【ライターコラムfrom名古屋】“風間スタイル”はまだまだ発展途上…圧倒的攻撃力の裏に多くの課題

12月14日(木)18時1分 サッカーキング

名古屋グランパスは風間体制1年目でJ1復帰を掴んだ [写真]=Getty Images/J.LEAGUE

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 ギリギリの目標達成だった。J2優勝を逃し、自動昇格を逃した時点で彼らの戦いは「本来目指していた場所ではない」(和泉竜司)ものだ。プレーオフではシーズン中に勝敗を度外視してまでこだわってきたボール保持とショートパスを主体としたビルドアップを一部諦め、勝敗にこだわった戦いで勝ち抜いた。もちろんそれは彼らの成長の一端でもあり、やろうと思えばいつでもできたのだという底力を示すものではある。とりわけプレーオフという結果重視の戦いではそれは正確な判断だったとも思う。しかしそれならばシーズン中のヤマとなる試合でもそれをやっていれば、自動昇格の座を得ることもできたのではないかという疑問も浮かぶ。その順位にいれば昇格が決まる自動昇格圏と、シーズンの成績がまるで無視される可能性のあるプレーオフでは抱えるリスクは雲泥の差だ。結果としてプレーオフを制して昇格を勝ち取ったがゆえにその仕事ぶりは称賛されているが、まるで優勝したかのように褒め称えていては本質を見失う。彼らは現時点では“J1の最下位”のようなもの。そうした点を踏まえてから、1年の歩みを振り返らなければいけない。

 風間八宏監督はよく“目”という言葉を使う。独特と表現され、実際に独特な指揮官のサッカースタイルの根底には、まず選手全員が同じビジョンを描いてプレーできているかという考え方が徹底されているからだ。攻守ともにチームとしての決まった戦術を持たず、技術と判断力を総合した「個人戦術」の集合体として機能することを目指すチームにとっては、選手個々の判断基準が揃っているかが生命線になる。シーズンが進むにつれ、監督から「目が合ってきた」「目が揃ってきた」という言葉がよく聞かれるようになってきたのが印象的だ。今や名古屋の特徴的な動きにもなってきたサイドやバイタルエリアでの細かいパスワークはパターン練習の賜物ではなく、狙うべき場所やすべき動きの共有によって即興的に生み出されているものだ。「パターンじゃない」は風間監督の口癖であり、逆説的な言い方にはなるが、水物と言われる攻撃をロジカルに構築する類稀なる手段をこの指揮官は持っている。リーグ42試合で85得点、プレーオフ2試合を含めると44試合88得点の“平均2得点攻撃陣”は、意図して組み上げられてきた彼らのアイデンティティーが詰まっている。

 しかし一方で守備陣にはかなりの負担がかかった1年でもあった。攻撃が水物なら守備は水をも漏らさぬ緊密な組織力が必要なものだ。もちろんここでもチームが選手に求めたのは個人戦術で、なるほど個の局面で負けることがなければその連なりによって守備は成立するかもしれない。そもそもが「攻撃に軸を置いているから守備は問題視していない」と言い切る指揮官である。ボールを保持していれば攻められることはなく、奪われたら可及的速やかにボールを奪い返すという部分は徹底していたが、そこから先は選手個々あるいは数人のグループとしての共通理解が頼みの綱。後半戦になって「まずは下がってそこから出ていく」(武田洋平)という守備の基本的な考えが徹底されたが、そのことでカウンターを受けやすくなる傾向も生まれた。いずれにせよ攻撃がうまくいっている時には守備のリスクも軽減されるが、その大前提が崩れるだけで守備陣の負担は倍増。終盤戦では失点の質も変わり、失点数そのものも減った感があったが、それはメンバーの固定化が進んだからである。

 今季の名古屋は特に前半戦では試合ごとに選手が入れ替わるカメレオンのようなチームだったが、それはこと守備においてはネックでしかなかった。守備は連係力だと考える楢崎正剛はことあるごとに「メンバーが固定されない」とこぼし、「そこで自分が力を発揮しなければ」と人一倍の責任感を抱えてプレーしていた。だが、終盤9試合で控えに回ってからは「紅白戦の相手をしていて、向こうの連係が深まっているのは感じる」と話している。それは対峙する攻撃陣への感想であると同時に、守備陣への評価も同時に含まれていた。戦術云々はさておき守備力とはやはり組織力である。J2リーグ42試合で65失点という数字はお世辞にも良い数字とは言えず、かといって前述の理由を考えれば守備陣を責めるのもどこか違和感がある。来季、J1での戦いを展望するに、失点をどうやって抑えるかはこのチームの大きな課題になる。

