アカデミー期待の星。東京ヴェルディ綱島悠斗インタビュー「“ここで立ち止まっちゃいけない”という気持ちが強い」
2023年12月20日(水)18時50分 サッカーキング
ジュニアからユースまで10年間にわたって東京ヴェルディのアカデミーに在籍していた綱島悠斗が、国士舘大学での“武者修行”を経て、今年古巣への凱旋を果たした。4年間で自身の価値を高め、「周りから何と言われようと、プロになるならヴェルディでと決めていた」と、多岐にわたる進路からヴェルディ入りを選択。他クラブには脇目もふらずに戻ってきたのは「ヴェルディをJ1に上げるため」、ただその一心だった。
アカデミー時代、各年代で監督やコーチから「ヴェルディを変えるのはお前らしかいない」とクラブの再建と未来を託されてきた。その悲願を成し遂げた今、綱島の胸に去来する思いとは……。
──J1昇格おめでとうございます。プロ1年目でJ1昇格という貴重な経験ができたことへの率直な感想を聞かせてください。
綱島 ありがとうございます。まだ信じられないというか、夢なんじゃないかと思っています。試合が終わったあと、たくさんの人からお祝いのメッセージをいただくなど、いろいろな反響があったのですが、それでも今はまだ現実味がないというか、来年J1で戦うという実感がありません。去年の今頃、プロとしてやれることにワクワクしていましたが、普通であればそのワクワクは1年も経てば慣れてしまうものだと思います。でも、来年J1で戦えることで、今もまた去年と同じぐらいワクワクできています。それって、ものすごくありがたいことだなと感じています。
──清水エスパルスとのJ1昇格プレーオフ決勝は、後半アディショナルタイムに獲得したPKで決着するという最高に劇的な幕切れでした。
綱島 そうですね。結果的に引き分けで勝ち抜けられたことはすごくプラスに捉えています。でも、内容面でいうと、まだまだ反省が必要だなという気持ちが強いです。というのも、この先J1にいったら、ああいう強い相手、緊張感のある試合で、自分たちがボールを意図的に動かして、点を取っていかなければいけないというシチュエーションが増えてくると思うんです。レベルが一つ上がったところで、自分たちのプレー、自分たちの目指すサッカーができなかったという意味では、「上がれて良かった」で終わらせてはいけないと思います。これからヴェルディをJ1に定着させて、日本サッカー界を背負っていくぐらいまで大きくしたいという気持ちがあるので、そこにたどり着くためにも、J1に上がっただけで満足していてはダメだと思っています。
──その決勝戦で、綱島選手は74分から途中出場しました。「引き分けでも昇格」というアドバンテージがある中で、1点ビハインドの状況での投入でしたが、どんな気持ちでピッチに入りましたか?
綱島 (63分の)失点シーンを長谷川竜也くんと一緒にベンチで話しながら見ていたのですが、「1点だったらこのチームはまだ大丈夫」、「俺たちがここで負けるはずがない」という根拠のない自信がありました。それは多分、今年のチームがものすごく勝負強かったことが理由だと思います。今年のチームはキャプテンの森田晃樹を中心に幾度となく難しい戦いをモノにしたり、ビハインドの試合をひっくり返したりしてきました。だからこそ、焦りというものは全くなかったですし、あの試合も他のベンチメンバーと「自分たちが流れを変えよう」と話していました。
今季のチームはベンチメンバーのことを“ゲームチェンジャー”と呼んでいたのですが、このチームにとってゲームチェンジャーの役割はものすごく重要でした。特にリーグ戦の最終盤は、平智広くんをはじめとするゲームチェンジャーが出てから点が入ることも多かったですよね。もちろん、先発メンバーの頑張りがあってというのが大前提なのですが、たまたま自分たち交代選手が出たタイミングでゲームが動く試合が続いていたので、あの試合も「やってやろう!」という気持ちでピッチに入りました。
──城福浩監督も開幕直後から「バトンをつなぐ」という言葉で今季のチームの戦い方を表現し、交代で入る選手の役割の重要性を強調していましたね。
綱島 平くんや奈良輪雄太さんなど、途中から入った選手が背中で示してくれたことが、僕の中ではすごく大きかったです。あれほど経験のある選手が、こんなにも身を投げ出してボールを取ったり、弾き飛ばされながらも前にクリアしたり、そういうシーンを日々目にしていたので、「自分も負けていられない」とシーズン通して思っていました。
──プロ1年目は34試合に出場して2得点という成績でした。自身の今シーズンを振り返るとどうですか?
