千賀、則本、和田毅…ファンドレイジングを始めた理由

1月16日(木)6時0分 JBpress

プロアスリートが取り組む社会貢献が日本でも注目を集めつつある。東京五輪を控えスポンサーアクティベーションはより脚光を浴び、アスリート自身も自身の影響力を世の中に還元する活動を積極的に行う。スポーツが違った形で私たちの生活に近づき始めている。
「より多くの人が野球によって救われる社会を作る」ことを目指すベースボール・レジェンド・ファウンデーション(BLF)はそのひとつ。年末には、ホークス・和田毅や千賀滉大、イーグルスの則本昂大ら球界を代表する選手たちとイベントを開催した。そのイベントについてBLF代表の岡田真理氏による寄稿。プロアスリートはチャリティをどう考えているのか。


イベントによって選手が勇気づけられる

 プロ野球のオフには多くのファン交流イベントやトークショーなどが開催されているが、毎年12月に行われる『BLFチャリティートーク』は趣旨が少々異なる。

 このイベントに集まったのは、福岡ソフトバンクホークスの和田毅と千賀滉大、東北楽天ゴールデンイーグルスの館山昌平(コーチ)と則本昂大、東京ヤクルトスワローズの畠山和洋(コーチ)、そしてオリックス・バファローズの吉田正尚の6人。

 世代も球団もバラバラの彼らが集まった目的は“ファンドレイジング(寄付集め)”だ。

 私は2014年にNPO法人ベースボール・レジェンド・ファウンデーション(BLF)を立ち上げた。「野球によって人生が救われた」「野球に助けられた・励まされた」という人を増やすこと。それを実現させるために、野球を通した慈善活動をプロ野球選手・球団とともに推進していくこと。

 メジャーリーグ取材を通じて感じた「社会のなかにある野球の力」を、日本でも実現したいと思ったからだ。

 以来、多くのプロ野球選手が協力をしてくれている。今回集まった豪華なメンバーも、野球の力、そして自らの人気や知名度を活かし、トークショーやフォトセッションで寄付を集め、それを社会に役立てることに賛同してくれた。

 このイベントでのファンドレイジングは、①イベントのチケット代の一部(6500円のうち2000円)、②フォトセッションブースに設置した募金箱への寄付、③登録数50万人超の野球YouTubeチャンネル『トクサンTV』(イベントの一部を収録)で紹介するオンライン寄付ページの3つの方法で行う。

 集まった寄付は全額、日本財団『夢の奨学金』を通じて、児童養護施設や里親家庭など社会的養護のもとで育った子供たちが進学する際の学費や生活費に充てられる。

 BLFとともにこのイベントを企画したホークスの和田は、第1回(2018年12月)を振り返り「純粋に楽しかった」と語る。

「僕は2018年シーズン一度も1軍で投げることができなかったんですけど、そんな中でイベントに出演して、ファンの方々から『頑張って』と声を掛けられて、絶対に復活したいという思いが一層強くなりました。目的はチャリティーでしたけど、このイベントで僕自身がたくさん励ましてもらえたので、『次は胸を張ってこのイベントに戻って来られるように』と2019年シーズンはさらに頑張れました」


選手たちそれぞれが見つけた「応援の形」

 支援先を奨学金プログラムにすることも、和田による発案だった。

 実は、和田は奨学金で早稲田大学に進学しプロ入りを果たしている。高校3年当時はまだプロ野球の道が現実的ではなかったためローンを組み、全額払い終わったのはつい数年前のことだという。

 返済に苦しむ若者が多い中、『夢の奨学金』が給付型だったことが支援先の決め手となった。

「僕が高校生の頃にもし夢の奨学金があったら、絶対に応募していたと思う。本当に夢のようなプログラムです。奨学生の方たちも一生懸命夢に向かって頑張ってもらえたらと思うし、何よりプロ野球選手である僕らがこういう活動をすることで、このプログラムが世の中に認知されて、どんどん支援が広がっていけばいいなと思います」

 館山昌平は、和田からの電話でこのイベントへの参加を決めたという。

「昨年参加してみて、本当に意義のあるイベントだったと感じました。シーズンオフのイベントってあまり知られていないことが多いんですけど、たくさんのファンの方に来てもらって、多くのメディアにも取り上げてもらって、自分が“プロ野球選手になれた瞬間”というものを、また一つ感じさせてもらうことができました。引退してコーチになってもこうして声を掛けてもらえて有難いです」

 今年から東北に拠点を置くことになる館山は、奇しくも現役の最終登板が石巻のグラウンドだった。

「まだグラウンドの隣に仮設住宅があるような状況。そういう中で、その試合はシーズンの最多観客動員数を記録したんです。野球というスポーツは夢を与えることができるんだなと、改めて肌で感じました。今は東北に移って、東京で生活していたときはわからなかった事実を知る機会もあって。これまで17年間ヤクルトの館山でやってきたけど、これから東北のために全力を尽くして、将来的に“館山という男が東北にいた”という足跡を何か残せたらという思いはあります。その第一歩が、こういうチャリティー活動という形なのかもしれないですね」


