ケイン・コスギも苦しんだ。悪天候の「SASUKE」の恐ろしさ

12月23日(月)6時30分 Sportiva

サスケ君のSASUKE勝利学 第6回  (第1回から読む>>)

■冬は極寒、夏は灼熱の聖地・緑山

 こんにちは、森本裕介です。

『SASUKE』の番組公式Twitterを追いかけている熱狂的なファンの皆さんはもうご存知だと思いますが、12月31日(火)19時より放送予定の第37回大会の収録は、悪天候の影響で大変な現場となりました……! 僕が過去に出場したどの大会と比べても、最も厳しい環境だったと断言できます。

 聖地・緑山の屋外にコースが設立されるSASUKEは、すなわち天候、環境との戦いでもあります。

 あのケイン・コスギさんが滝のような大雨の中、FINALステージの綱登りに挑んだ伝説の2001年・第8回大会。実況を務めた古舘伊知郎さんの「ケインの悔し涙か! この雨は!!」は、今もSASUKEマニアの間で語り草となっている名ゼリフです。

 夜露の大量発生により多くのリタイア者が続出し、収録延期に追い込まれた「夜露サスペンデッド」2016年の第32回大会。アメリカ版SASUKEの完全制覇者ドリュー・ドレッシェル選手が夜露で滑りながらも圧巻のパフォーマンスで1stステージを突破したのが印象的でした。

 今回は、そんなSASUKEでは避けて通ることのできない「環境への適応」ということをテーマに語らせていただきます。


霧の立ちこめるなか出番を待つ森本(右)とゼッケン99番の川口朋広。今年の大晦日に放送予定の第37回大会は過酷な大会となった


 先に述べたとおり、SASUKEの収録は完全に屋外で行なわれます。緑山の会場は普段はだだっぴろい広場で、もちろん屋根などもありません。冬は寒さ、夏は暑さに対する対策を立てるのが常連選手たちの間では常識になっています。連載第5回でも紹介しましたが、空き時間をレンタカーの中で過ごし、余計な体力の消耗を避けるというのは有効な対策方法のひとつです。


 ここ数回は冬場の開催が続いているSASUKEですが、夏場の緑山は今度は熱中症との戦いです。緑山は、冬は極寒、夏は灼熱と評判で、夏は仲間の出番の際、コースに併走して応援することすら困難になります。

 自分の出番が来る前に熱中症でダウン……などということに絶対にならないよう、こまめに水分補給や休憩をして常に体調管理に気を配るようにしています。

■SASUKEは「摩擦」が命!!

 SASUKEは一瞬のミスが命取りになる一発勝負のスポーツです。どんな実力者でも、間違って足を滑らしたらそれで終わり。例えば1stステージの第3エリア「ウイングスライダー」は摩擦が最も重要といえるでしょう。ここで落下する選手は、シューズの選択をミスしている場合が非常に多いです。

 事前に新品の滑りづらいシューズを購入し、室内で履きならしたり、壁に張りついてみたりして「自分が本当に信用できるシューズ」を用意しておきます。ここは絶対にケチったり、面倒くさがったりしてはいけません。僕は必ず、お金も時間もかけて入念に事前準備します。SASUKEという大事な夢舞台での不安を、たった少しの準備で減らすことができるのだから、やらない理由がありません。

 それでも運悪くセットに水がついていて、滑って落ちてしまうこともあります。

 理不尽に思う選手や視聴者の方もいるかもしれません。しかし、”ミスターSASUKE”こと山田勝己さんの言葉を借りるなら、

「それもSASUKEや」

 ということになります。


史上最も有名なSASUKEプレーヤー、「ミスターSASUKE」こと山田勝己さん。現在は引退し、「山田軍団黒虎」を立ち上げ後進の指導にあたる


「不運」はもうどうしようもありませんが、「準備」によって滑る可能性を少なくすることはできる──そこでSASUKEプレーヤーたちが日々研究しているのが「足元」、先述の「何を履いてSASUKEに出るか」という部分です。


 今、SASUKE界で人気なのはニューバランスのZANTE。いろいろ試したのですが、今、僕が一番気に入っているのはこれです。

 面白いもので、以前海外のSASUKE国際大会に出場したときに、まるで申し合わせたかのように各国の選手ほぼ全員がニューバランスのZANTEを着用していました。それを見て、「どこの国でも考えることは同じなんだなぁ」と感動しました(笑)。

 ほかに、2度の完全制覇を成し遂げている漆原裕治選手が愛用しているハイパーVソールという靴底のグリップ力に定評のあるワークシューズも流行りましたし、クライミングシューズメーカー取締役の川口朋広選手はナイキのシューズを使っています。シューズは人によって合う、合わないがあるので、大事なのは自分で事前に可能な限りいろいろ試して、「自分が本当に信用できるシューズ」を用意しておくことです。


ニューバランスのZANTEを履いてSASUKEに挑む森本(第36回大会)


 僕は自分の家で、壁に霧吹きで水を吹きかけながらいろいろなシューズを履いて、「スパイダーウォーク」を模してそれぞれの滑り具合を試したこともあります。結論から言うと、どんな靴でも濡れたらめちゃくちゃ滑ります(笑)。しかし、シューズによって滑り具合に差はあるのです。ひとつ、これにまつわる印象的なエピソードがあるので、余談になりますがご紹介します。


 昨年末に行なわれた第36回大会、僕はそこに至る1年間、ずっと足袋を履いて1stステージの練習をしていました。本番の1stステージは必ず足袋でやる、そう決めていました。

 ところが本番の3週間前に、その決意をゆるがす出来事が起きました。その日は小雨の降る日で、ふと「夜露対策で、足袋の滑り具合を確認しておくか」と普段使用している足袋を持ってきて、自宅近くの壁に張りついてみました。すると、ものすごく滑ってまったく張りつけない!

