坪単価「大山」で平均550万円、「月島」は約10年で2倍…平均価格1億1483万円!<23区タワマン高額化の状況>を専門家が解説

2025年1月16日(木)17時30分 婦人公論.jp


(写真提供:Photo AC)

都市部や郊外で、タワーマンション建設や新規の住宅地開発が積極的に進められている昨今。しかし「不動産価格の高騰で、住宅の入手困難化が深刻」と指摘するのは、都市政策や住宅政策を専門とする、明治大学政治経済学部・野澤千絵教授です。そこで今回は、野澤教授の著書『2030—2040年 日本の土地と住宅』から一部引用、再編集してお届けします。

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入手困難化する住宅


都市部ではタワーマンション建設ラッシュ、郊外では新規の住宅地開発、そして空き家の増加……と、都市の中に私たちが住まう余地は明らかに増えています。

にもかかわらず、今、なぜ、住宅は高騰し、入手困難になっているのでしょうか。

住宅が入手困難化している実態を少し紹介しましょう。

不動産経済研究所(1)によると、2023年に新規供給された首都圏の億ションは4174戸と、バブル期の1990年の3079戸を大幅に超えました。特に、東京23区の2023年の新築マンションの平均価格は1億1483万円にまでなりました。

例えば、超高額物件として有名になった港区の三田ガーデンヒルズでは、2023年2月の販売開始時、2億3100万〜45億円(2)で売り出されました。

ここは、昭和初期に建てられた旧逓信(ていしん)省簡易保険局庁舎の広大な跡地(約2.5万m2)の14階建て1002戸(一般販売対象は952戸)の分譲マンション(2025年3月竣工予定)です。

最多販売価格は3億8000万円台(31戸)で、平均の坪単価は1300万円程度、仕様がさらに豪華なパークマンション棟の坪単価は1700万円程度とも言われています(3)。

そして、三井不動産レジデンシャルのウェブサイトを見ると、すでに939戸の販売が終了したとされています。

こんなにもたくさん超高額物件を買える人がいることに驚愕したのは私だけでしょうか……。

価格上昇は東京23区だけ?


首都圏以外でも、大阪市で25億円超、札幌市で5億円超、岡山市で3億円超、旭川で2億円の新築マンションが販売されるなど、全国各地で続々と億ションの供給が予定されています。

ただし、東京では、販売価格が20億円前後、最上階は200億円超えと言われる麻布台ヒルズのアマンレジデンス東京や前述の三田ガーデンヒルズのような超高額物件が全体の平均価格を押し上げているとも考えられます。


『2030—2040年 日本の土地と住宅』(著:野澤千絵/中央公論新社)

そこで、不動産経済研究所によるデータをもとに、首都圏新築マンションの戸当たり価格の中央値の推移を見てみました(図表1)。

その結果、新築マンション価格の2023年の中央値を10年前と比べると、東京23区は1.6倍、神奈川県は1.5倍、東京市部・埼玉県・千葉県は1.3倍となっており、東京23区だけで価格が上昇しているわけではないのです。

具体的に2023年の中央値を見ると、東京23区は8200万円、神奈川県は5772万円、東京市部は5279万円、埼玉県は4660万円、千葉県は4598万円でした。

不動産業界でも驚きの声があがる億ション


また、近年、東京都内の駅前再開発でつくられるタワーマンションでは、億ションが当たり前になっています。

例えば、不動産業界で驚きの声があがっているのは、シティタワーズ板橋大山サウスタワーです。

「大山町クロスポイント周辺地区第一種市街地再開発事業」の一つとして建設されたタワーマンションで、東武東上線の大山駅から川越街道に至るハッピーロード大山商店街の中ほどに位置しています。

不動産流通研究所などによると、2024年6月から登録が開始された第1期の平均坪単価は650万円(販売価格9400万〜1億5900万円(4))で下層階を含む平均坪単価でも550万円とのことで、周辺の相場から見てもかなり高めの価格帯のタワーマンションが再開発で誕生しています。

