離感もコンパクトに保たれていたが、それだけに前半23分に訪れたカウンター発動のチャンスを活かしたかった。


ここでは川崎Fのパス回しを敵陣左サイド(川崎Fにとっての自陣右サイド)へ追いやり、左サイドハーフとして先発したMFマテウス・サヴィオが山根にプレスをかける。縦のパスコースを塞がれた山根は、自身の左隣に立っていた橘田へパスを出した。


山根のパスを受けた橘田に、柏のFW細谷がプレスをかけてボール奪取を試みたが、後方から橘田を躓かせたためファウルと見なされてしまう。連動性溢れるプレスで川崎Fのパス回しを片方のサイドへ追いやったうえ、山根の横パスに対する細谷の反応も素晴らしかっただけに、ファウル無しでボールを奪いきり速攻に繋げたかった。


今回のように拮抗した試合では、こうした細部が勝負の分かれ目となる。ファウル無しでボールを奪いきる。これが細谷の伸び代のひとつだろう。


川崎フロンターレ 鬼木達監督 写真:Getty Images

川崎Fは国内屈指の万能型チームに


ジョゼップ・グアルディオラ監督時代のバルセロナを彷彿とさせる流麗なパスサッカーで、Jリーグを彩ってきた川崎F。風間八宏前監督時代からの強みである精巧なパスワークはそのままに、2017シーズンより指揮を執る鬼木監督のもとで、あらゆる試合展開に対応できる万能型チームへと変貌。同年のJ1リーグ制覇を皮切りに、多くのタイトルを手にしてきた。


鬼木体制下で培われた川崎Fのこの特長は、今回の天皇杯決勝でも発揮されることに。試合開始の笛とともに柏にロングボールを放り込まれ、その後も柏のハイプレスや速攻を浴びたが、先述の通りこれを凌いでみせた。


攻撃面では自陣後方からの丁寧なパス回し(遅攻)と、相手最終ラインの背後をダイレクトに狙う速攻。守備面では相手最終ラインを強襲するハイプレスと、自陣や中盤への撤退。今回の天皇杯決勝のような劣勢の試合でも、これらを相手の出方に応じて選び、勝機を見出していく。


このしたたか且つオールマイティーな戦いぶりは、まるで1990年代後半から2000年代前半にかけて数多の国内タイトルを勝ち取り、2007年から2009年にかけてJ1リーグ3連覇を成し遂げた鹿島アントラーズのようだった。




川崎フロンターレ 鬼木達監督 写真:Getty Images

川崎Fに染み付いた「タイトルを獲るときの空気感」


試合後に行われた記者会見(質疑応答)で、鬼木監督は柏に主導権を握られた時間帯について反省。そのうえで、苦境を乗り越えた選手たちを称えている。


ー柏のペースで長い時間試合が進みました。自分たちのサッカーができなかった原因は何でしょう。


「選手同士の距離感が遠くなっていたと思います。2センターバックのところで(ボールを保持できる)時間はありましたけど、アンカー(中盤の底)や右サイドで、(ボールを)なかなかピックアップできない状況が続いてしまいました」


「ポジションがすべて中途半端でしたね。(中盤の選手が最終ラインへ)降りるなら降りきるとか。(最終ラインを)3枚にしてパスを回すよう、途中から指示を出しましたけれど、(強力な)カウンターがあるチームが相手でしたので、中央にパスを付けるのを怖がってしまったのかなと。どこで起点を作るのかをはっきりとさせてあげられなかったのは、自分の力(不足)だと思っています」


ー選手に鬼木監督の話を訊くと、「あんな負けず嫌いな人はいない」という答えが皆さんから返ってきます。(昨2022シーズンなど川崎Fが)無冠だった期間は、負けず嫌いの鬼木監督にとって苦しいものだったと思います。タイトルへの思いを何度も口にされていて、今回(の天皇杯決勝で)獲りました。今のお気持ちを教えてください。


「タイトルはどんな形でも獲り続けないと、獲れないことに慣れてしまいます。タイトルを獲るときの空気感という、どうしても言葉では説明できないものを選手に味わってほしい。次の世代にも伝えてほしいと思っています。それはすごく必要なことですね。(こうした意味で)タイトルを獲れたのは喜ばしいことだと思います」


「ただ、この大観衆のなかで自分たちのサッカーで勝利できたかというと、そうではありません。非常に悔しさが残っていますし、もっともっとやっていかなきゃいけない。チームの底上げのところ(必要性)を感じています」


「ただ、どんな状況でも、苦しいなかでも勝てるというのは簡単なことではありません。これは本当に説明が難しいですけど、全員が本当に細かいところにこだわって、全員が勝ちにこだわらないと優勝はないと思っているので、そこは選手の成長を感じています」


鬼木体制がスタートした2017シーズン以降、川崎FはJ1リーグを4回制覇。これに加えルヴァンカップ優勝1回、2度の天皇杯制覇を成し遂げている。かつて鹿島の選手だった鬼木監督が、川崎Fに勝者のメンタリティーや逆境を乗り越えるための忍耐力をも植え付けた。

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