 これが本番で起こったらどうなるか……僕は非常に悩みました。というのも、足袋はグリップ力において右に出るものはなく、1stステージで摩擦が重要になる「ウイングスライダー」や「そり立つ壁」では有利になります。一方で「湿気に弱い」という弱点をはらんでいます。

 第32回大会で、幾多の選手が夜露で滑って落ちたシーンが脳裏をよぎりました。しかし、本番直前のこの段階で、それまでずっと練習で使ってきた足袋をやめニューバランスにするのか。大げさではなく、数時間悩みました。

「よし、一度冷静になろう」

 僕はとりあえず足袋の滑りテストをしていた現場を離れ、自宅で入浴しました。目を閉じて、頭の中でじっくりと情報を整理。足袋とニューバランスで挑んだ際のメリットとデメリットを思い浮かべました。

 ●足袋
 メリット:1年間練習で使用して慣れている。摩擦が強いので有利
 デメリット:夜露が出た場合は足が滑り、リタイアの可能性が高まる

 ●ニューバランス
 メリット:足袋よりは夜露に強い
 デメリット:足袋よりは摩擦が弱い。1年間練習で使用していないので不安

「足袋の摩擦はとても有利だが、夜露に対する不安は持ちたくない」

 それが自分の大きな気持ちでした。


 ここで、僕は過去にニューバランスを履いて1stステージをクリアした経験があることを思い出しました。クリアした経験があるのであれば、少々摩擦の劣るニューバランスを履いてでも、夜露に対する不安を完全に消した状態で挑戦した方がいいのではないか? 1年間履いていないとはいえ、過去にクリア経験のあるシューズ。3週間も履けば十分に感覚は取り戻せるはず!

 そう考えた僕は足袋をやめ、ニューバランスで1stステージに挑戦することを決意。結果、その大会の1stステージを無事にクリアすることができました。


1stステージ第3エリアの「ウイングスライダー」は、両手足を壁に突っ張って衝撃に耐える。摩擦が最も重要となるエリアのひとつ(第36回大会)


 もちろん足袋を履いていてもクリアできたかもしれませんし、逆にシューズを履いても滑っていた可能性だってある。一発勝負のSASUKEだからこそ「なんとなく」ではなく、自分の性格的に納得のいく思考の過程を経て、決断することが重要だと思っています。

■コントロールできることに集中する

 ここまでいろいろとSASUKEにおける環境への対応方法を解説してきましたが、最も重要なのは「コントロールできることに集中する」ということです。

 例えば天気。僕も昔は、本番の何日も前から数十分おきに予報を見て当日の天気の推移をチェックしていましたが、天候は自分の力ではコントロールできません。

 自分の出番で夜露が大発生するかもしれない。にわか雨が降るかもしれない。霧が出るかもしれない。でもそれはコントロールできるものではない。だから「仕方ない」と割り切ること。

 SASUKEプレーヤーは皆、半年ないし1年間ずっと、本番で結果を出すことだけを考えて厳しいトレーニングに励んでいます。その日をベストコンディションで迎えられれば言うことなしですが、運悪く最悪の環境で本番に臨まなければいけない場面だって出てきます。


 それを恨むのではなく、悔やむのではなく、不安になり過ぎるのでもなく、それよりも「コントロールできること」に集中する。例えば日々のトレーニング、エリアの研究、自身のコンディション調整、シューズ等の道具の準備……。そういうことを考えるほうが、当日の天気などの「コントロールできないこと」の心配をするよりも100倍大事です!

 そしてもうひとつ。SASUKEの収録は常に、番組を支える裏方のスタッフさんたちが大勢セット脇に待機していて、出場者たちが安全に、万全の状態でSASUKEに挑めるよう、競技の合間に毎回バスタオルで入念にエリアを拭いてくださっています。つまり、そうそう滑ることはない。選手がやるべきことは彼らを信じ、自分のやってきたことを信じて挑戦することだと思います。


SASUKEを支えるシミュレーター。選手の競技間には必ず全エリアをチェックし、濡れている箇所があれば丁寧に拭き上げていく。写真は2019年大晦日放送の第37回大会で初お披露目された「新フィッシュボーン」


 それでも濡れている部分が残っていて、滑って落ちてしまったら。それはもう、運が悪かったと思ってきっぱりあきらめる。これくらいの覚悟ができていれば、本番で不安になりパフォーマンスが下がることはないでしょう。

 自分のコントロールできることに全力で集中する。それは僕がSASUKEに挑む上で常に心がけていることのひとつです。

■今週の格言:「自分がコントロールできること」に集中する!

<プロフィール>森本裕介 Morimoto Yusuke
1991年12月21日生まれ、高知県出身。IDEC株式会社にソフトウェア・エンジニアとして勤務。7歳でSASUKEに目覚め、15歳のときに第18回大会(2007年)で初出場。2015年に史上4人目の完全制覇を達成。第35回、36回大会で出場者100人中唯一FINALステージに進出した、現役最強のSASUKEプレーヤー。森本も出場する『SASUKE NINJA WARRIOR』第37回大会は12月31日(火)19:00よりFINALステージ生中継で放送予定

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