綱島 正直、全く満足していないですし、合格点すら与えられないというのが自己評価です。「自分がこのチームの中心に立って、チームを引っ張っていきたい」という気持ちで大学から乗り込んできたにもかかわらず、実際はシーズン通して途中から試合に出ることのほうが多かったですからね。もちろん、試合に絡めたことにはすごく感謝していますし、いろいろなポジションで出場機会を得られたのは自分にとってプラスでしたが、それは裏を返せば、自分の本職のポジションで勝負ができていないということでもあります。本職のポジションでのプレー水準・基準をもっと上げていく。今年はそこが物足りなかったので、来年はもっともっと自分にフォーカスして、ポジションを奪いたいです。
──『本職』として勝負したいのは、大学時代もやっていたボランチですか?
綱島 そうですね。アンカーとして守備と攻撃、両方をやりたいと思っています。ただ、今年のリーグ戦の最後のほうでFWやトップ下など前のポジションに配置されて、その楽しさを見つけられた部分もありました。自分のプレーの幅を広げるためにも、後ろでも前でもプレーの基準を上げていけたらと思っています。
──FW起用は初めてだと話していましたが、これまでとは違うポジションを経験したことで学べたことはありますか?
綱島 いろいろな気づきがありましたし、これは新たなポジションをやったからということに限らないのですが、今年一年で本当にサッカーに対する知識をたくさん学べました。試合映像を振り返るときなども、今までは良いプレーができたときと、悪いプレーをしてしまったときとの違いがよく分かっていませんでした。でも、この一年間みんなとコミュニケーションを取ってきて、「このタイミングで首を振っているからターンができた」とか、うまくいく理由が分かってきました。そこは、これからもっともっと追求していきたいです。
──違いに気づけるようになったきっかけがあったのですか?
綱島 はい。これは自分にとってものすごく大きかったのですが、長谷川竜也選手と出会えたことで、自分のサッカー観が大きく変わりました。先ほど話した、試合映像を振り返るときのポイントなど、細かい話になってしまうのですが、例えばターンをするときのボールの置き場所について、「必ずターンできるところがあるから」ということを教えてもらいました。「相手が来ているからターンできない」ではなくて、「相手がいても、こっち向きにターンすればボールを奪われずに前を向けるよね」というところまで追求できるようになったんです。竜也くんが来て、そうした気づきをもらえたことで、自分でも頭を整理することができましたし、そういう学びがあったからこそ、前線のポジションで使ってもらえたのかなと思います。
──長谷川選手が加入した影響の大きさは、他の多くの選手からも聞かれました。チーム全体としては、具体的にどのような部分に彼の影響を感じましたか?
綱島 竜也くんがみんなの前に出て、「こうしよう」というのは全くないんですよ。でも、個人間のコミュニケーションを図るのがすごく上手で、僕に対してだけでなく、他の選手に対しても、普段の練習から「ここをこうしたほうがいいんじゃないか?」とアドバイスしてくれて、それについて気づいたことを、またみんなで話し合うという流れが自然とできていたんです。以前は、「来てる! 前向け。後ろ向け」というような、ざっくりとしたコミュニケーションだけで“要求”の声が少なかったんですが、竜也くんが来てからは、「右足につけたらターンできるから、右足につけてくれ」、「左足につけてくれ」、「強いパス」、「弱いパス」というように、パス一つとってもより細かい要求ができるような環境になりました。そこが一番変わったところだと思います。
──二つ先、三つ先のプレーにつながるコミュニケーションができるようになったのですね。
綱島 そうです。一対一ではなく、一対全体みたいな感じです。一人に対してのアドバイスではなく、「おまえがこうすることによって、他の選手も良くなる」みたいな、全体を考えての指示が多かったので、聞いている選手が自然と次のプレーを考えられるようになっている状態でした。本当に竜也くんの力はすごいなと思います。ただ、いつまでも「すごい」と言っていてはダメなので、今後は自分からもそういう発信をしていけるように成長したいです。
──ヴェルディユースからトップ昇格を果たせず、国士舘大学で4年間を過ごしました。5年ぶりにクラブに戻ってきて何か感じたことはありましたか?
