認知症の親の介護費用に「親の財産」を使えない?資産凍結を未然に防ぐ、新たな仕組み「家族信託」とは
2025年1月14日(火)12時30分 婦人公論.jp
親が認知症になったら…(写真提供:Photo AC)
超高齢化社会を迎えた今、親の介護は身近なものとなっています。しかし、そんな中子どもが親の財産を代理で処分することが難しくなってきているというのです。いざというときに「親の預貯金がおろせない」「実家が売れない」そんな事態を未然に防ぐにはどうすればいいのでしょうか?テレビ・雑誌で活躍する資産凍結対策のプロ、杉谷範子さんが解説する『親が認知症になると「親の介護に親の財産が使えない」って本当ですか?』より一部を抜粋して紹介します。
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親の通帳と印鑑があれば、子が銀行でお金を引き出せる?
「子どもが親の通帳と印鑑を持っていけば、親が認知症でも銀行でお金を引き出せるのではないか?」とか、「書類と実印があれば、親の代理で不動産を売却して介護費用を工面できるのでは?」と思われた方も多いかもしれません。
たしかに、20年ほど前までは、子どもが親に代わってこうした手続きは比較的容易にできました。
しかし、現在はまったく異なる状況になっています。
今の時代は「本人の意思確認」が非常に重視されるようになっており、親の財産を代理で処分することが難しくなっているのです。
認知症を患う高齢者が増加する中、私たちは親の財産管理や相続について早めに準備をしておく必要がありますが、多くの方は「そのときになれば何とかなるだろう」と考え、放置してしまうことが少なくありません。
また、認知症が進行した親を目の前にしても、「何から手をつけてよいのかわからない」という理由で行動に移せず、事態が深刻化してしまうこともあります。
親の介護費用をどうやって捻出するか
しかも、介護を担う子ども世代は、親の介護だけではなく、自身の生活費や子どもの教育費、住宅ローンなどにも対応しなければならないという厳しい現実があります。
親の介護費用をどうやって捻出するのか、さらには自分自身の生活をどう維持するのか、その両立に悩む人も多いでしょう。
ところで、内閣府の調査によれば、60歳以上の2人以上世帯では、平均的に約2400万円の貯蓄があるとされています。
また、そのうち約2割の世帯は4000万円以上の貯蓄を保有しており、高齢者世帯の多くは、持ち家と貯蓄の両方を持っていることがわかっています。
これらの貯蓄の主な目的として、「普段の生活維持」と「万一の備え」が挙げられており、親世代は将来、子どもたちに迷惑をかけないようにしたいという意識が強いことがうかがえます。
しかし、親がどれだけしっかりと貯蓄をしていても、認知症などで判断能力を失ってしまった場合、子どもはその貯蓄を自由に引き出して使うことができなくなります。
これは、銀行などが「本人の意思確認」を重視しているからです。こうなると、家族は大きな負担を抱えることになります。
『親が認知症になると「親の介護に親の財産が使えない」って本当ですか?』(著:杉谷範子/大和出版)
「財産の凍結」という問題も
また、親が亡くなった場合も、「財産の凍結」が問題となります。
たとえば、父親が亡くなったときに、母親がすでに重い認知症を患っていた場合、遺産分割が進まず、遺産分けができず、母親の介護費用の捻出や相続税の支払いができなくなるリスクもあります。
こうした「認知症による財産の凍結」は、決して他人事ではなく、誰にでも起こり得る問題です。
「成年後見制度」を利用すれば、凍結が解除され、後見人が財産を管理できますが、この制度にも多くの課題があり、国連からは制度の廃止を勧告されている状況で、今後の改正が議論されています。
私は、これまでNHK総合テレビの『あさイチ』や『クローズアップ現代+』『ニュースウォッチ9』などの情報番組に出演し、認知症による資産凍結の問題とその予防策について訴えてきました。
この問題を適切に理解し、早めに対策を講じないと、今後ますます困る家族が増えてしまうと強く感じているからです。
家族信託という新しい仕組み(写真提供:Photo AC)
親の財産を親の老後のために使えるように
従来、認知症対策としては、贈与税を払ってでも子どもに財産を贈与することが主な手段でしたが、2006年に信託法が改正され、「家族信託」という新しい仕組みが誕生しました。
これにより、親の財産を子どもの名義に「信託」という方法で変更し、親のためにその財産を管理し、認知症対策と相続対策を同時に行うことができるようになりました。
この家族信託は、信託銀行が行う信託とは異なり、より柔軟で親しみやすい制度です。私は、「日本の3つのモッタイナイ」を解消したいと考えています。
1つ目は、認知症高齢者の財産が凍結されて使えなくなること、2つ目は、全国に増え続ける空き家の問題、3つ目は、介護や相続をめぐって家族が対立し、関係が壊れてしまうことです。
この「3つのモッタイナイ」をなくすために、家族信託や関連制度について、できるだけわかりやすく解説し、皆様の将来の安心をサポートしたいと思います。
制度を活用することで、「親の財産を親の老後のために使える」ようになることを、心より願っております。
※本稿は『親が認知症になると「親の介護に親の財産が使えない」って本当ですか?』(大和出版)の一部を再編集したものです。
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