多様な民族と国が溶け込むインドネシア・メダンの食

1月11日(金)6時10分 JBpress

インドネシア・メダンの市場。雑多な感じに文化の多様性がうかがえる。

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 昨年はインドネシアに縁があり、夏のジャカルタに続き、年末メダンに行く機会を得た。メダンはスマトラ島の東北部にあり、インドネシア第4の都市である。観光地であるバリ島や大都市ジャカルタと違って、日本人にとってはマイナーな場所。そのせいか、ほとんど日本人を見かけなかった。同じインドネシアとはいえ、ジャカルタや以前訪れたバリとはだいぶ印象も違う。いったいなぜなのだろう。そして、どんなものを食べることができるのだろうか。


「メダン」の名がつく料理が多々

 街中では「メダン」の名がつく料理をよく見かけた。そこで、それらの料理を片っ端から食べてみた。

 まずは「ソトメダン」。ソトはスープを意味し、ソトメダンは「メダンのスープ」という意味になる。ご飯にかけて食べるのがこちらの食べ方である。ソトメダンはココナツミルクの入った少し黄色いスープだった。スパイスが効いていて辛く、八角による風味づけが中華風に感じた。メダンでは中国系の人たちが多いと聞いていたので、やっぱりと思った。

 だが、一緒についてきた緑色のソースを混ぜてみると、不思議なことに味わいが中華風からエスニック風に変化した。お店の人に尋ねると、これは「サンバル」だという。

 サンバルはインドネシアやマレーシアの料理に使われる調味料のことで、いろいろなものがある。店で出されたサンバルは、2種類の青唐辛子にライム、パーム油、ガーリックやオニオンなどを混ぜたものだという。

 続いて、「ロントンサユールメダン」を食べてみた。「サユール」とは野菜の煮付けのことで、その中にお米でできた「ロントン」が入っていた。餅のようだが、粘りはない。こちらもやはりスパイシーで辛い。

「ケトプラックメダン」は、豆腐やビーフンをピーナツソースで混ぜたもの。ジャカルタやバリで食べたピーナツソースの料理は甘かったが、こちらはずいぶん辛い。ジャカルタやバリで食べたスープや炒め物などの料理も、もっとあっさりしていた記憶がある。

 その他の料理も含めて、メダンの料理は濃厚で辛いのが特徴だと思った。


混ぜることで複雑な味わいが出る

 ホテルの朝食のビュッフェでも、ロントンが並んでいた。「ロントンは一番好きな食べ物。毎日朝ごはんに食べます」とホテル従業員のアンディさんは言う。ジャカルタで食べた、葉に包まれた「クトゥパ」というお米と似ている。違いを聞くと、「クトゥパはお米をヤシの葉で包んで蒸したり、ゆでたりしたものです。ロントンはバナナの葉で包んだもので少し緑色をしている。メダンやパダンなどスマトラ島ではよく食べます」と説明してくれた。

 ロントンのコーナーには、カレー、サユール、タウチョという3種類の汁もの、それにピーナツやトウガラシからなるサンバルが並んでいた。タウチョは大豆の発酵食品で、日本の味噌のようなものだ。どうやら1種類の汁物にロントンを入れて食べるのだろう。

 ところが、ホテルの人に取ってもらうと、それらがすべて同じ皿に一緒に盛られた。すべてを混ぜて食べるらしい。びっくりしたが、言われた通りに混ぜて食べると、複雑なうまみが効いておいしい。混ぜる割合にも秘訣があるのだろうか。

 朝食のビュッフェではロントンのほか、日替わりでご飯、ヌードル、ピタパンといった各炭水化物のコーナーに、数種のおかずや汁、トッピングが並んでいる。翌日以降もホテルの人に盛り付けてもらうと、ロントンのときと同じようにすべてを1つの皿に一緒に盛り、混ぜて食べるようにと言われた。ご飯でも、パンでも、おかずと汁をすべて混ぜるのである。

 麺のコーナーでは、中華麺とビーフンが置かれている。「一緒に食べるか」と聞かれたので「食べる」と答えると、1つの器に2種類の麺が入っていた。日本人ならこんな混ぜ方はしないだろう。