10年前と比べると……


では、再開発で建設されるタワーマンションの販売価格は、10年前と比べてどの程度、上昇しているのでしょうか。

中央区月島駅周辺で10年ほど前に再開発に伴い建設されたタワーマンションを比較してみました(図表2)。


<『2030—2040年 日本の土地と住宅』より>

2015年に竣工したタワーマンションAは販売当時、坪単価の平均が326万円(70m2換算で約6900万円)でしたが、2026年竣工予定のタワーマンションBは坪697万円(70m2換算で1億4760万円)と2.1倍になっていました。

タワーマンションAは2024年6月時点の中古マンション相場で坪658万円(70m2換算で1億3930万円)と10年前から2倍に値上がりしているわけですが、新築のタワーマンションBはそれより6%ほど高い価格帯となっています。

周辺の中古マンション価格が高騰すればするほど、同じエリアの新築マンションで設定される価格も上昇していく可能性があると考えられます。

近年、各地で旺盛に再開発が行われ、そこで建設されたタワーマンションによって大量の住宅が供給されています。

しかし、平均価格が1億円以上といった状況では、月々必要になるマンションの維持管理費や修繕積立金の負担、日々の生活費、子どもへの教育費などのことを考えると、世帯年収で1500万円程度あるようなパワーカップルでも躊躇する価格帯になっていることがわかります。

土地や住宅の価格が上昇しても、年収が増えていけば、大きな影響はでません。しかし、図表3のとおり、2013年=100としてみると、2020年から可処分所得は上昇しているものの、マンションの不動産価格指数(5)と可処分所得の乖離がますます大きくなっていることがわかります。


<『2030—2040年 日本の土地と住宅』より>

つまり、マンションの価格上昇に、可処分所得が全く追いついていないどころか、ますます状況が深刻になっているのです。

特に、東京などの大都市では、住居費・食費といった基礎支出が他の道府県より高いため、中央世帯(都道府県ごとに可処分所得が上位40〜60%の世帯)では、そこまで余裕のある世帯が多いとは考えられません。

現に、国土交通省の資料(6)によると、東京都の中央世帯の基礎支出は47都道府県で最も高く、可処分所得から基礎支出を差し引いた金額は全国で第42位となっています。

2021年の国立社会保障・人口問題研究所の調査(7)によると、「理想の数の子どもを持たない理由」のうち「家が狭いから」と回答した若い世帯(妻の年齢35歳未満)が21.4%という結果となっています。少子化を少しでも食い止めようというのなら、若い世帯が住めなくなっている都市づくりをこのまま進めてよいのか?という根本的な問題にも目をむける必要があります。

●注
(1)不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2023年(年間のまとめ)」
(2)「スムラボ」ウェブサイト https://www.sumu-lab.com/archives/72257/
(3)Impress Watch「港区最大の超高級マンション「三田ガーデンヒルズ」」(2023年9月22日付)https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1533182.html
(4)不動産流通研究所ウェブサイト「大山の再開発マンション、17日に1期登録開始」(2024年6月12日)https://www.re-port.net/article/news/0000075997/、及び、日本不動産野球連盟RBA野球大会ウェブサイト「準都心部も青天井相場へ 住友不「板橋大山」坪550万円 「池袋」坪800万円近く」(2024年6月12日)https://www.rbayakyu.jp/rbay-kodawari/item/7589-550-800
(5)「不動産価格指数」とは、取引価格の価値を異なる時点間で比較できるように、国土交通省が年間約30万件の不動産の取引価格情報をもとに、ヘドニック法により立地・物件の特性・季節などの影響を取り除いた不動産価格の動向を指数化したものである。
(6)国土交通省 国土審議会計画推進部会 国土の長期展望専門委員会(第13回)資料2-4「地方の豊かさについて」(2021年3月8日)
(7) 厚生労働省「令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況」(2024年6月)

※本稿は、『2030—2040年 日本の土地と住宅』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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