綱島 すごく愛のあるクラブだなということを、より感じることができました。ファン・サポーターの皆さんは温かいですし、知っているスタッフ・コーチがアカデミーにたくさんいて、そういう方々と話す機会がたくさんあったのもうれしかったです。それに、なんといっても、味スタ(味の素スタジアム)のピッチは小さい頃からずっと夢見てきた場所なので、そこでプレーできた喜びはものすごく大きいです。アカミー時代、味スタにトップチームの応援に行った日は、その日見たピッチを思い出しながら家の近くを走っていました。そんな憧れのピッチに自分が立っている状況というのは、ものすごく心に響くものがあります。
──今季は、ジュニア時代からアカデミーでともに切磋琢磨してきた森田選手がキャプテンを務めました。同級生として、彼の奮闘をどう見ていましたか?
綱島 アカデミー時代から変わらず素晴らしいキャプテンですね。彼は口でどうこう言うタイプではないのでミーティングでもあまり喋らないですし、完全に背中で、行動で見せるタイプです。そこは昔見ていた後ろ姿と全く変わっていません。頼りになるところも相変わらずですし、観客を沸かせるプレーもアカデミーのときから変わってなくて、本当に良いキャプテンだなと思います。晃樹が「(J1に)上げたい!」と言ったから、みんなもついてきたんだと思います。それぐらいチーム全員から信頼される存在です。
──多くのアカデミー出身選手が活躍しましたが、一方で長谷川選手や宮原和也選手、齋藤功佑選手、中原輝選手など新しくチームに入ってきた選手たちと融合することの大切さも強く感じたのでは?
綱島 そうですね。プロになって一番驚いたのは、シーズンの開幕当初と終盤で、メンバーが変わるということでした。夏に他クラブへ移籍した選手やヴェルディに加入した選手がいましたが、元々いたメンバーと途中から入ってきたメンバーの融合って、本来はすごく時間がかかると思うんですよね。だけど、今年のヴェルディにはうまくいかない時期というのがなかったように感じます。それは、城福監督の手腕の素晴らしさだと思いますし、晃樹のマネジメント能力もあるのかなと思います。
──森田選手のマネジメント能力について詳しく聞かせてください。
綱島 練習中から各選手といろいろと話していましたし、練習後も(齋藤)功佑くんらと一緒に映像を見たりして、相互理解を深めていました。晃樹はそういう個々でのコミュニケーションがすごくうまいんです。それをしていたことで、新しく入ってきた選手たちもチームにどんどん馴染んでいったんじゃないかと思います。
──綱島選手の東京Vへの思いの強さは人一倍だと思いますが、クラブのJ1復帰の瞬間に自分がピッチに立っていためぐり合わせについてはどう感じますか?
綱島 すごく幸せなことですし、うれしいです。アカデミーでの10年間、「J1に上げるのはお前らだ」と言われ続けて、それをプロ1年目で達成できたのは素直にうれしかったですし、「頑張ってきて良かったな」という気持ちです。でも、育成のときから言われていた「お前らがヴェルディをJ1に上げて、ヴェルディを再建しろ」というのは、「日本サッカー界のトップにいて、日本代表に何人も選手を送り込むようなクラブになる」という意味だと思っています。クラブをJ1に上げられたのは良かったですが、今は「ここで立ち止まっちゃいけない」という気持ちのほうが強いです。
──プレーオフ決勝の国立競技場には、5万3000人以上の観客が集まりました。いかに多くの人が東京VのJ1復帰に注目していたかを感じたのでは?
