アイルトン・セナと中嶋悟のいたF1チームがホンダ陸上部の理想

12月29日(火)16時55分 Sportiva

知られざる実業団陸上の現実〜駅伝&個人の闘い
Honda(1)

「個性的なチームだよね、と言われます。よくあれだけ個性豊かなタレントを抱えるなって......(苦笑)。たしかに、自分たちのチームは個性という点では強烈だと思いますね」

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 Honda陸上競技部の小川智監督は、チームの特徴についてそう語る。


個性派の選手たちをまとめる Hondaの小川智監督
 陸上部は創業者・本田宗一郎の開拓精神を受け継ぎ、1971年発足以来、独自の道を歩んできている。その結果、現キャプテンの設楽悠太をはじめ、リオ五輪男子マラソン代表になった石川末廣(現・コーチ)、藤原正和(現・中央大陸上部監督)ら実力を兼ね備えた個性豊かな選手を輩出してきた。また、ニューイヤー駅伝では、1994年、2018年と2度、準優勝を果たしている。

「"人間尊重"が弊社の基本理念であり、"夢"が原動力。それをチームでも大切にしているので、選手の"夢"や"目標"を中心に個で物事を考える。それがうちのチームの強みですし、だからこそ個性的な選手が出てきた。ただ、それが弱みにもなっているのかなとも思います。個々の向かう先を駅伝に集約する時、まとめきれない。それが駅伝で優勝できない要因のひとつではないかと考えたりもします」

 現在の陸上部のイメージは、エースの設楽と重なるところが大きい。昨年のMGC(マラソン・グランド・チャンピオンシップ)では序盤からハイペースで飛び出し、レースを引っ張った。そうした設楽の選手としての個性は、失敗を恐れず、我が道をいくHondaらしさに見える。

 小川監督は2019年4月に現職となり、MGC、そして東京マラソン2020と2つの大きなレースで設楽を支えてきた。残念ながら東京五輪マラソン男子代表の椅子は獲得できなかったが、2020年、小川監督は設楽をキャプテンに任命した。

「今シーズンから彼がチーム最年長になり、実力は申し分ない。ここ数年で人間的にも成長したので、それを踏まえてキャプテンにしました。設楽は自分についてこいというタイプではないのですが、私は彼に一般的なキャプテン像を求めているわけではありません。設楽がやっているところを、みんなが見て、どう感じるかを重視しています」

 では、スカウティングでは選手のどういうところを見ているのだろうか。

「弊社のやり方、考え方に合うか合わないかです。競技力も大事ですが、それ以上に主体性をもって取り組むことができるか、強くなりたいという意志を持っているかです」

 最近の学生は、入社後の初マラソンでいきなりサブ10を達成した土方英和など、力のある選手が多くなっているように見える。そのことついて、小川監督はこう考えている。

「競技レベルは、自分たちが学生の頃より確実に上がっていますし、タイムも速くなっています。ただ昔は、日本選手権やマラソンで、学生トップ選手が実業団選手と争っていましたが、今はそういう学生がほとんどいない。箱根駅伝重視のスケジュールなど、さまざま要因があるとは思いますが、日本のトップレベルには学生が少ないのが現状ではないでしょうか。とはいえ、順天堂大の三浦(龍司)選手や中央大の吉居(大和)選手は、すでにトップレベルに近い実力があると思っています。」

 力のある学生であっても実業団に入って成長できるとは限らない。そこから日本のトップに駆け上がれるのは、ほんのごくわずかだ。Hondaでは、伊藤達彦がその兆しを見せている。

「伊藤は入社前に心身の準備をしっかりできたこと、そしてコロナ禍のなかでもしっかり練習に取り組めたことが大きいと思います。彼を含め、学生時代にあまり力のなかった選手が入社後に伸びており、設楽のように力があった選手はさらに強くなっている。そういう意味で育成についてはできているのかなと思いますし、その伸び幅をもっと大きくしていかなければと思っています」

 そう語る小川監督は、設楽とともにMGCに挑戦し、東京マラソン2020も経験した。なかでもMGCは、従来のレースや大会とは異なる熱を感じたという。

「日本選手権ともニューイヤー駅伝とも違いました。設楽がマラソンで日本記録を出した時もメディアの取材がかなり多かったのですが、MGCはもっとすごかった」

 小川監督は藤原や石川の五輪代表選考を経験しており、MGCもそれと同じように考えていたが、少し勝手が違ったようだ。

「MGC出場権を獲得するために複数のレースを走った選手は、もちろん得るものも多かったと思いますが、心身のダメージは相当だったと思います。調整を含め、相当なパワーを費やさないといけなかった。MGCは盛り上がりましたが、あれが毎年あると......4年に一度で十分です」

 実際、戦いに挑んだ者にしかわからない苦労があったことは想像に難くない。ただ、そこに懸けた選手や監督、スタッフの熱が見ている人に伝わったからこそ、MGCが盛り上がったと言えるだろう。

 MGCや東京2020は多くのエリートランナーが参戦したが、毎年正月に開催されるニューイヤー駅伝も日本のトップランナーが多数出場する。それなのに盛り上がりはいまひとつである。

「箱根駅伝より注目度が劣っているひとつの要因は、ストーリー性だと思います。箱根駅伝は、年間を通じて1月2、3日に向かって盛り上がっていくストーリーがありますが、ニューイヤー駅伝は正月にポッと開催されている印象があります。

 もうひとつはコースのドラマ性でしょうか。箱根駅伝には山があったり、距離が長かったり......。ニューイヤー駅伝は距離もそれほど長くなく、コースも比較的単調なので、ドラマが起こりにくい。特徴あるコースのほうが、見ている人は面白いと思います。極端な話、箱根駅伝のコースでニューイヤー駅伝をやってみてもいい」

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 もちろん、さまざまな問題が絡んでいるので、箱根のコースを走るのは現実的に難しいが、レースが面白くなる場所を新たに考えるのは、実業団駅伝を活性化させるためには必要なことではないだろうか。

 そのニューイヤー駅伝で、即戦力3人が加わったHondaは今回、ほかのチームに負けない戦力を誇る。

「選手層は厚くなったと思いますが、優勝するにはあとふたりほど選手が必要です。それでも勝つためには、まず今いる選手がしっかり走ること。全員が100%で走るのはなかなか難しいですし、ライバルチームも強いので簡単ではないですが、優勝を目指してやるしかないと思っています」

 最後に小川監督に聞いた。これからどんなチームにしていきたいと考えているのだろうか。

「ニューイヤー駅伝優勝と、弊社の事業(2輪、4輪、ライフクリエーション、航空機関連など)のように、全方位(中距離からマラソン)で世界にチャレンジしていくことがチームの目標です。多くの方に『何かしてくれそうだね』と期待させ、子どもたちが憧れるようなワクワク感があり、それでいて圧倒的に強いチーム。イメージでいうと、アイルトン・セナがいて、中嶋悟さんがいた80年代のホンダF1チームです。そういうチームをつくることができたら、みなさんがこちらを見てくださるのかなと思っています」


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