ネット情報が当たり前となった現代。今後、食の情報とその世界は一体どう変わるのか?

1月13日(土)11時0分 Rettyグルメニュース

食にまつわる情報はいたるところに溢れています。WEBメディア、個人の投稿、雑誌、ムック、本、テレビ…。


自身も長年食メディアに携わり、そして様々な食メディアに精通している柏原光太郎さんの食メディアの歴史を紐解く「食メディアの歴史と未来」シリーズを3回に分けてお届けします。


2018年。変わり続ける食メディアは、この先どう変わっていくのでしょうか。



ライター紹介





柏原光太郎
柏原光太郎


1963年東京生まれ。出版社でグルメガイドの取材、編集などをするうちに料理の魅力にはまり、フジテレビ「アイアンシェフ」評議員なども務める。「和の食と心を訪ね歩く会」主宰、「軽井沢男子美食倶楽部」会長。2017年12月よりRetty TOP USER PRO。



リアルなネットワークの口コミがオンライン化した1990年代後半


1980年〜90年代にレストランを探そうとしたとき、私の場合は周囲からの口コミを一番重要視していました。雑誌やグルメガイドは一通り見ていましたし、それなりに個人的な食のネットワークが出来ていたからです。


彼らは私の好き嫌いも把握してくれるので、サジェスチョンをうけて訪れた店に失敗はあまりなかったのですが、いかんせん、情報の幅が狭いところに難がありました。


そんなときに彗星のように現れたのが、1996年にスタートしたインターネットサイト「askU 東京レストランガイド」でした。大まかなシステムは現在の「食べログ」とほぼ一緒と思っていただいていいでしょう。


レビュアーがレストランを評価する形式で、当時はまだネットが発達していなかったため、接続することに時間がかかる時代でしたが、このサイトを知ることによって情報量が格段に上がったのです。








しかも、匿名ながらレビュアーが個々の店を評価しているので、自分の好みのレビュアーを見つけ、彼らが訪れた店を探せば、おのずと自分の好きなタイプのレストランに行き当たる。これまで知り合いからしか受け取れなかった情報を、見ず知らずの人間から得ることが出来るようになったのです。


いま覚えている私が当時好きだったレビュアーは「極楽とんぼ姫」。いまもって正体は知りませんが、勝手に彼女のレビューの追っかけをずいぶんしたことを思い出します(いまは食べログに書かれているようです)。


ただ、東京レストランガイドは、運営側の問題だったのでしょうか、さまざまな問題が噴出して2012年に閉鎖となりました。


その感激を縫って成長したのが「食べログ」、スタートは2005年でした。いまの若い世代にとっては、食べ歩きを始めたときには食べログがデフォルトであったと思いますが、実はまだ10数年しか経っていないサイトなのです。


食べログがなぜ成功したのかについては、さまざま分析がされていますが、私は「カカクコム」という実績のある親会社があったためにコンプライアンスをしっかりとし、写真を重要視したり、テクノロジノーの進化に対応して、ユーザーライクなUIを作りあげたからではないかと思います。また、東京レストランガイドの失速をよく研究して作り上げたと指摘する関係者もいます。


立ち上げ初期の段階から東京レストランガイドの有名レビュアーも食べログに移っていき、いつしか食べログはユーザーサイドに立った、つまり飲食店サイドのぐるなびとは正反対の立場のグルメサイトのデファクトスタンダードになりました。


東京最高のレストラン、ミシュランガイド上陸…2000年代、紙メディアも新たな試みへ


ちなみに、この当時はネットだけでなく、紙もさまざまな試みをしていました。2001年に創刊され、毎年年末に最新刊が出る単行本『東京最高のレストラン』は、食の分野で仕事をしているプロが実名で東京のレストランを評論する内容がウリです。



こちらは2018最新版

こちらは2018最新版




歯に衣着せぬ論評のため、初期には飲食店とのトラブルも少なくなかったと聞きますが、ネガティブなことも敢えて表明するという姿勢がコア食べ歩きファンから熱烈な支持を得て、現在まで続いています。


そして、一番衝撃だったのはミシュランガイドの日本上陸でしょう。2007年11月に「ミシュランガイド東京2008」が発売されたときには30万部近い売れ行きという、ガイドブックとしては驚異的なベストセラーとなりました。



2018年最新版・東京編

2018年最新版・東京編




欧米以外では世界初、しかも日本料理や寿司に三つ星がついたのも初めてなら、星の合計がパリを抜いて東京が世界の美食都市に躍り出たわけです。


はじめてのミシュランで3つ星に選ばれたのは「カンテサンス」「ジョエル・ロブション」「ロオジエ」「小十」「かんだ」「濱田家」「鮨 水谷」「すきやばし 次郎」の8店でした。