綱島 準決勝のジェフユナイテッド千葉戦でも、味スタのゴール裏が埋まっていて、「こんなにもヴェルディのファン・サポーターがいたんだな」と正直驚きました。そして決勝では、さらに多くの観客が見に来てくれて、「ヴェルディを気にかけてくれている人が、世の中にこれだけいるんだ」とうれしい気持ちでいっぱいでした。自分たちが強いヴェルディを取り戻して、昔の強かったヴェルディを期待して見に来てくれた観客に、また緑のユニフォームを着て味スタに来てほしいなという気持ちがあります。
そういえば、昇格が決まった翌日、友だちと多摩センターの温泉に行ったのですが、お風呂にテレビがあって、たまたまプレーオフ決勝が流れていたんです。それを見ていた20人ぐらいの人はみんなヴェルディが勝ったことを知っていて、「ヴェルディ上がって良かったな」、「ヴェルディ応援してたんだよね」と話していました。普段は世間の声というのはなかなか聞こえてこないですが、ヴェルディを知ってくれている人がこんなにいて、プレーオフを注目してくれていたんだと知って、幸せな気持ちになりました。
──そこで、「おー! 綱島選手じゃん!!」とはならなかったのですか(笑)?
綱島 ならなかったです! そこは、これからの課題です(笑)。
──来季はいよいよJ1の舞台での戦いとなります。新たな挑戦への思いを聞かせてください。
綱島 日本サッカー界のトップリーグなので、そこで結果を残せば日本代表への道も開けてくると思いますし、日本代表に選ばれているJ1の選手たちに自分がどれだけ通用するのかと今からすごく楽しみです。ヴェルディに入ることが自分にとっての一つの目標でしたが、その先には「日本代表になる」という目標もあります。それを達成するためにも、代表に選ばれている選手と同じピッチで「やってやろう!」という気持ちです。
──最後に、綱島選手が思う今の東京Vの魅力とは?
綱島 プレー面で言えば、うまい選手、そして戦える選手が多いところですね。相手を見てギリギリで判断を変えられる、ボールを奪われない、細かいところでもパスをつなげる、そういううまい選手たちが“戦える”ようになった。その象徴が晃樹ですね。彼は育成時代からめちゃくちゃうまくて、守備も上手でしたが、高校時代まではあまり力強さを感じませんでした。でも、今回の清水戦では乾貴士選手に競り勝つシーンもあったりして、戦える選手、強い選手になったんだなとはっきり感じました。それは晃樹だけでなく、全員がそうなんです。そこが今のヴェルディの魅力だと思います。
オフザピッチでは、すごく仲の良いチームです。全体練習が終わったあとも、笑いながら自主練をしたり、話したりしていますし、いい意味でベテランと若手の距離感がないのもこのチームの特長です。それはベテランの方々の気遣いもあったと思うので、本当に感謝しています。残念ながら、チームを離れてしまう選手もいますが、そういう選手たちの想いも背負って来年も頑張ります!
インタビュー・文=上岡真里江
アカデミー時代、各年代で監督やコーチから「ヴェルディを変えるのはお前らしかいない」とクラブの再建と未来を託されてきた。その悲願を成し遂げた今、綱島の胸に去来する思いとは……。
──J1昇格おめでとうございます。プロ1年目でJ1昇格という貴重な経験ができたことへの率直な感想を聞かせてください。
綱島 ありがとうございます。まだ信じられないというか、夢なんじゃないかと思っています。試合が終わったあと、たくさんの人からお祝いのメッセージをいただくなど、いろいろな反響があったのですが、それでも今はまだ現実味がないというか、来年J1で戦うという実感がありません。去年の今頃、プロとしてやれることにワクワクしていましたが、普通であればそのワクワクは1年も経てば慣れてしまうものだと思います。でも、来年J1で戦えることで、今もまた去年と同じぐらいワクワクできています。それって、ものすごくありがたいことだなと感じています。
──清水エスパルスとのJ1昇格プレーオフ決勝は、後半アディショナルタイムに獲得したPKで決着するという最高に劇的な幕切れでした。
綱島 そうですね。結果的に引き分けで勝ち抜けられたことはすごくプラスに捉えています。でも、内容面でいうと、まだまだ反省が必要だなという気持ちが強いです。というのも、この先J1にいったら、ああいう強い相手、緊張感のある試合で、自分たちがボールを意図的に動かして、点を取っていかなければいけないというシチュエーションが増えてくると思うんです。レベルが一つ上がったところで、自分たちのプレー、自分たちの目指すサッカーができなかったという意味では、「上がれて良かった」で終わらせてはいけないと思います。これからヴェルディをJ1に定着させて、日本サッカー界を背負っていくぐらいまで大きくしたいという気持ちがあるので、そこにたどり着くためにも、J1に上がっただけで満足していてはダメだと思っています。
──その決勝戦で、綱島選手は74分から途中出場しました。「引き分けでも昇格」というアドバンテージがある中で、1点ビハインドの状況での投入でしたが、どんな気持ちでピッチに入りましたか?
