NHK『あさイチ』で「私が直面したわが子の性被害」がテーマに。絶対に否定せず、耳を傾ける。子どもを誘う性加害者が持つカウンセラー顔負けのスキルとは…

2025年1月15日(水)7時0分 婦人公論.jp


加害者にみられる共通点とはーー(写真提供:Photo AC)

2025年1月15日放送のNHK『あさイチ』で「私が直面したわが子の性被害」が取り上げられます。学校や学習塾などでも事件が起きる中、もし子どもから「性被害を受けた」と告白されたら——もしものときの対応とは。そこで今回は、2024年1月12日に公開した小児性犯罪者の手口と注意すべき点についての記事を再配信します。
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「性的グルーミング」という言葉をご存じでしょうか。これについて、精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんは「子どもと信頼関係を築き、関係性を巧みに利用して性的な接触をする行為」と説明しています。今回は、2500人以上の性犯罪者の治療に関わってきた斉藤さんに、「小児性愛障害」や「子どもの性被害」について解説していただきました。斉藤さんいわく「加害者の共通点は、子どもたちに対してとてもやさしく、彼らの発言を無条件に肯定し、共感していること」だそうで——。

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カウンセラー顔負けの「聴く力」


グルーミングにおいて、加害者の欲望がすぐにはむき出しにならないケースも数多くあります。

「おはよう」「おやすみ」など挨拶から始まり、ゲームアプリ上なら共通のゲームの話題を繰り返し重ねて、時間をかけて慎重に関係性を深めていくのです。

また、自分の写真を投稿しているような子どもには「かわいいね」など容姿を褒めて、自尊心と承認欲求をくすぐります。そこには、暴行・脅迫を想起させるような暴力性は見受けられません。

SNSもゲームも、基本的には無料ですが、一部の子どもたちの間には「有料アイテムや有料スタンプを持っていないと恥ずかしい」という意識が共有されているといいます。もちろん子どもには自由に使えるお金は限られているので、そんな心理の隙をつき、有料のアイテムで子どもたちを誘い、手なずけるのも彼らの常套(じょうとう)手段です。

ゲームの世界ではランキングやレベルが上の上級者を尊敬する風潮もあり、子どもたちにとってレアなアイテムやお宝を持っているプレイヤーは「憧れの存在」にもなっていきます。その際、加害者は実際の年齢を偽っていることが多いですが、子どもからすると本当に大学生なのか、社会人なのかはわからないものです。

そのほかにも、メッセージなどのやりとりで子どもが「受験勉強がうまくいかない」など愚痴とも相談ともつかないメッセージを送ると、彼らはすぐさま「大丈夫? 落ち込まないで」などやさしく励ます、ということもよくあります。

共通点は、いずれも子どもたちに対して彼らはとてもやさしく、子どもたちの発言を無条件に肯定し、共感していることです。

「受容・傾聴・共感」


ところで、カウンセリングでは、「受容・傾聴・共感」という3つの要素がカウンセラーに求められます。

(1)受容……相手に「抱えている感情などをありのままに受け止めますよ」という姿勢を示すこと
(2)傾聴……相手の話を否定せず、耳を傾けてじっくりと聴くこと
(3)共感……相手の気持ちに寄り添って、相手が話したことについて「そうですね」といった気持ちを表すこと

カウンセリングを受けたことのある方はご存じかと思いますが、カウンセラーは、基本的にはクライアント(相談者)の話を遮(さえぎ)らず、話し終わるまで「ああ、そうなんですね」「なるほど」という具合に、うなずきながらただひたすら耳を傾けます。

そこでは絶対に否定はしません。また、「**と考えていたんですね」「**と捉えていたのですね」と相手の表現したかった気持ちを核心をついた言葉で表現し、何度も丁寧に確認していきます。

さらに「それはつらかったですね」「大変でしたね」といった言葉をかけ、「共感」を表します。

カウンセラーが、この「受容・傾聴・共感」の3つの要素を意識して相談者の話を聴くことで、クライアントも「話を聴いてもらえた」「自分という存在をそのまま受け止めてもらえた」と感じることができます。すると双方に信頼関係が構築されていきます。

カウンセラーとクライアントの間の相互信頼関係を「ラポール」(rapport)といいます。

「調和した関係」「こころが通い合う関係」という意味のフランス語が語源の言葉です。「受容・傾聴・共感」という3つの要素によって、ラポールが形成されていくのです。

すべてを受け入れてくれる「理解ある大人」


話はグルーミングに戻ります。グルーミングの加害者たちは、カウンセラー顔負けの傾聴力を持っています。「友達と嫌なことがあってつらかった」と子どもが訴えれば、「そうか、つらかったね」と返し、否定せず、どこまでも耳を傾けます。

友達との関係に悩む子どもにとって、「自分の話を否定せず聴いてくれる大人がいるんだ!」というポジティブな驚きは、やがて信頼感、つまり加害者たちとのラポールの形成へとつながります。


「友達と嫌なことがあってつらかった」と子どもが訴えれば、「そうか、つらかったね」と返し、否定せず、どこまでも耳を傾けます(写真提供:Photo AC)

その信頼関係を築くまでは当然かなりの時間を要しますが、小児性犯罪者たちの根気強さは、そもそも常人の予想を遥かに超えています。

ここで親子の会話を振り返ってみてください。日常生活全般において、親は子どもに対して「早く寝なさい」「おやつはごはんの前に食べたらダメだよ」「ゲームは30分だけね」など、何かを禁止・制限する言葉を発することが多くなっているのではないでしょうか。

とくに子どもが小さければ、「道路に飛び出しちゃダメ!」「外は暑いから帽子をかぶりなさい!」など、子どもの身の安全を守るためにも、親が禁止や制限の言葉を発する機会が多くなるのも当然です。

さらに年頃になれば、子どもたちも「なんでゲームを好きなだけできないの!?」「いまはまだ寝たくないんだけど〜!」と、親に反抗するようになってきます。

陽だまりのような存在に映る


しかし、グルーミングをする性加害者は、子どもに対して禁止や制限をする言葉は用いません。「そうなんだ」「つらかったね」「君は悪くないよ」といった言葉を繰り出し(無条件の肯定的関心)、「受容・傾聴・共感」のスキルを総動員します。

日々の生活において親の注意や声がけを「口うるさい」と感じる子どもにとって、そのような言葉をかけてくれる大人は、まるで陽だまりのような存在に映ることでしょう。

大人に比べて人生経験も浅く、判断能力が未熟な子どもに、その陽だまりの向こうにはどのようなリスクがあるのかは想像できません。

また、オンライン上では「ストレスがたまる」「気持ちが落ち込む」など悩みを打ち明けた子どもに対して、加害者は「セックスをするとストレスが和らぐよ」など、大人からすると至極いいかげんに性的な話題をもちかけることもあります。

さらに、オンライン上のやりとりを経て、実際に子どもと顔を合わせるようになってからも、彼らは初対面でいきなり性行為に及ぶことはあまりありません。

最初は喫茶店やカラオケボックス、ゲームセンターなど、子どもや若者が好みそうな場所を選び、信頼感を醸成して、子どもを懐柔していくわけです。子どもに勉強を教えることに長(た)けている者は、宿題を見てあげることもあります。

もちろん彼らはその裏で、周到に性加害を行うタイミングを見計らっているのです。

※本稿は、『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

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