渡邊雄太がNBAの強豪・ラプターズと契約。想起する『スラムダンク』の名言

12月24日(木)6時5分 Sportiva

「オレは間違ってはいなかった」
 名作バスケットボール漫画『スラムダンク』で、湘北高校の赤木剛憲が、神奈川県の絶対王者・海南大附属高校との試合中に心の中でそう叫ぶシーンがある。仲間たちが次々とやめていく中で、努力を続けてきたすべての思いが込められた名言だ。
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NBA屈指の強豪チームに力を認められた渡邊雄太も、同じような気持ちだったかもしれない。

ラプターズと2ウェイ契約を結んだ渡邊雄太
 現地時間12月20日、7年連続でプレーオフに進出(2季前に初優勝)しているトロント・ラプターズが、渡邊と2ウェイ契約を結んだことを発表。その翌日、リモート会見に登場した渡邊の言葉と表情からは、トレーニングキャンプ、オープン戦で力を見せつけ、チームに存在価値を認めさせた喜びが滲んでいた。
「このプレシーズン、短い時間である程度いいプレーができたんじゃないかと、自分でも思っています。何か特別に、去年と違うことをやったというわけではない。今までやっていたことをいつもどおり徹底してやり、それが評価として、結果としてつながっていきました」
 プレシーズン3試合で、渡邊は平均9.9分をプレーし、4.7得点、3.7リバウンドをマーク。FG成功率57.1%、3ポイント成功率60.0%という数字が示すとおり、シュート精度の高さが目を引いた。この結果から、ラプターズは保証された契約を結んでいたひとりを含む3選手を解雇して、渡邊をチームに残すことを決めたのだ。
 渡邊は過去2年もメンフィス・グリズリーズと2ウェイ契約を結んでいるため、「その位置に戻っただけ」と考えることもできる。ただ、キャンプに臨んだ際の渡邊はノンギャランティー契約(エグジビット10)の選手だった。そこから這い上がり、強豪チームとの2ウェイ契約にこぎつけたことには大きな価値があるだろう。

「思っていた以上にいい選手だし、ロースター争いをしているライバルたちを上回るプレーをしている。ラプターズのプレースタイルにもフィットするね」
 あるトロント地元紙の記者は、プレシーズン中、筆者とのメッセージのやり取りの中でそう記した。その感想は、渡邊に馴染みがなかったラプターズ関係者、ファン、メディアに共通する思いだったはず。当の渡邊も、ようやく自身が力を出せる場所にたどり着いた手応えを感じているに違いない。
 昨季、渡邊はグリズリーズの下部リーグ(Gリーグ)で22戦に出場し、平均17.2得点、5.7リバウンドという堂々たる数字を残した。ただ、肝心のNBAでは18試合で平均5.8分のプレーにとどまり、2.0得点、1.5リバウンドに終わっている。
 バスケットボールに限らず、スポーツ選手にとって最もつらいのはプレー機会が得られないこと。特に、グリズリーズがプレーオフ候補へと躍進した昨季は、試合に出れないだけでなく、練習中のスクリメージにもほとんど入れなかったという。
 21日のリモート会見では、昨季にチーム内での存在価値を見失いかけたことを吐露した。辛抱強い渡邊は徹底して言い訳を避けてきたが、「もっとチャンスさえもらえれば」という思いがあったことは容易に想像できる。
 そんな悔しい経験も味わった26歳にとって、ここでラプターズのような強いチームから評価された意味は大きい。
「過去2年も(やるべきことを)徹底してやっていたんですけど、結果につながっていなかったので、『これが本当に正解なのか』という疑問が自分の中にありました。特に去年のシーズンはそうでしたね。ただ、トレーニングキャンプで、『このチームではそれが正しい』という確信に変わったんです」

 やってきたことは間違ってはいなかった。実際に今回のプレシーズン戦での渡邊は、シュートが好調だっただけでなく、パスのタイミング、得意のディフェンスも的確だった。アピールしなければいけない立場にもかかわらず、焦り、強引さもほとんど感じられなかった。安定したプレーを見せ、ニック・ナースHCも「(渡邊は)今キャンプのサプライズ。できることはすべてやってくれた」と称賛している。
「ラプターズは全員が運動量を増やしてディフェンスし、(ボールを)取ったら速攻を狙う。僕もリバウンドを取ってそのままプッシュするのが得意なので、そういう部分も練習中や試合で何回か出せていた。そこから自分のリズムが掴めてくるので、自分に一番合っているんじゃないかなと思います」
 渡邊はそう述べ、新天地のシステムが自身にフィットすることを強調していた。
 ナースHCは、もともとディフェンス指導に定評のあるコーチであり、チームリーダーのカイル・ラウリーも「今季は守備面で怪物的なチームになりたい」と明言している。そんなラプターズが求めているものと、献身的なディフェンスと多才さが武器である渡邊の長所は確かにマッチする。このチームの"一部"となったことで、渡邊のよさが自然と引き出された部分もあったに違いない。
 
 NBAの舞台に戻ってきた渡邊は、今後、さらに階段を上がっていけるのだろうか。ラプターズに能力を認められたことは確かでも、もちろんここがゴールではない。「再びスタートラインに立った」と形容するのが適切かもしれない。
 基本的にはGリーグ所属だが、一定期間、NBAでのプレーも可能になるのが2ウェイ契約。17人の枠に残った今、15人のアクティブロースターに定着するのが次のステップになる。その後、少しずつ信頼を得て、「ローテーション入り」や「本契約」といった目標に近づいていかなければならない。

 プレシーズン戦では比較的多くのプレー時間が与えられたが、開幕後は必ずしもそうではあるまい。終わりのない熾烈なサバイバルレースの中で、Gリーグと、プレータイムが限られるだろうNBAでも結果を出し続ける必要がある。今季もプレーオフ進出が確実視されるチームの一員になったのはすばらしいが、大変なのはこれからだ。
 しかし渡邊には、もう迷いはないはず。すでに「ラプターズでは自分のプレーをすればいい」ということはわかっている。それこそが、ナースHCをはじめ、チーム、コーチ陣が求めていることだからだ。
「僕に価値を見出してくれての2ウェイ契約。しっかりとアピールできれば、今まで以上にどんどんチャンスは増えていくと思っています。本当に今シーズンが楽しみで仕方ないです」
 26歳と、もう若手とは言えない年齢になった渡邊にとって、"がけっぷち"で迎えたプロ3年目。課題のシュートも好調で、これまで以上の手応えは感じられるが、大切な日々はまだ始まったばかり。ラプターズを開花の地にできるかどうか、その行方から目が離せない。


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