インカレ4進出!明治大学「人間力サッカー」の強さの源とは
2024年12月23日(月)14時30分 FOOTBALL TRIBE
12月22日、栃木県のさくらスタジアムで行われた全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)準々決勝で、関東地区第1代表の明治大学と関東地区第2代表の筑波大学が対戦した。延長戦の末0-0で120分を終え、PK戦(5-4)の結果、明大が勝利。4強に進出した明大は、12月25日の準決勝で新潟医療福祉大学と激突する。
明大は、同大会決勝ラウンドで1勝2引き分け(鹿屋体育大戦0-0、大阪学院大戦2-0、関西学院大戦0-0)と、3試合クリーンシートながらも得点力不足に陥りAグループ2位となったことで、Cグループ2勝1引き分けで1位突破した筑波大と相まみえた。2024シーズンの関東大学リーグ1部では、史上初の22戦無敗(勝ち点52)を成し遂げ、2位の筑波大(勝ち点49)を振り切って優勝を手にしている。ちなみに3位の東洋大学の勝ち点が36だったことから、その“2強”ぶりが伺える。
ここでは明大サッカー部の強さの源に迫る。
インカレ出場のJリーグ内定選手たち
インカレ準々決勝では、両チーム合わせてJリーグ内定選手10人(明大6人、筑波大4人)がスタメン出場した。この段階で対戦するには少々もったいないと感じさせるカードとなった。
明大は、FW半代将都(ロアッソ熊本内定)、MF加藤玄(3年=名古屋グランパス内定)、MF角昂志郎(ジュビロ磐田内定)、主将のDF福井啓太(RB大宮アルディージャ内定)らを擁する筑波大にポゼッションで上回られ攻め込まれるシーンが多い中、GK上林豪(セレッソ大阪内定)、DF内田陽介(東京ヴェルディ内定)、DF永田倖大(京都サンガFC内定)を中心とした守備陣が踏ん張り終盤まで我慢比べが続き、試合は延長戦、そしてPK戦に突入。筑波大の1人目FW内野航太郎のPKを上林が左に飛んでストップ。これに対し、明大は5人全員がPKを決め、紙一重の勝負をモノにした。
これで大会を通じて全4試合連続無失点の明大。一方で、ここまで全2ゴールと得点力不足が課題だが、主将を務め、背番号10を背負うFW中村草太(サンフレッチェ広島内定)や、FW熊取谷一星(東京ヴェルディ内定)、副将でFC東京U-23時代の2019年、Jリーグ・アンダー22選抜の一員としてJ3リーグ戦に出場経験のあるMF常盤亨太(FC東京内定)ら、タレント揃いの攻撃陣の爆発が待たれる。
現役プロ選手輩出数最多の明大
明大サッカー部は栗田大輔監督の下、約60人の部員で活動している。部員3桁が当たり前の強豪大学の中ではやや少ない印象(筑波大の部員数は約160人)だが、65人にも上る現役プロ選手を輩出しており、その数はもちろん日本一だ。
Jリーガーのみならず、セリエAを皮切りに欧州(トルコ、フランス)を渡り歩き、38歳となった今でも日本代表に名を連ねるDF長友佑都(FC東京)を筆頭に、ブンデスリーガ2部ハノーファー96に所属する元日本代表DF室屋成や、Jリーグを経ずにブンデスリーガのヴェルダー・ブレーメンに加入したFW佐藤恵允も明大出身だ。
栗田監督にプロ経験はないが、サッカーでも進学実績でも名門として知られる静岡県立清水東高校出身で、1学年下には相馬直樹氏(来季から鹿児島ユナイテッド監督兼GM)、2学年下には野々村芳和氏(現Jリーグチェアマン)などと切磋琢磨していた。全国高校サッカー出場はならなかったが、明大に進学してサッカー部に入部。卒業後は清水建設に入社した。
明大で長く監督を務め、当時J3のグルージャ盛岡も指揮した神川明彦前監督(現なでしこリーグ・スフィーダ世田谷監督)がユニバーシアード日本代表に就任したことで、2013年にコーチ、2014年は助監督を務めていた栗田氏が、2015年に後任として監督に就任。当時、既に勤務先の清水建設では提案営業部長の職にあったが、社業と指導者を兼任する“サラリーマン監督”だった(後の2022年には清水建設を退社し、「株式会社フットランド」を設立、自ら代表取締役となる)。
勉学優先で「人間力の成長」から
明大で神川前監督時代からチームの軸とし、栗田監督にも受け継がれているのが「人間力の成長」だ。サッカー強豪校やJクラブユースでサッカー一色の高校時代を過ごしてきた新入生に対し、まずは大学生として、勉学優先の意識を植え付けるところから始めるのが“明大流”のようだ。
それは明大サッカー部の標語でもある「1年生=戸惑い」「2年生=気づき」「3年生=責任」「4年生=象徴」という言葉にも現れている。特に1年生時の「戸惑い」という言葉には、サッカー漬けの学生生活をイメージして入学してきた新入生に対し、きっちりと授業を受けさせることによるギャップを言い表しているかのようだ。
サッカー部の朝練は朝6時から始まり、1限目の授業に合わせて8時には一旦終わる。ほぼ授業免除で練習に打ち込むことが許され、“セミプロ化”している他の強豪校とは大きく異なる。
それでも就任後、60人を超える卒業生をプロの世界に送り込んでいる栗田監督。その裏には、サッカー選手としての能力以上に、一社会人としての人間形成に重きを置いていることが評価され、各クラブから「栗田監督の教え子なら」と信頼を勝ち得ていることを裏付けている。
栗田監督就任後の明大の実績としては、2015年、総理大臣杯(全日本大学サッカートーナメント)と関東大学リーグ戦1部で準優勝。翌2016年には創部95年で総理大臣杯初優勝し、関東大学リーグ戦1部では現行の12チームになって最速での優勝を果たし2冠を達成。2017年は総理大臣杯準優勝。2018年は総理大臣杯優勝。
2019年は関東大学リーグ戦1部、関東大学トーナメント大会(アミノバイタルカップ)、総理大臣杯、インカレ、東京都サッカートーナメント(天皇杯東京都代表決定戦)全てで優勝し5冠を達成。総理大臣杯では大会初の5年連続決勝進出。2020年は関東大学リーグ戦1部で、創部以来初の連覇(6度目の優勝)を果たす。
引退後にも通づる指導のお手本
それまで東京六大学野球連盟に属し多くのプロ選手を輩出した野球部や、故北島忠治監督が67年間もの長きにわたり指揮を執り「重戦車フォワード」を武器に一時代を築いたラグビー部の人気の陰に隠れがちだった明大サッカー部。栗田監督は日本有数の強豪に育て上げ、「サッカーの明治」とまで呼ばれるようになった。
その間も野放図に部員を増やすことを良しとせず、1学年15人程度に抑え、指導の目が部員一人ひとりに行き渡るような体制を維持し続けている。この点は、競技を問わず“人海戦術”で強化を図っている運動部の指導者にとっては、良いお手本となるだろう。
スポーツ推薦とはいえ、せっかく大学に入ったのだ。そしてサッカーを引退した後も、その人物の最終学歴として一生付いて回ることになる。その学歴にふさわしい人物に育て上げるという栗田監督の考え。一選手としてではなく、まずは一社会人として世の中に出ても恥ずかしくない人間にという意味では、学生スポーツの基本に立ち返るものだ。また、リーダーシップや協調性、コミュニケーション能力やストレスへの耐性など部活動で培った能力が、社会に出た後も活躍するにあたり、大いに役立つことを示しているのではないだろうか。