「フランス人に日本料理が評価できるのか」「日本人とは基準が全然違う」などといった意見も出ましたが、ミシュランが評価した店は予約が殺到しました。








ある料理店の主人は、「このままだと半年後に閉店かと思っていたら、星をいただいて助かりました」といっていましたし、「突然、朝に英語で予約の電話が来て困りました」と話した日本料理店の主人もいました。


ミシュランはご存知のように匿名評価で、前出の東京最高のレストランとは正反対の評論ですが、欧米で確立したブランドは日本でも確実に支持され、いまでも毎年発表会を開き、東京以外に関西版や地方版も出ています。


ミシュランの評価基準に対してはいまでも異論は多いようですが、私はミシュランの姿勢は評価しています。というのも3つ星の変化が少ないからです。


2008年版で3つ星に選ばれた8軒のうち、「カンテサンス」「ジョエル・ロブション」「かんだ 」「すきやばし 次郎」の4軒はいまもなお、3つ星を維持しています。


マスコミ的にいえば、3つ星が毎年のように入れ替わり、有名店が落ちた方が情報として大きく取り上げられ、結果としてミシュランの売り上げにもつながります。


しかしそれをしないのは、ミシュランとしての評価軸にブレがないということであり、それは評価本として大切なことだと思うからです。


ネットが圧倒的覇者となる中で、各サービスの競争が激化している現在


とはいえ、この十年間のネットの進歩で紙の情報はすっかりネットにとって代わられました(ミシュランもぐるなびと提携し、ネットでの発信を強化しています)。


ネットの世界では、最初に一番強くなったサービスを凌駕するのはなかなかむずかしいのが現状ですから、食べログがデファクトスタンダードを獲得して以来、食べログの評価に飲食店は振り回されるようになります。


食べログのサービスはわかりやすいだけに、点数だけが独り歩きして、数字の実態であるレビューを読まないまま、「あの店は点数が低いからやめよう」などということになってしまうのです。


食べログ側もアルゴリズムを進化させたり、レビュアーの評価をしたりと、さまざまな対策をとって数字の信頼性を確保しようとしているようですが、匿名性が食べログのウリである以上、レビュアー個々人が誰なのかがわからないという問題がありました。


そこを衝いたのが2010年にリリースされた「Retty」です。レビュアーはすべて実名で信頼性が確保できるというのが食べログとの違いです。さらにいえば、背景にはパソコンからスマホ、ウェブからアプリといったネットの進化があります。








食べログはパソコン時代に成立したサービスですから、レビュアーも詳細で長いレビューを書く傾向があります。私のように紙に慣れ親しんだ世代には、細かく評論されたレビューは参考になりますが、スマホ世代にとっては小さな画面ですぐにわかることのほうが肝要。


Rettyはスマホに親和性の高いデザインで、短い文章で料理店の良し悪しが分かるレビューが支持されています。食べログのように飲食店を批判する文章が少ないのもRettyの特徴で、これも実名制をとっているからでしょう。


それを更に進化させたのが「TERIYAKI」です。Rettyは実名とはいえ、誰でも書き込みができるので、料理リテラシーの有無は関係ありません。食べログも同様です。


しかし、料理店の良し悪しは、その人の食に対する経験値によってかなり違ってきます。私の経験から言っても「この人が美味しいと言っている店なら信用できる」という人がいる反面、「この人がいいという店は、それだけじゃなあ」と保険を掛ける場合があるのは事実です。


ならば誰もが認める「食のプロ」だけが紹介するグルメガイドなら信用できるだろう、と考えたホリエモンこと堀江貴文さんが2013年から始めたのが、このTERIYAKIです。


TEIYAKISTと呼ばれる、食に一家言ある人々が実名で店を紹介するから信頼性も担保できるというのがウリ。どちらかといえば高級店の紹介が多く、新店にも敏感、ホリエモンも積極的に投稿しています。


さらにこの数年、紙の世界で活躍してきた食ライターがどんどんネットの世界に参入。食べログやRettyのユーザー投稿型とは違い、豊富な食取材の経験、企画力を武器にした、「Dressing」「メシコレ」など食のウェブサイトも続々誕生しています。