綱島 (63分の)失点シーンを長谷川竜也くんと一緒にベンチで話しながら見ていたのですが、「1点だったらこのチームはまだ大丈夫」、「俺たちがここで負けるはずがない」という根拠のない自信がありました。それは多分、今年のチームがものすごく勝負強かったことが理由だと思います。今年のチームはキャプテンの森田晃樹を中心に幾度となく難しい戦いをモノにしたり、ビハインドの試合をひっくり返したりしてきました。だからこそ、焦りというものは全くなかったですし、あの試合も他のベンチメンバーと「自分たちが流れを変えよう」と話していました。
今季のチームはベンチメンバーのことを“ゲームチェンジャー”と呼んでいたのですが、このチームにとってゲームチェンジャーの役割はものすごく重要でした。特にリーグ戦の最終盤は、平智広くんをはじめとするゲームチェンジャーが出てから点が入ることも多かったですよね。もちろん、先発メンバーの頑張りがあってというのが大前提なのですが、たまたま自分たち交代選手が出たタイミングでゲームが動く試合が続いていたので、あの試合も「やってやろう!」という気持ちでピッチに入りました。
──城福浩監督も開幕直後から「バトンをつなぐ」という言葉で今季のチームの戦い方を表現し、交代で入る選手の役割の重要性を強調していましたね。
綱島 平くんや奈良輪雄太さんなど、途中から入った選手が背中で示してくれたことが、僕の中ではすごく大きかったです。あれほど経験のある選手が、こんなにも身を投げ出してボールを取ったり、弾き飛ばされながらも前にクリアしたり、そういうシーンを日々目にしていたので、「自分も負けていられない」とシーズン通して思っていました。
──プロ1年目は34試合に出場して2得点という成績でした。自身の今シーズンを振り返るとどうですか?
綱島 正直、全く満足していないですし、合格点すら与えられないというのが自己評価です。「自分がこのチームの中心に立って、チームを引っ張っていきたい」という気持ちで大学から乗り込んできたにもかかわらず、実際はシーズン通して途中から試合に出ることのほうが多かったですからね。もちろん、試合に絡めたことにはすごく感謝していますし、いろいろなポジションで出場機会を得られたのは自分にとってプラスでしたが、それは裏を返せば、自分の本職のポジションで勝負ができていないということでもあります。本職のポジションでのプレー水準・基準をもっと上げていく。今年はそこが物足りなかったので、来年はもっともっと自分にフォーカスして、ポジションを奪いたいです。
──『本職』として勝負したいのは、大学時代もやっていたボランチですか?
綱島 そうですね。アンカーとして守備と攻撃、両方をやりたいと思っています。ただ、今年のリーグ戦の最後のほうでFWやトップ下など前のポジションに配置されて、その楽しさを見つけられた部分もありました。自分のプレーの幅を広げるためにも、後ろでも前でもプレーの基準を上げていけたらと思っています。
──FW起用は初めてだと話していましたが、これまでとは違うポジションを経験したことで学べたことはありますか?
綱島 いろいろな気づきがありましたし、これは新たなポジションをやったからということに限らないのですが、今年一年で本当にサッカーに対する知識をたくさん学べました。試合映像を振り返るときなども、今までは良いプレーができたときと、悪いプレーをしてしまったときとの違いがよく分かっていませんでした。でも、この一年間みんなとコミュニケーションを取ってきて、「このタイミングで首を振っているからターンができた」とか、うまくいく理由が分かってきました。そこは、これからもっともっと追求していきたいです。
──違いに気づけるようになったきっかけがあったのですか?