 チーム作りは良くも悪くもシビアに、そして理想を追求する形が貫かれた。風間八宏監督の持論は「上から揃えていく」こと。それはつまり変則的なスターシステムだ。チームで一番上手い選手に最高のパフォーマンスを発揮させ、それに次ぐ選手たちにも同様の法則を適用する。その結果、チームにはその時期ごとのトップグループが形成され、彼らのためのトレーニングが第一優先に行われることになった。シーズン後半には別メニューもなくなったが、前半戦は紅白戦にも入れず基礎的なボールトレーニングとフィジカルトレーニングに明け暮れる選手たちも少なくなく、練習試合もほとんど組まれなかったために試合勘も失われていった。ある時トップグループに加わり、試合にも出られるチャンスを得た選手の一人は意気込みつつ、こうも漏らしている。「試合を全然やっていないので、めちゃくちゃ不安です」。風間監督は「試合よりも厳しい練習をしている」と自信を見せたが、紅白戦と実戦はそれでも別物である。今季のリーグ戦出場数を見ると20試合以上に出場した選手は14人しかおらず、これは限られたスタメンとベンチメンバーで戦ってきたことの何よりの証左となるものだ。風間監督は「今季は誰が前にいるかというところから始まったけど、来季は全員が前にいるという状況で入ってほしい」と語っており、このトップグループをどれだけ拡充することができるかも、ルヴァンカップを含めたJ1を戦う上では重要になってくる。

 もちろんシビアなチーム作りには良い面もあった。高い能力を持つ選手には極めて高い要求をし、チームの骨格を成すだけのハイパフォーマンスを発揮させるに至っている。代表的な例が不動のボランチコンビとなった小林裕紀と田口泰士である。小林はプレシーズンから主力として良い動きを見せてきたが、第2節の岐阜戦で低調なプレーに終始しわずか33分で交代させられている。負傷もあってその後はサブチームでのトレーニングが続いたが、風間監督は良くなってきたと見るやまずはセンターバックとして起用し、責任感と視野の確保をリマインド。そこからアンカー、ボランチと徐々にポジションを上げさせると、背番号17は攻守に欠かせぬチームの心臓部とまで呼ばれるようになった。一方で田口はといえば、新しいスタイルへの順応が遅れる最中で、沖縄キャンプで負傷離脱。しかし戦線に復帰すると瞬く間にトップグループ入りし、「前でプレーしろ」という監督の要求を意識することで持ち前のパス能力とシュート能力がさらに開花。“覚醒”後の田口を「あいつ、前にしかパスを出さないでしょ?」と風間監督は笑ったが、その才能は攻撃に迫力と意外性を与え、自身もリーグ9得点と躍動した。「サポーターのために闘うシーズンと決めていた」という熱い気持ちも彼を突き動かし、プレーオフでは起死回生のゴールも奪うなどその貢献度も高かった。彼らだけでなく、ポリバレントな起用に応えた和泉竜司やシーズン44戦で43試合に出場した宮原和也、そして11得点を奪った青木亮太など若手の育成にも成功しており、新たなチームアイコンを誕生させた手腕は見事なものだったと言えるだろう。

 2017年のチームの特徴を今一度振り返れば、ショートパスを主体とした攻撃サッカーは、自分たち主導で展開できるようにはなった。ひとたびハマれば3得点や4得点は楽々と叩き込む得点力や攻撃の構成力といったものは、ことJ2では別格の存在であることは示した。ただしその特徴ゆえに極端な対策であればあるほどはまりやすい部分もあり、千葉や徳島のような運動量豊富でハイプレスが得意なチームや、2敗を喫した大分や金沢のようにゴール前を固められてのカウンター戦術には、攻めあぐねた裏をかかれる傾向はまだまだある。攻撃がハマればと書いたが、それはトップグループの選手をどれだけ揃えられるかという部分にも関わってくる問題で、それゆえに主力の酷使が目立った1年でもあった。来日した週末から試合に出続けたシャビエルが終盤で肉離れを起こしたのはその最たる悪例で、それ以外にも実は今季は主力の負傷者が目立ったシーズンでもある。風間監督は試合前日までハードなトレーニングを課すことでも知られ、パス本数の多さによる内転筋への負担といった部分とも選手たちは戦ってきた。

 そうした総合的なチームマネジメントは1年間の蓄積を元に見直されるべきで、その点で期待したいのは練習試合の増加とアカデミーとの連携強化だ。前者は既に書いた通り、後者については2017年、ついぞユースからの練習参加がなかった。一からのチーム作りの中でその余裕がなかったのは考慮すべき事情だが、加入が内定している早稲田大の秋山陽介や興国高の大垣勇樹、そして東海学園大3年の渡邉柊斗らは練習参加の機会を与えられてもいる。今季のU−18にはU−18日本代表の主力である杉浦文哉やU−17日本代表の不動のスタメン菅原由勢など逸材もいた。しかし今季はユースからの昇格はゼロ。クラブの財産である彼らをトップチームがしっかり評価するシステムを確立できるかも、2年目の風間体制には求められる。

 物事に完璧はなく、J2を3位で勝ち抜けた名古屋はさらに未完成な集団である。修正すべき箇所は山のようにあり、それはそのまま彼らの伸びしろでもある。「一からどころかマイナスからだよ」と指揮官が笑った2017年のチームは、日々姿を変えつつ今後を戦うベースを築いた。1年でのJ1復帰と同時にそれを為したことは、高く評価されるべき部分だろう。後年、「J2でのあの1年がチームの礎を作った」と語られる時が来るような気もするが、それはあくまで結果論である。降格が必要なクラブなどなく、あくまでそれは実力主義の世界の結果に過ぎない。「落ちて良かった」ではなく、「その逆境をバネにした」のが名古屋の2017年だった。彼らはこれでようやく本来の居場所を取り戻したにすぎず、その真価が問われるのは2018年の戦いである。しかし2年ぶりのJ1の舞台でそれを問うことができる期待感がある昇格チームも、多くはないことは確かだ。

文=今井雄一朗

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