「日本には統一されたジュニアフォーミュラが必要」中国トップスピード社代表の来日の狙いは

2023年12月25日(月)21時49分 AUTOSPORT web

 12月6〜8日、三重県の鈴鹿サーキットで行われた全日本スーパーフォーミュラ選手権の合同テスト/ルーキーテストには、海外からも多くのドライバー、関係者が訪れていたが、その中でオートスポーツweb編集部は、ひとりの人物を紹介された。中国のプロモーター/オーガナイザーであるトップスピード社の代表であるダビデ・デ・ゴッビだ。彼は日本におけるジュニアフォーミュラのあり方と未来について、スーパーフォーミュラを運営する日本レースプロモーション(JRP)に提案を行いに来たのだという。その内容について、デ・ゴッビに聞いた。


 まずデ・ゴッビの話に入る前に、そもそも現在のヨーロッパ、日本におけるジュニアフォーミュラの状況を整理しておこう。2019年、FIA国際自動車連盟による世界的なフォーミュラ再編が行われ、グローバルな選手権としてF1の下にFIA F2、FIA F3が設けられた。さらにその下に、F3の一部という位置づけでフォーミュラ・リージョナルが誕生。アメリカやヨーロッパ、アジア等でシリーズが開催され、日本でもフォーミュラ・リージョナル・ジャパニーズ・チャンピオンシップが開催されている。その下位カテゴリーが、日本でもスーパーGTのサポートとして行われているFIA F4だ。


 2019年からのリージョナル車両はコストは下がったものの、パワーはあるも重量はやや重く、ダウンフォースはやや小さくなっていた。2018年までヨーロピアンF3、全日本F3といったシリーズで使用されていた規定の車両は『F3』という名前が使えなくなったが、強力なダウンフォースと軽量なマシンを求める声も多く、ヨーロッパでもダラーラ31Xシリーズ〜ダラーラ320を使ったユーロフォーミュラ・オープンは、しばらくは多くのエントリーを集めていたが、2022〜23年は台数が激減。2023年は8台ほどで争われていた。


 日本でもフォーミュラ・リージョナルが始まる一方で、それまでの全日本F3選手権は、全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権と名称を変え、スーパーGT GT500クラスやスーパーフォーミュラに上がるためには避けて通れないシリーズにもなっている。また近年はGT3もダウンフォース量が多く、ライツに乗ることはGT300で活躍するために必要とも言われている。


 ただ一方で、ライツ、リージョナルとも参戦台数は12〜14台程度と決して多くないのが現状だ。そんななか来日したダビデ・デ・ゴッビの狙いはなんなのだろうか。

2023年のスーパーフォーミュラ・ライツチャンピオンを獲得した木村偉織(HFDP WITH B-MAX RACING)
2023年のフォーミュラ・リージョナル・ジャパニーズ・チャンピオンシップのチャンピオンを獲得した小川颯太(Bionic Jack Racing F111/3)


* * *


■日本の状況は4年前のヨーロッパと似ている


──まず、あなたのお名前と役職を教えて下さい。
ダビデ・デ・ゴッビ(以下DdG):
私の名前はダビデ・デ・ゴッビ。上海に本拠を置く、トップスピードという会社のオーナーであり、中国を拠点としていくつかのモータースポーツイベントの運営、プロモーションを行っている。主にランボルギーニやポルシェといったメーカーのワンメイクシリーズ、特にジュニアフォーミュラのシリーズ運営を行っており、フォーミュラ・リージョナル・ミドルイースト、フォーミュラ・リージョナル・アジア、F4サウスイースト・アジア、F4ミドルイーストといったシリーズを運営している。


──今回、なぜスーパーフォーミュラの合同テスト/ルーキーテストに訪れたのでしょうか。
DdG:
鈴鹿と日本が大好きだからだよ(笑)。それは冗談として、現在2年後に向けてFIA国際自動車連盟とレギュレーション策定を進めているフォーミュラ・リージョナルの第2世代の、日本におけるコンセプト、アイデアについての協力、開発を探るために来ている。


──日本でのジュニアフォーミュラについて言うと、スーパーフォーミュラの下にはスーパーフォーミュラ・ライツ、フォーミュラ・リージョナル・ジャパン、さらにその下にFIA-F4といったカテゴリーがあります。現在の日本の状況をどうご覧になっていますか。
DdG:
4年前、ヨーロッパでは同じような状況があった。FIA F4はローコストで若手ドライバーにとって非常に強力な地盤があったが、その次のステップとしては、F3から変更されたフォーミュラ・リージョナルがあった。ただ最初はヨーロッパでも混乱があったんだ。FIAのプランであった新しいワンメイクの、パフォーマンスが下げられ、ローコストなフォーミュラ・リージョナルというコンセプトに対して、最初はヨーロッパでもふたつのシリーズが混在した(編注:フォーミュラ・リージョナル・ヨーロッパとダラーラ320を使ったユーロフォーミュラ・オープン)。


 ただ、現在では状況は変わり、フォーミュラ・リージョナルが非常に強力な存在となっており、日本でも同じような状況になると思っている。現在はいくつかのグループはスーパーフォーミュラ・ライツを支持し、いくつかのグループはフォーミュラ・リージョナルを支持している。ふたつのチャンピオンシップが存在するが、どちらも台数が少なく実質はチャンピオンシップが存在しないのと同じだ。