綱島 はい。これは自分にとってものすごく大きかったのですが、長谷川竜也選手と出会えたことで、自分のサッカー観が大きく変わりました。先ほど話した、試合映像を振り返るときのポイントなど、細かい話になってしまうのですが、例えばターンをするときのボールの置き場所について、「必ずターンできるところがあるから」ということを教えてもらいました。「相手が来ているからターンできない」ではなくて、「相手がいても、こっち向きにターンすればボールを奪われずに前を向けるよね」というところまで追求できるようになったんです。竜也くんが来て、そうした気づきをもらえたことで、自分でも頭を整理することができましたし、そういう学びがあったからこそ、前線のポジションで使ってもらえたのかなと思います。
──長谷川選手が加入した影響の大きさは、他の多くの選手からも聞かれました。チーム全体としては、具体的にどのような部分に彼の影響を感じましたか?
綱島 竜也くんがみんなの前に出て、「こうしよう」というのは全くないんですよ。でも、個人間のコミュニケーションを図るのがすごく上手で、僕に対してだけでなく、他の選手に対しても、普段の練習から「ここをこうしたほうがいいんじゃないか?」とアドバイスしてくれて、それについて気づいたことを、またみんなで話し合うという流れが自然とできていたんです。以前は、「来てる! 前向け。後ろ向け」というような、ざっくりとしたコミュニケーションだけで“要求”の声が少なかったんですが、竜也くんが来てからは、「右足につけたらターンできるから、右足につけてくれ」、「左足につけてくれ」、「強いパス」、「弱いパス」というように、パス一つとってもより細かい要求ができるような環境になりました。そこが一番変わったところだと思います。
──二つ先、三つ先のプレーにつながるコミュニケーションができるようになったのですね。
綱島 そうです。一対一ではなく、一対全体みたいな感じです。一人に対してのアドバイスではなく、「おまえがこうすることによって、他の選手も良くなる」みたいな、全体を考えての指示が多かったので、聞いている選手が自然と次のプレーを考えられるようになっている状態でした。本当に竜也くんの力はすごいなと思います。ただ、いつまでも「すごい」と言っていてはダメなので、今後は自分からもそういう発信をしていけるように成長したいです。
──ヴェルディユースからトップ昇格を果たせず、国士舘大学で4年間を過ごしました。5年ぶりにクラブに戻ってきて何か感じたことはありましたか?
綱島 すごく愛のあるクラブだなということを、より感じることができました。ファン・サポーターの皆さんは温かいですし、知っているスタッフ・コーチがアカデミーにたくさんいて、そういう方々と話す機会がたくさんあったのもうれしかったです。それに、なんといっても、味スタ(味の素スタジアム)のピッチは小さい頃からずっと夢見てきた場所なので、そこでプレーできた喜びはものすごく大きいです。アカミー時代、味スタにトップチームの応援に行った日は、その日見たピッチを思い出しながら家の近くを走っていました。そんな憧れのピッチに自分が立っている状況というのは、ものすごく心に響くものがあります。
──今季は、ジュニア時代からアカデミーでともに切磋琢磨してきた森田選手がキャプテンを務めました。同級生として、彼の奮闘をどう見ていましたか?
綱島 アカデミー時代から変わらず素晴らしいキャプテンですね。彼は口でどうこう言うタイプではないのでミーティングでもあまり喋らないですし、完全に背中で、行動で見せるタイプです。そこは昔見ていた後ろ姿と全く変わっていません。頼りになるところも相変わらずですし、観客を沸かせるプレーもアカデミーのときから変わってなくて、本当に良いキャプテンだなと思います。晃樹が「(J1に)上げたい!」と言ったから、みんなもついてきたんだと思います。それぐらいチーム全員から信頼される存在です。
──多くのアカデミー出身選手が活躍しましたが、一方で長谷川選手や宮原和也選手、齋藤功佑選手、中原輝選手など新しくチームに入ってきた選手たちと融合することの大切さも強く感じたのでは?
綱島 そうですね。プロになって一番驚いたのは、シーズンの開幕当初と終盤で、メンバーが変わるということでした。夏に他クラブへ移籍した選手やヴェルディに加入した選手がいましたが、元々いたメンバーと途中から入ってきたメンバーの融合って、本来はすごく時間がかかると思うんですよね。だけど、今年のヴェルディにはうまくいかない時期というのがなかったように感じます。それは、城福監督の手腕の素晴らしさだと思いますし、晃樹のマネジメント能力もあるのかなと思います。
──森田選手のマネジメント能力について詳しく聞かせてください。
綱島 練習中から各選手といろいろと話していましたし、練習後も(齋藤)功佑くんらと一緒に映像を見たりして、相互理解を深めていました。晃樹はそういう個々でのコミュニケーションがすごくうまいんです。それをしていたことで、新しく入ってきた選手たちもチームにどんどん馴染んでいったんじゃないかと思います。
──綱島選手の東京Vへの思いの強さは人一倍だと思いますが、クラブのJ1復帰の瞬間に自分がピッチに立っていためぐり合わせについてはどう感じますか?
