福男選びで知られるえびす信仰の総本宮・西宮神社、えびす様の由来とご利益

2024年1月9日(火)12時0分 JBpress

取材・文=吉田さらさ


全国的に福の神として人気が高い「えびす様」

 さて、2024年のはじまりだ。ようやくコロナ禍も終わり、新たな年への期待も膨らんでいたはずだが、思わぬ不幸な出来事が続いてしまった。被害を受けられた方々に、心よりお見舞い申し上げます。

 そんな中ではあるが、少しでも世界に福が来るようにということで、兵庫県西宮市に鎮座する西宮神社をご紹介しよう。こちらはお参りするだけで満たされた気持ちになれる、たいへんありがたい神社である。

 1月10日の早朝6時から、こちらの神社では、「十日戎開門神事福男選び」が行われる。本殿参拝の一番乗り(一番福)を狙い、開門とともに本殿まで全速力で走る何千人もの参拝者たちの様子はテレビのニュースでも大々的に報道される。

 十日戎では、福男だけでなく福娘も活躍する。「商売繁盛笹持ってこい」のかけ声とともに、巫女姿の若い娘さんたちが福笹と呼ばれる縁起物を授けてくれるこの行事は、関西で商売をする人々には欠かせないものだ。

 えびす様は関西のみならず全国的に福の神として人気が高く、ここ西宮神社は全国的に存在するえびす神を祀る神社の総本宮である。御祭神は第一殿にえびす大神(蛭児大神)、第二殿に天照大神、大国主大神、第三殿に須佐之男大神。第二殿と第三殿の神々は古事記や日本書紀でよく知られているが、主祭神のえびす大神については案外謎が多い。鯛と釣竿を持った像が多いが、それはなぜか? 庶民的なイメージが強い神なのに、この神社では、なぜ天照大神より上位に祀られているのか?

 実はえびす様は、伊邪那岐神と伊邪那美神の間に最初に生まれた子であった。つまり、天照大神の兄神に当たるということだ。この子が蛭児で、女性である伊邪那美神が最初に「さあ、子供作りをいたしましょう」と声をかけたため思わしくない子が生まれたとして、葦の船に乗せて海に流されてしまったという。

 現在の感覚からすると理解しがたい話だが、これは記紀の物語。その後この蛭児がどうなったのかは書かれていないのだが、のちに、思わぬ形で姿を現わす。いつのころかは定かでないが、とある漁師が沖で網を張っていたところ、何やら重いものがかかった。魚ではなかったのでいったんは海に戻したが、再度引っかかったのでよく見ると、御神像のように思えたため自分の家に祀って朝な夕なに拝んだ。

 すると夢の中に神が現れ、「自分は伊邪那岐神と伊邪那美神の子、蛭児である。毎日拝んでもらってありがたく思うが、ここより西の場所にもっとよい場所があるので、そちらに祀って欲しい」というご託宣があった。それにしたがって、現在の場所にえびす大神が祀られたという。

 えびす様は、今は商売繁盛を中心とする福の神のイメージが強いのだが、えびす信仰そのものは、もとは漁師の間で生まれたと考えられている。そのためえびす様の像は釣竿と鯛を持っているのだ。海辺の民の間では、浜に流れ着いた動物の遺体や漂着物を神として祀ると大漁をもたらすと信じられており、それがエビスと呼ばれていたという。

 その時点では、海の向こうの異世界からやって来る謎の存在だったのだが、いつしか記紀に登場する蛭児の話と結びつき、えびす信仰となった。海の向こうからやってくる福の神が実は親に捨てられた高貴な生まれの神だったとは、何ともロマンに満ちた話ではないか。


西宮神社をお参り

 では、お参りに行ってみよう。境内は広大で「えびすの森」と呼ばれる天然記念物の森林に囲まれている。この森は普段一般人が立ち入ることはできないが、多様な動植物の宝庫だという。門はいくつかあるが、えべっさん筋に面した表大門(赤門)から入ろう。この門が「十日戎開門神事福男選び」のスタート地点でもある。参道脇には松林。どことなく海辺の雰囲気があるが、実際、昔はこの神社の目の前が海だったということだ。

 立派な拝殿の奥に三つの屋根が連なる本殿。三連春日造りという珍しい建築様式で、向かって右がえびす大神を祀る第一殿、真ん中が天照大神と大国主神を祀る第二殿、左が須佐之男大神を祀る第三殿である。

 お参りを終えたら、摂社の神々にもご挨拶しよう。火伏の神様火産霊神社、お酒の神様松尾大社、お稲荷さんの宇賀魂神社など、ご利益たっぷりのお社が並ぶ中に、百太夫神社という珍しい名前の摂社がある。祭神は百太夫神。これはえびす人形をあやつる傀儡子(人形遣い)の祖神である。

 えびす信仰が全国に広まったのは、室町時代以降、この人形遣いたちが各地を巡ってえびす様のご神徳を伝えたことに由来する。その際には、御神影(おみえ)と呼ばれるえびす神の姿を描いたお札も頒布していた。一般的に神道の神様は目に見えないものとされ、姿が描かれることは少ないが、人形遣いによって広まったえびす信仰の場合、神の姿は誰にでも見える。そのためお札にも釣り竿と鯛を持ったえびす様の姿が描かれているのである。

 この人形遣いたちはその後淡路島に移り住んで人形浄瑠璃を生み出し、大阪の文楽へと発展した。そのような経緯で、こちらは芸能の神でもあり、「芸能上達」と書かれた扇子を奉納する習わしもある。また、疱瘡などの病から子供を守る神としても信仰されてきた。

 各所でじっくりお参りし、福をたくさんいただいたあとは、神池のほとりのおかめ茶屋で一休みしていこう。甘酒もよいが、ほうじ茶付きわらび餅も捨てがたい。満足だんごと書いて「みたらしだんご」と読む団子は串に5つ刺さっており、甘辛味が何とも魅力的だ。こんなところでゆっくり甘いものを味わう時間こそが、えびす様がくださった最高の福かも知れない。

筆者:吉田 さらさ

JBpress

「西宮神社」をもっと詳しく

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