映像演出でファンの熱狂をアシスト。番組プロデューサーが明かすレース中継の狙い【サーキットのお仕事紹介】

2019年12月25日(水)19時20分 AUTOSPORT web

 ドライバーやメカニック、チーム関係者をはじめ、さまざまな職種の人たちが携わっているモータースポーツの世界。ドライバーなど、目につきやすい職種以外にも、陽の目を浴びない裏方としてモータースポーツを支えている人たちが大勢いる。そこで、この連載ではレース界の仕事にスポットを当て、その業務内容や、やりがいを紹介していく。


 第9回目は番組制作を行い、サーキットではレースの生中継の責任者として働く番組プロデューサーに注目。J SPORTSのモータースポーツはラリー、二輪、四輪と大きく3つに分かれるというが、そのうち四輪に携わり、スーパーGT中継等を担当する三原弘プロデューサーにスーパーGTの番組制作方法やプロデューサーの役割について話を聞いた。


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 現代、モータースポーツ観戦に必要不可欠なものがテレビや動画放送・配信だ。レースファンのなかには、レース中継を観たことがきっかけでモータースポーツに興味を持った方も多いはずだ。


 そのレース中継は、実況や解説、ピットレポーター、そして裏方も含めた様々なスタッフが番組制作に関わって進行されている。今回はJ SPORTSの番組プロデューサーを務める三原弘さんにインタビューを行った。


 まず、スーパーGTの中継映像はどのようにして作られるのか。制作に関わっている会社はJ SPORTS以外にも複数あるが、各社の関係性と技術者の役職を説明してもらった。


「スーパーGTの場合、中継映像は株式会社GTアソシエイション(GTA)が作っています。そのなかで、GTAは制作を株式会社クロステックに発注し、技術を株式会社テレテックなどに発注しています。中継映像自体はGTAとして作っているため、J SPORTSは映像をいただいて放送しているという関係性です。ただ、僕も含めてスタッフ3人が中継スタッフに協力体制で入り一緒に作っています」


「現場では、制作スタッフ9人と出演者6人の15人がチームで動いていることが多く、そのほかに、カメラマン、スイッチャー、音声、CGなど技術系スタッフが60人ほどいます。回線や電源を担当する人も合わせると90人くらいです」

中継車のほかに、衛星車やオーディオなどの技術系を管理する車も駐車場に集まっている


 多くの制作スタッフと技術者が協力して仕事をすることにより、テレビでの中継が成り立っているというが、そのなかで三原さんがJ SPORTSの番組プロデューサーとしてどのような役割を担っているのか尋ねた。


「スーパーGTだと生放送などの責任を負います。リクエストを出して中継の段取りを決めたり、生中継をスタッフとともに作っています。どういう視聴者やファンをターゲットに番組を作るかを決めないといけないし、どこの取材をするか、出演者など何にお金をかけるかも決めています。(ライブ中継では)放送の延長や早収、中止の決定をすることも大事なことです」


「サーキットでは、ライブ中継の対応が半分で、そのほかにはスーパーGT以外の番組のキャスティングなどをしています」

中継車の中では4人のスタッフが多くのモニターを確認しながら作業をする


 ライブ中継を行っている予選や決勝レースについて詳しく聞くと「ライブ中継の対応については、中継車のなかで仕事をしています」といい、中継車で行う仕事を語った。


「十数台のカメラで撮影した映像があり、ひとりでは追いきれないため、スポッターという役割が必要です。9人程の制作スタッフがいて、中継車には4人乗っています」


「中継車の制作スタッフ4人は、カメラを切り替えたり、VTRの指示を出したりします。僕は主にタイミングモニターを見ながら、レース全般の状況を把握して、出来事が起きたら情報を伝えます」


「バトルの展開をみて、バトルが終わったら『次こっちもやっているよ』などの情報を出します。そういう出来事を見逃さないようにするための役割です。何も起こらず順調にいっている時は、いいところと悪い所を感じて、次に繋げるのがプロデューサーとしての仕事だと思います」


 なお、レースのない平日は「収録や次の番組の準備が多いですね。だいたい2カ月先のことを準備しておかないといけません。スーパーGTだけでも事前番組としてGTV〜SUPER GT トークバラエティ〜もあり、予選、決勝、オンボード、15分ハイライト、総集編、ナビなどのたくさん番組があるのでその仕事もしています」という。


 ほとんどのレースカテゴリーが12〜3月の間はオフシーズンとなるので、その間はモータースポーツの仕事をする機会が減るという三原プロデューサー。冬はレース以外に「スキーとWWE(アメリカのプロレス団体)」と別ジャンルのスポーツを担当しているという。


「冬場はスキーを担当します。スキーだけでもアルペン、ジャンプ、モーグル、複合と4つあり、毎週どれかのライブ中継を担当するような状況でした。でも、今はWEC世界耐久選手権やデイトナ24時間が開催されていて(日程が)被るので、複合とジャンプは去年から別の人に任せ、モーグルもモータースポーツ担当の若いスタッフに渡そうとしています」


「WWEも現場は若いスタッフに渡そうとしているので、日常業務からは外れ、僕は日本公演の対応はする感じですね。そうなれば基本的にはアルペンだけですが、それもほぼ毎週開催されています。アルペンが現場に行っていて面白いんです」


■モータースポーツ番組が抱える課題と努力が実るとき


 三原プロデューサー曰く、J SPORTSのモータースポーツカテゴリを引き継いだ当初、スーパーGTと全日本スーパーフォーミュラ選手権は決勝レースのみの放送で、DTMドイツ・ツーリングカー選手権と全日本F3選手権は録画放送だったそうだ。