綱島 すごく幸せなことですし、うれしいです。アカデミーでの10年間、「J1に上げるのはお前らだ」と言われ続けて、それをプロ1年目で達成できたのは素直にうれしかったですし、「頑張ってきて良かったな」という気持ちです。でも、育成のときから言われていた「お前らがヴェルディをJ1に上げて、ヴェルディを再建しろ」というのは、「日本サッカー界のトップにいて、日本代表に何人も選手を送り込むようなクラブになる」という意味だと思っています。クラブをJ1に上げられたのは良かったですが、今は「ここで立ち止まっちゃいけない」という気持ちのほうが強いです。
──プレーオフ決勝の国立競技場には、5万3000人以上の観客が集まりました。いかに多くの人が東京VのJ1復帰に注目していたかを感じたのでは?
綱島 準決勝のジェフユナイテッド千葉戦でも、味スタのゴール裏が埋まっていて、「こんなにもヴェルディのファン・サポーターがいたんだな」と正直驚きました。そして決勝では、さらに多くの観客が見に来てくれて、「ヴェルディを気にかけてくれている人が、世の中にこれだけいるんだ」とうれしい気持ちでいっぱいでした。自分たちが強いヴェルディを取り戻して、昔の強かったヴェルディを期待して見に来てくれた観客に、また緑のユニフォームを着て味スタに来てほしいなという気持ちがあります。
そういえば、昇格が決まった翌日、友だちと多摩センターの温泉に行ったのですが、お風呂にテレビがあって、たまたまプレーオフ決勝が流れていたんです。それを見ていた20人ぐらいの人はみんなヴェルディが勝ったことを知っていて、「ヴェルディ上がって良かったな」、「ヴェルディ応援してたんだよね」と話していました。普段は世間の声というのはなかなか聞こえてこないですが、ヴェルディを知ってくれている人がこんなにいて、プレーオフを注目してくれていたんだと知って、幸せな気持ちになりました。
──そこで、「おー! 綱島選手じゃん!!」とはならなかったのですか(笑)?
綱島 ならなかったです! そこは、これからの課題です(笑)。
──来季はいよいよJ1の舞台での戦いとなります。新たな挑戦への思いを聞かせてください。
綱島 日本サッカー界のトップリーグなので、そこで結果を残せば日本代表への道も開けてくると思いますし、日本代表に選ばれているJ1の選手たちに自分がどれだけ通用するのかと今からすごく楽しみです。ヴェルディに入ることが自分にとっての一つの目標でしたが、その先には「日本代表になる」という目標もあります。それを達成するためにも、代表に選ばれている選手と同じピッチで「やってやろう!」という気持ちです。
──最後に、綱島選手が思う今の東京Vの魅力とは?
綱島 プレー面で言えば、うまい選手、そして戦える選手が多いところですね。相手を見てギリギリで判断を変えられる、ボールを奪われない、細かいところでもパスをつなげる、そういううまい選手たちが“戦える”ようになった。その象徴が晃樹ですね。彼は育成時代からめちゃくちゃうまくて、守備も上手でしたが、高校時代まではあまり力強さを感じませんでした。でも、今回の清水戦では乾貴士選手に競り勝つシーンもあったりして、戦える選手、強い選手になったんだなとはっきり感じました。それは晃樹だけでなく、全員がそうなんです。そこが今のヴェルディの魅力だと思います。
オフザピッチでは、すごく仲の良いチームです。全体練習が終わったあとも、笑いながら自主練をしたり、話したりしていますし、いい意味でベテランと若手の距離感がないのもこのチームの特長です。それはベテランの方々の気遣いもあったと思うので、本当に感謝しています。残念ながら、チームを離れてしまう選手もいますが、そういう選手たちの想いも背負って来年も頑張ります!
インタビュー・文=上岡真里江