千賀に影響を受けて始めた則本

 ホークスの千賀は、2019年シーズンから1奪三振につき1万円を「オレンジリボン運動」(児童虐待防止全国ネットワークが実施)に寄付すると昨年の同イベントで公表した。キャリアハイの227奪三振でタイトルを獲得し、ポストシーズンの22奪三振とあわせて249万円を寄付した。

「目標の数字が200奪三振だったので、とりあえずその数字を超えられてホッとしています。キャリアハイの記録だったこともよかった。実は僕もこの活動をするまでオレンジリボンの存在を知らなかったんですけど、こうやって取り上げてもらうことでみなさんに知ってもらったり、興味を持ったりしてもらえれば、僕がこの活動をやる意義もあるのかなと」

 育成で入団した千賀は、1軍である程度結果を残せたことが支援活動を始めるきっかけとなった。オレンジリボン以外にもチャリティー活動やイベントにはできる限り参加したいという。

「こういう(BLFチャリティートークのような)イベントはすごく必要だと思うんです。素晴らしい機会だと思うので、これ以外にも参加させてもらえるんだったら協力したい。発信したことをニュースにしてもらえる立場になったからこそ、どんどん発信していったほうが世の中をいい流れにできるんじゃないかと思うことはあります」

 このイベントで『夢の奨学金』の支援をすることについて、千賀はこう語る。

「(奨学生たちのように)目標や夢があるって、それだけでもすでに素晴らしいし、それに向かっている姿も本当に素晴らしい。その中で(経済的なことなど)障壁があるところは、僕らが少しでも力になれたら。僕らは頑張る人を応援したいし、野球ファンの人たちも頑張る人を応援してくれる人たちだと思う。みんなで協力して若い人たちの夢をサポートできたらいいですよね」

 千賀の戦友でもある則本もまた、このオフから支援活動を始める。怪我で離脱した2019年は背番号14にちなんで140万円を、2020年シーズンからは1イニングごとに1万円を積み立て、公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン」に寄付しておもに東北の子どもの教育支援を行う。

「ずっとやりたかったんですけど、やり方がわからなくて。でも、去年BLFチャリティートークに参加して、イベントに来ているほかの選手と話したり、千賀がオレンジリボンの支援を始めると聞いたりして、実際どういうものをやりたいのかをセッションさせてもらう機会があったおかげで、ようやく自分のやりたい活動ができるようになりました。このイベントで交流できたことが本当によかったなと思っています」

 千賀は支援活動を始めた年にキャリアハイの記録を打ち出した。チャリティーをやることによる競技活動へのプラスの影響も期待される。

「試合中はなかなかチャリティーのことは頭に浮かばないですけど、たとえばシーズン終盤に差し掛かった時に『あと何イニング投げればキリがいいな』と思うことはあるかもしれない。間違いなくプラスαの力にはなるでしょうね。僕自身、あまり裕福な家庭ではなかったので、我慢したこともたくさんあったんです。でも、この苦しい時期を乗り越えれば自分の新たなステージに必ず行けると信じて頑張ってきたので、プレーや活動を通じてそういうメッセージを伝えられたらと思います」


チャリティを通じて得られるもの

 畠山は、「もともと僕はチャリティーにそこまで興味があるほうじゃなかったんですよ」と正直に語り始めた。

「でも、昨年このイベントに参加したのをきっかけにちょっと興味が湧いてきて、もう引退したので大きな金額を寄付するようなことはできないけど、何かできることがあればという思いは生まれましたね。そんなわけで今年も参加させてもらいました」

 現役時代は球団で行うチャリティー活動にも参加してきたが、特に東日本大震災の際、岩手県花巻市出身の畠山は身近な存在の人たちの多くが被災し、球団を通じてはもちろん、個人的にもできる限りの支援をしていた。

「引退したので、もうプレーでファンに勇気を与えることはできません。もちろん、これからコーチとして素晴らしい選手を育てていくことに全力を尽くしますが、こういう(チャリティーの)場でも何か役に立つことができればと思っています」

 もう一人、支援活動を始めた年にキャリアハイの成績を残した選手が吉田正尚だ。

 昨年このイベントへの出演がきっかけでチャリティー活動を始めることになり、29本塁打で290万円を積立。ファンによるホームランの“お祝い寄付”161,100円と合わせて3,061,100円を「国境なき子どもたち」に寄付し、開発途上国の貧困の子どもを支援した。

「支援を始めたからといって自分のプレースタイル自体が変わることはないんですけど、『どんな点差でも自分の1打席を無駄にしない』という意識づけには確実につながっていたと思います。モチベーションの一つになりました。僕の場合はオンラインの寄付ページも使ったんですけど、ファンの方たちと一緒にできたのはよかったかなと」

 選手たちが思う、チャリティーと自分。

 あるときは励ましを得られる機会となり、プロ意識を自覚する場にもなる。「啓発」への使命感を覚えることもあるし、お互いを刺激し合うきっかけにもなる。

 そして、ここぞという時のモチベーションにもなる。支援活動を通じて社会性と人間力を身につけた選手たちは、競技の“その先にあるもの”を常に見つめ、プロとして、人として成長していく。

 私たちはそういう選手たちの“背中を押す存在で“も”ありたいと願っている。

筆者:岡田 真理

JBpress

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