 現在は多くのレースカテゴリーとセッションが放送されているが、どのような経緯でこの放送スタイルにたどりついたのだろうか。


「僕が担当になりディレクターを10年程経験していたので、『これもできるな』とアイデアが出ました。しかしそれを実行するには、これをするとファンが増えるからお金をかけようとか、人員を増やそうという社内提案をクリアしないといけません」


「スーパーGTは予選も撮っているんだから生中継をしよう、今はオンデマンドもあるからフリー走行もやろう、ほかにもトークショーをやろうと少しずつ積み上げてきました。今ではWECやフォーミュラE、いつの間にか24時間レースを5つやるようになっています」


「少なくとも毎年ひとつは新しいことをやろうというテーマでやっているので、IGTCとIMSAもあるから、そろそろそっちも放送しようと思います」


 ひとつのセッション放送を増やすためには、それに見合う利益を上げることも重要だが、三原プロデューサーの案が実現すれば、今後もコンテンツは増えていくだろう。

生中継に必要な衛星車


 そんな三原プロデューサーは、長年J SPORTSで仕事をしてきたなかで「番組を作っている以上は人気が出てほしいと思っているけど、なかなか変動しないのが難しいです。スーパーGTはすごくいいレベルかもしれませんが、F1に比べたらまだまだです」と苦労を明かしてくれた。


「F1ですら人気が落ちてきて、ホンダの活躍で戻ってきているとは思うけど、もっといいものを作るにはお金もいるし人気が必要です。だけど、その循環にもっていくのは大変ですね。それは1カ月や1年ではなにもできないし長い目で考えないといけません」


「スーパーGTはかなりいいところにきて、今は僕らの映像も恥ずかしくないレベルにきたから、次海外に売るときにドローンを導入しようとかオンボードライブやろうとか、レベルの高い悩みができています。でも他のレースだとそこまで予算はかけられないし、まだそのレベルではありません」


「インタープロトとかF3は、3〜4台のカメラで撮ってあとで編集します。カメラを3台追加したら生中継できるけど、そのためにはあと500万円程度かかるし、それぞれのレベルで課題があります」


 逆に嬉しかったことは「テレビを制作している側でいえば、狙った演出や、してきたことが実を結ぶときです」と述べた。


「WECのル・マン24時間レースは、毎年トヨタが勝つストーリーを作り番組を制作したけど、ずっと一緒に悔しい思いをしていたから、勝った時は嬉しかったです」


「ほかには、2018年のスーパーGT最終戦で、使うかわからないけどランキングトップ2台のピット真上にカメラを置いたんです。ピットインした時にしか使えないけど、たまたま2台同時にピットインしたので、両方映せました。2台同時じゃなかったらあのシーンは使わなかったけど、いい演出になりました。あのカットがあったから熱くなった部分もあるし、演出がハマると気持ちいいし嬉しいです」


■テレビスタッフに求められる能力


 映画製作を目指し大学で映像の勉強をし、卒業後はNHKで2年間ニュース番組を担当していた三原さん。社会人3年目の2000年からJ SPORTSのディレクターになり、現在はプロデューサーという立場で番組を制作している。


「大学時代はF1をたまにみるくらいで、国内レースはまったくみていませんでした。ただ自分は少なくとも人間ドラマはわかるから、どういう生き様だったかを描けばいいと思い、まずはそこからスタートしました」


 映像業界で働く方法を聞くと、「テレビマン、映像マンには誰でもなれます」という。


「僕が社会人になったくらいにパソコンでできる編集機が出て、100万円くらいあれば自前スタジオが作れる状況でした。今はスマートフォンひとつで誰でも映像制作ができるので、その気になれば何でも撮れ、何でも編集できます」


「とりあえず撮って、完成品を作ればいいと思います。それを繰り返せばどんどん上手になっていくから、あとは動画が面白いと言ってもらえるかどうかですね」


 では、テレビ業界で仕事をしていくのに必要なことはなにか。三原プロデューサーはJ SPORTSでの経験を踏まえ、新人に話すことがあるという。


「新しいスタッフや新しい女性レポーターにもよく言いますが、まずは競技と参加している選手、チームを好きになれるかが大きいです」


「僕はほぼ全員に密着取材をしたことがあるので、ひとりひとりに思い入れがあります。新人スタッフだと優勝争いしか追いかけられないけど、僕は数十人のドライバーをそれぞれの立場で覚えられることが大きいですね」


「あとは展開をイメージできていること。オーバーテイクを仕掛けるタイミングや場所、タイヤは無交換か4本交換か、などの予想をしていないと映せません」


 最後に番組プロデューサーのお給料を聞くと、「本当に一般的な感じだと思います。サラリーマンの平均くらい。僕たちがそれくらいです」と明かし、映像業界でも差があることを教えてくれた。


「僕たちより高いのが、地上波、WOWOW、BS局(地上波系)を扱う人かと思います。逆に、Webや制作会社は幅があるかもしれませんね」


 テレビ業界での仕事は数多く存在し、そのなかでも番組プロデューサーは多くのスタッフを率いて、番組の重要事項を決める役割ということが三原さんの話からわかった。J SPORTSはレースカテゴリーやセッションを増やし、より高いクオリティの映像を届けている。今後レース中継を観る際はひとつのセッションを放送するのにこれだけの人が関わっているということを知ってもらえれば幸いだ。


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