2026年ミラノ・コルティナ五輪に向けて、世界選手権代表・坂本、鍵山らの意気込み「1試合1試合重要になってくる」
2025年1月10日(金)6時0分 JBpress
(松原孝臣:ライター)
重圧に負けず力を発揮できる要因
2024年12月下旬に行われたフィギュアスケートの全日本選手権が終わり、世界選手権代表が決定した。
女子は、坂本花織、千葉百音、樋口新葉、男子は鍵山優真、佐藤駿、壷井達也、ペアは三浦璃来/木原龍一、長岡柚奈/森口澄士、清水咲衣/本⽥ルーカス剛史(条件付き)、アイスダンスは吉田 唄菜/森田真沙也が選ばれた。
ここではシングルの6人を紹介したい。
代表への過程は、それぞれだった。
優勝して女子の3人の中で真っ先に代表を決めたのは坂本。グランプリファイナルでは3位に終わり、帰国後は胃腸炎に苦しんだ。優勝候補筆頭と目されながらも、シニア、ジュニアを含め、追いかけてくる選手たちがいる。安閑としていられる状況ではない。
それを裏付けるようにショートプログラムではジュニアの島田麻央がトリプルアクセルを成功させるなどして75.58点、千葉も非公認ながら自己ベストを3点以上上回る74.72点と高得点をマークする。でも坂本も78.92点と会心の演技でトップを保った。迎えたフリーでも、わずかにミスはありながら、大差をつけて4連覇を飾った。
重圧に負けず力を発揮できる要因は、次の言葉にある。
「『つむ(積)』。今までの経験というのもありますし、今シーズンからいろんな挑戦をしてきていろんな経験を積んだシーズンでもあるし、今までの経験がいきたシーズンでもあるので。今年はいいことも悪いことも、『あ、こうしたらいいんだな』と積むことができたので」
2番目に代表に選ばれた千葉にとっての全日本選手権は涙とともに終わった。
フリーでは2つ目のジャンプ、トリプルサルコウで転倒。後半のジャンプでも複数の回転不足をとられ、4位で大会を終えた。
「泣かないと思っていたんですけど」
と切り出した千葉の目は赤かった。
「グランプリシリーズやグランプリファイナルはいい演技でいい結果を残してきたからこそ全日本のフリーのミスは心に響いて、率直に悔しい気持ちがすごく強かったです」
自身が語るように、今シーズンは一段成長した姿をみせてきた。グランプリシリーズは2戦ともに2位、初めて出場したグランプリファイナルでも2位と表彰台に上がってきた。だから、悔しかった。
ただ、今シーズンの成長のあとが消えることはない。そして悔しさをばねにしようと考える。
「来シーズンは絶対に4回転を入れてやるぞという気持ちも芽生えてきました。悔しさから得る強さも本当に大事だなと思いました」
3番目に代表に選ばれたのは全日本選手権で3位となった樋口新葉。北京五輪に出場した翌シーズンの2022-2023シーズンは右すねの疲労骨折により1試合出場したのち欠場、昨シーズン復帰したが苦しんだ。そこかで見事な復調ぶりを示した。
「正直言えば、(表彰台に上がることは)想像できていませんでした。去年のような結果(12位)でずるずると終わっちゃうのかなとも思っていたので」
フリーを終えたあとは氷上でしばらく動けなかった。
「全部出し切りました」
全日本選手権に懸けてきた。グランプリシリーズ、グランプリファイナルをそこまでの過程と位置付けていた。今も足は気にしないでいられる状態ではない。その中で練習の量より密度にこだわり、戦略をもって取り組んできた。その成果だ。
「自分が(2021年に)最後に表彰台に乗ってから、ジュニアも含めレベルが上がりました。その中で休養を挟んで、こういう姿を見せられたのはうれしいです」
と笑顔をみせた。
世界選手権への思い
男子の優勝者は鍵山。上位の選手の中にミスが相次ぐ中、圧巻の演技をみせた。
フィニッシュ直後は氷上に大の字になった。
「1回、(宇野)昌磨さんのを見て、最終滑走で良い演技をしたらやってみたかったです。(2位の中田)璃士君に先にやられちゃったんですけど、やってみました。気持ちよかったです」
オリンピックや世界選手権などで数々の実績を残してきた鍵山だが、全日本選手権は初めての優勝。
「やっぱり全日本は特別です」
と喜ぶのは、コーチである父・正和氏の、鍵山本人を上回るほど喜ぶ姿にもあっただろう。
全日本選手権では7位に終わったが、グランプリファイナルで3位と表彰台に上がったことが決め手となり、佐藤は初めて世界選手権代表に選ばれた。
ジャンプでミスが相次いだフリーの前は緊張と不安に駆られていたという。
「練習のときからずっと優勝が頭にあったので、それも影響しているかなと思います」
結果を求めたことからくる、重圧があった。
うまくいかなかったから、こう語る。
「この経験をしたから、世界選手権で同じ失敗はしないし、してはいけないと思います」
もう一人の世界選手権代表は壷井。NHK杯、全日本選手権ともに3位に入った安定感が評価された。
「実力的に世界選手権の代表にふさわしいかどうかは自分の中で整理できていないところもありますけど、選ばれたからには自分ができるすべての練習をスケートに捧げたいです」
壷井は今、神戸大学4年生。
「スケート、大学、食事、睡眠。この4つ以外はなにもしていないみたいな日々です」
とストイックに過ごし、学業とフィギュアスケートを両立させてきた。でもここからが勝負のときだと自覚するから休学という選択をする。
「ただ自分の実力を上げていきたいというひとことに尽きます」。
代表に選ばれた6人は、世界選手権への思いを尋ねられ、こう答えた。
「いちばんこうであってほしいと思うのは個人と団体の金メダル。そこを目指していきたいです。ここから1試合1試合重要になってくるので大事にして頑張っていけたら」(坂本)
「まず選考していただけるよう1つ1つ大事に実力を積み重ねて、毎日努力を怠らないようにしたいです。ミラノでは納得のいく演技をそろえるのが理想です。それまでの1つ1つを丁寧にやっていきたいです」(千葉)
「この1年間、復帰してから昨日の演技をまでに変わったななと思うことがあって、次の1年もたくさん変わると思うので、今シーズンの結果に満足することなく、新しい挑戦をしながら自分の強みをみつけて強くしていくのが大事かなと思っています」(樋口)
「ミラノに出場できたならば、団体戦で金メダル、個人戦でも北京よりすばらしい演技で金メダルが目標です。そのためには一歩ずつ頑張りたいです」(鍵山)
「まだ足りないことがたくさんあります。出場できたならば、いい結果を残せるようにしたいです。目先を1つ1つ頑張ることが大事だと思っています」(佐藤)
「選ばれることがスケート人生のいちばんの目標です。まずは世界選手権で実力をアピールして、選んでいただけたら結果を残せるんだということを示したいです」(壷井)
それぞれの思いをぶつけ、喜びも悔しさもそれぞれに味わった全日本選手権を経て、その経験を糧に、これからを見据え大舞台に挑む。
筆者:松原 孝臣