テレビ業界においては、かつての「料理の鉄人」のような圧倒的な影響力を持つグルメ番組は現れてませんが、当時にくらべてグルメ番組自体はものすごく増えています。


しかも、単なる店紹介からシェフや芸能人の料理番組、開店までのドキュメンタリーなど紹介の方法もバラエティに富み、食に対する関心は当たり前のこととなったのです。








食の情報が増えたことによる、弊害も出始めた


こうして食に関する情報は1980年代から比べたら10倍、いや100倍くらいに増えました。かつて情報がほとんどなかった時代を知る者としてはうれしい限りですが、その弊害のひとつは、あまりに増えすぎた情報を取捨選択できなくなること。


TERIYAKIのようにキュレーターが選ぶサイトはそれに対する回答といえますが、食情報をキュレーションしたキュレーションメディアの登場もそうです。「スマートニュース」や「アンテナ」など総合キュレーションサービスでも、食ジャンルは重要になっています。


もうひとつの弊害は、情報が多くなることによって食へ興味を持つ人々が多くなり、リアルな店舗に混乱が生じていることです。








一部の有名店は予約が殺到して、すごいところでは3年待ちだったりしています。そのいっぽう、ドタキャン、ノーショウも問題になっています。その背景には外国人観光客の増加があります。


それに対するメディアの対応の一つが予約システムです。もともとはドタキャンされた席を、そこに行きたいと思っている人とマッチングさせる目的で始まったのが「ポケットコンシェルジュ」(2013年)。


社長は日本料理の職人だっただけに飲食店の大変さをよくわかっていて、予約困難店の予約がサイト上で簡単にでき、ドタキャン情報もきちんとフォロー。いまでは決済システムや情報サイトへとサービスを拡大しています。


同じ時期、食べログやぐるなびなども予約サービスを始め、ネットでお目当ての店を見つけたらその場で予約までできるようになっています。ただ、そのように簡単に予約ができるようになったことから、逆にドタキャンが増えたという指摘もあります。


その問題に店側から取り組む例も出てきました。ミシュラン2つ星の鮨「東麻布 天本」は、自分たちで予約アプリを開発し、ドタキャンされた場合は、キャンセル料金も徴収できるようにクレジットカード登録を予約の条件にしています。こうした例はこれからも現れそうです。


さらにいま、大きな変化として起きているのは、食の国際化です。食べログやRettyが日本人による日本人のための食ガイドであるのに対し、世界のレストランのなかで日本の飲食店を位置づけようという試みもできてきました。「World’s 50 Best Restaurants」がそうです。


世界中のフードライター、シェフ、美食家ら1500人が選び、2017年版では日本からは「NARISAWA」と「傳」が選出されています。近年、最先端のフーディにとっては、ミシュランよりもこちらのほうが評価されているようにすら思えます。


今後、食メディアはどのように変遷していくのか


このように、いまのグルメ情報は百花繚乱。情報量は圧倒的にネットが優位ですが、紙の世界もイベントを行ったり、ネットと組んでさまざまな展開をしています。テレビにはグルメな番組があふれています。








こんなときに自分にとってぴったりなレストランを見つけ、充実した会食を楽しむにはどうしたらいいか。それを歴史に学ぶのも面白いかもしれないと思って、この連載を始めました。


戦後からの食メディアの変遷を3回にわたって辿ってみると、食に限らず、あるジャンルが変わっていくときには同じような方向を進むことが分かります。


最初はマスコミや有名人が美味しいと太鼓判を押したものを信じることから始まり、やがてそれに疑義をはさみ、評価基準を明文化した評論が出るようになります。情報化社会の出現で、一般人も評論するようになり、それをテレビや雑誌が後押しし、ネット社会につながります。


しかし、誰もが評論家になってしまうと情報が多すぎて「正しい情報」が探せなくなり、キュレーション方向へと向かっていく……いまはそんな状況にいるように思います。


では今後、食メディアはどうなるでしょうか。これだけSNSが普及し、商業メディアよりもインスタグラムのほうが情報が早いともいわれる時代ですが、私はまだまだメディアの出番はあると思っています。そのカギは飲食店と客のマッチングにあると思います。


人はなぜ、いろいろな店を探すのか。もちろん、未知なる味を知ること、新しいサービスを経験することは、それ自体とても楽しいことです。


ただ、相性のいい店ができると、その店に通い、さらに自分好みにしたくなる。そんな店を探している場合も多いでしょう。


将来、AIがもっと発展すると、ビッグデータを使って、これまで訪れた店の傾向から、好みの店を教えてくれるようなことも簡単にできるようになるのではないでしょうか。


膨大なビッグデータに世界中の飲食店が登録され、もしも私の好みの店が南米の山奥にでもあったら……。


そう考えると食の楽しみはまだまだ広がっていきそうです。


本文中に登場したお店

































































 

 


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