欧州ユニファイリーグ構想の奇々怪々
2024年12月27日(金)18時0分 FOOTBALL TRIBE

浮上しては消えを繰り返してきた欧州スーパーリーグ(ESL)構想に新たな動きが見られた。
12月17日に、スペインのマドリードに拠点を置き、レアル・マドリードの会長であるフロレンティーノ・ペレス氏と懇意の間柄とされる同新リーグの推進団体「A22スポーツ・マネジメント」が、欧州サッカー連盟(UEFA)と国際サッカー連盟(FIFA)に対し、新たなコンペティションを主催する権利を承認するよう正式に求めたと発表した。
ユニファイリーグと改称されたこの新リーグ構想の内容や、取り巻く状況について詳しく見ていこう。

ここまでの流れ
A22が2021年に発表し、推し進めようとした欧州スーパーリーグ構想。欧州のトップクラブで構成され、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)に匹敵する、あるいは取って代わることを目的とされてきた、年間のクラブサッカー大会である。
当初、レアル・マドリード、バルセロナ、アトレティコ・マドリード、ミラン、アーセナル、チェルシー、インテル、ユベントス、リバプール、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド、トッテナム・ホットスパーの12クラブが支持していたが、ファンやUEFA、FIFA、各国のリーグ、政治家などからも反対の声が上がり、レアル・マドリード以外のクラブが撤退。事実上、このプロジェクトは崩壊したかのように見えた。
しかし、レアルのペレス会長は諦めていなかったようだ。昨2023年、欧州司法裁判所(ECJ)がスーパーリーグ設立を阻止することは欧州連合(EU)の法律に反するとの判決を下したにも関わらず、またプレミアリーグ、ブンデスリーガ、ラ・リーガ、セリエAの一流クラブや欧州クラブ協会(ECA)がスーパーリーグ反対を再度表明し、UEFA支持を明言したにも関わらず、形と名称を変えて、再び己の構想を突き出してきたのである。

ユニファイリーグ構想、全試合無料配信
ユニファイリーグと改称された新リーグの構想は、欧州各国のリーグの成績に基づき、男子は総96クラブが「スター」「ゴールド」「ブルー」「ユニオン」の4つに分かれて戦い、女子は総32クラブを2つのリーグ(スター、ゴールド)に分けたリーグ戦の形を取っている。
リーグステージではホーム&アウェイで対戦し、突破チームがノックアウトステージ(決勝トーナメント)に進む。準決勝と決勝は中立地での一発勝負。試合はCL同様、ミッドウィークに開催するとしている。
A22はスーパーリーグをユニファイリーグと改名した理由について「ユニファイ=統一」をその名称に反映させるためだと説明しているが、一見、スーパーリーグ構想の看板を掛け替えただけに見える。
さらに今回の動きはECJが下した判決を受けたもので、A22はUEFAとFIFAに「国境を越えた新しいヨーロッパクラブサッカー大会」の公式認定を申請し、ECJの判決が「資格が包括的で実力主義的であり、全体的な試合カレンダーに準拠する大会であれば正式に設立できる」と主張している。
驚くべきは、プラットフォーム「Unify(ユニファイ)」を通じて、リーグ全試合を無料配信するという点だ。A22は、若いファン層の関心が薄れていることを懸念していると主張し、新しいプラットフォームを通じた革新的なストリーミングサービスにより、新たなファン層を取り込む目論見だという。プレミアムプランでは、広告なしのサービスも提供される予定だ。

欧州各国リーグは懐疑的
しかし、欧州各国リーグはユニファイリーグに対して懐疑的で、レアル以外の有力クラブはこの取り組みを公には支持していない。A22は、有力クラブや関係者との対話を経て提案を作成したと言い張っているが、具体的な詳細を示していない。かつて、スーパーリーグ構想を支持したバルセロナやアトレティコ・マドリードも沈黙していることで、その疑念はさらに深まっている。
レアルのペレス会長と犬猿の仲で知られるハビエル・テバス会長がトップに君臨するラ・リーガは、このプロジェクトは欧州サッカーの基盤を危うくし、各国リーグの経済バランスを崩壊させる恐れがあるとし、「このプロジェクトはクラブ、連盟、選手、ファン、政府、欧州機関からの支持が不足している」と手厳しく批判。
また、A22のリリースを引用リポストする形で、「A22の連中はまた新しいアイデアを持ち出してきた。まるでチュロスのように次々とフォーマットを生み出しながら、経済的・競技的影響を分析もせずに進めている。彼らの提案するテレビモデルはビッグクラブだけを優遇し、国内リーグとそのクラブの経済的安定を危険にさらすものだ」とXにポストした。
現状ユニファイリーグは、最初のスーパーリーグ構想発表時に猛反発を受けたことを教訓とし、まずは理解を得ようという動きを見せてはいる。しかし特にプレミアリーグのクラブは現在の立場を守りたい傾向が顕著で、UEFAやFIFAから分離した形でのリーグには反対する姿勢を明確にし、参加もしないことを明言。さらに、EUに加盟していない英国の法律により、イギリスのクラブがユニファイリーグへの参加が禁止される可能性もあるだろう。
「無料配信」を謳ったユニファイリーグを取り巻く財政状況は不透明で、その資金源についての疑義も生じている。欧州サッカーはスポンサー収入や入場料収入よりも、放映権収入で成り立っていることは、もはや誰もが知る常識だ。また、UEFAがCLに「リーグフェーズ方式」という新たな試みを加えた形でローンチし、サウジアラビアからの投資を受け、来夏、米国で開催されるFIFAクラブワールドカップと共に起こる欧州サッカー内の権力構造の変動の真っ只中で提案されている。