 私の考えとしては、ひとつに統一された新たな運営による、このセグメントの新たなフォーミュラシリーズが必要だと考えている。FIAによってデザインされたフォーミュラ・リージョナルはそのための未来であり、スーパーライセンスポイントも得られるようにすべきだ。日本のジュニアフォーミュラはひとつのカテゴリー──新しい世代のフォーミュラ・リージョナルに進化するべきであり、私はそのために来日した。ヨーロッパや中東と車両を統一すべきで、その先にはさらなるプロジェクトが存在すると思っている。

フォーミュラ・リージョナル・ミドルイーストのレースシーン


■海外と同じテクニカルパッケージが必要


──日本の場合、頂点のカテゴリーとしてスーパーフォーミュラ、GT500という存在があり、そのために強力なダウンフォースをもつスーパーフォーミュラ・ライツというステップアップカテゴリーが重要だと考えています。その点についてはいかがでしょうか。
DdG:
私も旧F3規定の車両は好きだが、コストがかかりすぎており、将来はないと思っている。あなたの考えには同意するところもあり、現行のフォーミュラ・リージョナルのジェネレーション1車両は、規定導入のために開発を急ぎすぎていたこともあって、速さを磨くという意味ではベストな車両ではないところもある。現在プロジェクトが進められているジェネレーション2の車両は、非常に魅力的でダウンフォースのレベルも上がり、クイックなものになるはずだ。


 ダウンフォースが大きなクルマはたしかに魅力はあるのだが、よりバジェットがかかり、ベストなソリューションではないと思う。すべてのドライバーがそのバジェットを用意できるとは限らないからだ。FIAは現在コストリダクションを進め、その中で良いチャンピオンシップを作ることを進めている。


──日本でもヨーロッパやアジア等と規定が統一され、例えば双方のシリーズで交流できたり、かつてのようにマカオでの世界一決定戦のようなものができれば理想的かとは思います。そういったものが目指す目標なのでしょうか。
DdG:
すべてが同じ車両でまとめられ、以前マカオで行われていたF3ワールドカップのようなコンセプトになることは私も望んでいる。F3の頃はレギュレーションがクリアでまとまっていたが、現在のリージョナルについては、マニュファクチャラーがいくつかあり、エンジンもいくつかの種類がある。同じフォーミュラ・リージョナルという名前をもっていても、ひとつにまとまってレースができないし、性能調整ができない状態にある。その点も含めて、日本でもヨーロッパなど海外と同じテクニカルパッケージでレースをすることが必要だと提案しに来たんだ。

2023年のフォーミュラ・リージョナル・ヨーロッパのチャンピオンを獲得したアンドレア・キミ・アントネッリ


■独自路線に行くのか、世界と協調するのか


──今回、それらの提案をJRPに行ったと聞きました。提案の手ごたえはいかがでしたか?
DdG:
良いミーティングができたと思う。いくつかの良いアイデアを相談することができたし、JRPからも興味深い提案があったが、それよりもチームにもいくつか提案をし、興味を持ってくれたと思っている。


──非常に興味深い内容でした。
DdG:
日本のチームがマカオに戻ってくるためには、これしか道はないと思っている。日本のモータースポーツが今後も独自路線を強めていくのか、FIA、世界と協調してやっていくのかの分かれ道になるのではと思っている。


 ちなみに加えておくと、2023年のフォーミュラ・リージョナル・ヨーロッパでチャンピオンを獲得したアンドレア・キミ・アントネッリというドライバーが、FIA F3を飛び越えて、先日FIA F2のテストをしたが、非常に良い成績を収め、周囲からも評価されている。それがなぜかと言えば、FIA F3は走行時間が非常に限られている一方で、フォーミュラ・リージョナルは十分な走行時間がある。リージョナルならばF3よりもローコストで、たくさん走行することで成長できることを彼が証明してくれたと思う。

2023年のフォーミュラ・リージョナル・ヨーロッパのチャンピオンを獲得したアンドレア・キミ・アントネッリ


* * *


 このデ・ゴッビとのミーティングをうけ、JRPではその提案をまずは受け止めるところからスタートしている様子だ。日本には日本の事情があり、簡単にデ・ゴッビからの提案をそのまま受けるというわけにもいかないだろう。またスーパーフォーミュラ・ライツも新エンジンを投入するなど、未来へ向けて動きはじめている。


 ただし今後、日本のジュニアフォーミュラがどういった方向に進むのかは、日本のモータースポーツ界全体に関わる問題とも言える。デ・ゴッビとトップスピード社からの提案がどう展開されていくのか、今後を興味深く見守りたいところだ。


ダビデ・デ・ゴッビ Davide de Gobbi


イタリア出身。F3をはじめとしたジュニアカテゴリーのトップチームであるプレマパワーでチーフエンジニア、テクニカルディレクター、チームマネージャーを歴任。トヨタF1アカデミーでのドライバーコーチング等を務め、中嶋一貴小林可夢偉を担当した。2004年から中国のモータースポーツマーケット開拓に取り組み、上海にトップスピード社を設立。イベント開催やテクニカルサポート、ケータリングなどを手がけている。

スーパーフォーミュラの合同テストを訪れていたダビデ・デ・ゴッビ

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