 とにかく、ホテル(つまり現地)の人に従って、おかずもスープもトッピングも混ぜて食べてみた。すると想像できなかったおいしさがあった。混ぜて食べるのはメダンに限ったことではないが、この複雑な味わいに驚いた。

 在メダン日本国総領事館で副領事を務める山森允夢さんによると、インドネシア人はもともと手で食べており、現在でも田舎に行くと手で食べている人に多く出会える。手では、混ぜないとうまく食べられないので、フォークやスプーンを使うようになっても、この「混ぜる」という習慣があるのではないかという。


先住民の食文化が料理に辛さをもたらす

 メダン郊外に住むザラさんとリダさんに、メダンの市場に連れて行ってもらった。肉や魚に加え、見慣れない野菜や果物が雑然と並んでいる。「これは何か」と聞きまくる筆者に、2人は丁寧に説明してくれた。その説明では「これはバタックがよく使うスパイスだ、野菜だ」といったように「バタック」という言葉がよく出てきた。

「バタック」とは「バタック人」のことを指す。多くの島からなるインドネシアは、多様な民族から構成されている。バタック人は北スマトラの先住民で、イスラム教が大部分を占めるインドネシアでありながら、キリスト教を信仰している人が多い。豚肉を食べるし、独特のスパイスを使うことが知られる。

 メダンではバタック料理が頻繁に食べられており、「アルシック」というバタックの伝統的な料理もよく食べられていると教えてもらった。これは、スマトラ島の限られた地域でしか栽培されていない「アンダリマン」というスパイスを使った魚の料理だ。

 残念ながらアルシックを食べることはできなかったが、メダンの料理にスパイスが効いているのはバタックの影響もあるのだろうと思った。そういえば、山森さんは「同じ国でも、ジャカルタなどジャワ島にいるジャワ人と、メダンなどスマトラ島北部にいるバタック人はだいぶ民族性が違う」と言っていた。このこともメダンの独特の食文化の要因となっているのだろう。


香辛料の産地が異国の影響も受け・・・

 スマトラ島は香辛料の産地で、メダンはもともとマレー人とバタック人がいた土地。香辛料をめぐってメダンの港にインドや中東、ヨーロッパなど多くの人がやってきた。17世紀にオランダが支配するとプランテーションができ、中国人やジャワ人が移住してきた。ここは、多様な人々が行き交い、インドや中東、中国、ヨーロッパなど多くの文化の影響を受けてきた土地なのだ。

 インドネシア国民の9割近くはイスラム教を信仰しているといわれるが、ここではイスラム教、ヒンズー教、キリスト教、仏教が同じくらいの割合で信仰され、多くの言語が使われている。「信仰も言語も異なっていても、みなインドネシア人として溶け込んで生活しているんですよ」と山森さんは言う。

 あらためてメダンの食を考えてみる。この地は、香辛料の産地という土地柄に加えて、先住民のバタック、隣国のマレーシア、さらにインドや中東、中国などからの多様な影響を受けてきた。そうしてできたのがメダンの食なのだろう。

「この味付けは中華風ですね」と現地の人に言うと、「いやこれはメダンのものだ」と言う。シュークリームでさえ、「これはメダンのお菓子です」と言われた。民族がメダンに溶け込んでいるように、食べ物もメダンのものとして溶け込んでいるようだ。

 帰りはトランジットでマレーシアに立ち寄った。インドネシア語はマレー語を源流とするとメダンで聞いたが、その通り、空港で見聞きするマレーシア語はインドネシア語とよく似ていた。さらにフードコートやレストランを一回りしてみると、食べ物も似ていて、互いに影響していることを感じた。

 インドネシアは多くの島、多くの民族から成り立つ多様性の国である。その中でもメダンは異国の影響を強く受け、いっそう多様性に富む場所だった。ジャカルタやバリとは異なる印象だったのは、そのせいだったのかもしれない。メダンの食のほんの一面を見ただけに過ぎないが、触れることができて興味深かった。

筆者:佐藤 成美

JBpress

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