サッカーファンからは一定の支持
しかしながら、サッカー界の不満は3年半前のスーパーリーグ構想時に比べ広まっていない。A22も、ユニファイリーグ構想がUEFAの基準に従っていることを強調している。A22の共同創設者であるジョン・ハーン氏は、現時点においてビッグクラブからの支持が少ないことを認めながらも、「いずれ、ユニファイリーグは認知されていくだろう」と楽観的だ。
イタリアのセリエA・B・C、イングランドのプレミアリーグ、ドイツのブンデスリーガ、フランスのリーグ・アンなど、33か国29リーグの1130以上のクラブを代表する「ヨーロピアン・リーグス」と、国際プロサッカー選手会(FIFPRO)の欧州支部である「FIFPROヨーロッパ」は、新たな欧州大会の導入に断固反対の姿勢を取っている中、A22の自信はどこから来るものなのか。
ユニファイリーグは、猛批判に晒され頓挫したスーパーリーグ構想の反省から、欧州全土にわたる競争の公平性を担保した上で成果主義を強調している。閉鎖的な構造だったスーパーリーグ構想とは対照的で、オープンで公正なシステムだ。
背景には「サッカーを民主化する」という理念があり、すべてのファンが無料配信で試合を楽しめるようにし広告から収益を生み出すという、従来のビジネスモデルから脱却した新たなビジョンを示している。そして、この計画が欧州のサッカーファンから一定の支持を得られ始めている。洋の東西を問わず「無料」というパワーワードに敵うものはないと感じさせる。
現在、UEFAと放映権を持つ放送局によって、CLなどのコンペティションは既得権益化し、サッカーファンは高額な視聴料を支払うことを余儀なくされている。A22の提案は、この現状に風穴を空けるもので、オペレーション次第では、サッカーから離れつつある若いファンを取り戻す訴求力を帯びている。
英紙『デイリー・テレグラフ』は、「ユニファイは『サッカー界のTikTok』になる可能性を秘めており、ユーザーは無料の試合コンテンツや購読コンテンツ、そして、小売りを利用することになる。A22は、欧州のエリートクラブが他のさまざまな方法で収益化されるデジタル・プラットフォームにユーザーを引き込む入り口だと考えている」と伝え、ユニファイリーグが商業ベースでも実現可能であると指摘した。
サッカーファンの後押しさえ取り付ければ、あとはいかにして“ラスボス”のUEFAを説き伏せるかが焦点となる。前述したECJ判決を盾に、法廷闘争も辞さない構えでコンペティションの譲渡を迫る可能性もある。そして「無料配信」となれば、欧州のみならず日本も含めた世界中のサッカーファンにとっても、一気に身近なサッカーコンテンツとなるのは必至だ。

欧州サッカー界を一新するのか
一方で、ヨーロピアン・リーグスは過密日程による選手の健康を守るためとして、FIFPROヨーロッパを取り込んでFIFAを相手取り、EU内の欧州委員会に異議を申し立てている。しかし、選手に過密日程を強いているのはUEFAも同じことだ。こうなるともはや、UEFA、FIFA、A22(ユニファイ)の三つ巴の争いとなり、訳が分からなくなっていく。
現時点ではスペイン3強(レアル・マドリード、バルセロナ、アトレティコ・マドリード)の他には、スーパーリーグ構想でも名前が挙がったプレミアリーグ6クラブ(アーセナル、チェルシー、リバプール、シティ、ユナイテッド、トッテナム)とセリエAの3クラブ(ミラン、インテル、ユベントス)が創設メンバーとなっているユニファイリーグ。
アメリカの投資銀行大手JPモルガン・チェースが50億ドルの資金提供を約束したことで、現行のCL以上の賞金が支払われることになれば、風向きが変わる可能性もあるだろう。
3年半前は“絵空事”として、相手にもされなかったスーパーリーグ構想が、名称と大会方式、多額の賞金、無料配信を武器に、欧州サッカー界を一新するのか。今後の動きに注目したい。