樋口恵子 無謀と言われても84歳で家を建て替えたワケ。エレベーターに電動雨戸。この家で懸命に生き、いよいよになったら施設で介護を受ける選択肢も【2024編集部セレクション】

2025年1月13日(月)10時0分 婦人公論.jp


樋口先生「私の寿命が木造の家の寿命を追い越してしまった」(写真提供:Photo AC)

2024年下半期(7月〜12月)に配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします。(初公開日:2024年10月21日)
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平均寿命が伸びる一方で、長生きによる「老い」に直面する場面も増えています。以前と違う自分に戸惑ったり、忘れてしまうことに恐怖を感じている方もいらっしゃることでしょう。91歳になった今でも執筆活動を続けている、評論家・東京家政大学名誉教授の樋口恵子さんは<老いのトップランナー>として、「自分の老いを実況中継しながら、皆さんにお伝えしてご一緒に考えていきたい」と話します。その樋口さん「私の寿命が木造の家の寿命を追い越してしまった」と言っていて——。

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84歳で家を建て替えた


無謀だと言われつつも84歳で家を建て替えました。お金もかかりましたし、引っ越しの疲れも予想以上でした。でも、毎日の暮らしが本当にラクになりました。決断してよかったと今は思います。

40代で建てた木造2階建ての家は、亡夫と私の膨大な本と資料で、痛めつけられていました。2007年の大雨で盛大な雨漏りが始まり、270万円かけて修理したんです。

でも東日本大震災の後、耐震性の検査を受け、震度5以上の地震に見舞われたら全壊の恐れあり、と専門家に言われて。私の寿命が木造の家の寿命を追い越してしまったのですね。

もともとは、私の老いの住み処としては、有料の民間高齢者施設に入るつもりでしたが、家を処分したら同居している娘の住むところがなくなってしまう。

娘にせめて家くらいは残してやりたかった。親子で住んでいると、相続税の軽減*1もあるため、建て替えを決意しました。

*1 相続税の軽減:同居要件を満たせば相続税が軽減できる「小規模宅地等の特例」のこと。故人が居住していた宅地(特定居住用宅地等)の場合、330平米までを限度として、相続税評価額を80%減額することができる制度。宅地を相続する人が「同居する家族」であることなどが必要。

新しい家で、自分らしく


建て替えのときに娘から、「荷物を半分捨てるように」言われたんですよ。過去の自分の人生を捨てるようで、捨てられるものが哀れで……引っ越し応援団とともにやっと3分の1ほど減らしましたが。ひとりだったらとてもできなかったでしょうね。

いくら税制上有利とわかっていても、虎の子の貯金が減ると心細さも募って、一時、金欠うつにもなりました。


『老いの地平線 91歳 自信をもってボケてます』(著:樋口恵子/主婦の友社)

新しい家に住んで、もう7年。書棚はいっぱいで段ボール箱も積み上げられたまま、片づくメドもつきません。でもすきま風なく、冬暖かく、夏涼しく、それは本当に快適です。

疲れたらすぐに横になれるように書斎と寝室をひとつづきにしたんですよ。部屋のすぐ近くには風呂場とトイレも設けて。

エレベーターや手すりをつけて、バリアフリーの家にしてあるので、この家で自分らしい人生を懸命に生き続けたいと思っています。そしていよいよ家で暮らせなくなったら高齢者施設(有料老人ホーム)に移り、介護を付ける選択肢も。

客間に余計なものは一切置かない


新居に引っ越して7年になるのに、新しい本棚に本を並べ切れず、段ボールの箱をいくつも積み上げています。処分もできないので、少しずつやっていくしかありませんが、私の寿命にも限りがありますので片づくかどうか……。

でもね、客間は余計なものは一切置かず、いつもすっきりさせているんです。この客間があるのでいつでも気軽にお客さんを招き入れられる。すっきり片づけるのが苦手な私にとっては、この客間は大正解。

また、つけてよかったと思うのは、電動雨戸です。重い雨戸を出したり引っ込めたりは大変。これならスイッチひとつで、シャッターの上げ下ろしができ、防犯にもなります。

風呂場に乾燥機の機能がついているのも、すぐに干せてラク。毎回ベランダに干しに行くのは大変ですからね。

どこでも手すりが命綱


手すりもいくつあっても困りません。三十数年前に転倒して右膝を強打し、整形外科で作ってもらった補助具がないと、長距離の歩行ができないんです。

家では手すりに頼っています。廊下、階段、トイレ、浴室、とどこでも手すりをつけているんですよ。

書斎が2階にあるので、宅配便が来ると、玄関に出るまで時間がかかるんです。階段の手すりにすがって、一歩一歩下りる。配達の人をお待たせして申し訳ないけれど、手すりのおかげで何とか普通の暮らしが送れています。

重いものを2階へ運ぶために、室内エレベーターをつけました。足を鍛えるためになるべく階段を使っていましたが、90歳を過ぎてからはエレベーターを使うことにしています。とても安心で便利です。

※本稿は、『老いの地平線 91歳 自信をもってボケてます』(主婦の友社)の一部を再編集したものです。

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