計画から67年後の1989年、鷹ノ巣~角館間が全通した秋田内陸線「走る美術館」の車窓から絶景を楽しむ
2025年1月16日(木)6時0分 JBpress
(山﨑友也:鉄道写真家)
移動手段であることはもちろん、最近では旅行の目的にもなっている「鉄道」。観光列車や車窓の絶景、駅舎、駅弁など幅広く楽しめる鉄道旅の魅力を、 鉄道写真家の山﨑友也さんに教えてもらう連載です。貴重な車両情報も満載、ぜひ旅のリストに加えてみてはいかがでしょうか?(JBpress)
廃線の危機を乗り越えて全通
大太鼓で有名な鷹ノ巣(たかのす)と、築200年以上の武家屋敷が立ち並ぶ角館(かくのだて)を結んでいるのが秋田内陸縦貫鉄道。文字通り秋田県の内陸部を縫うように貫いている、全長94.2kmの第3セクターだ。路線のルーツは1934年に鷹ノ巣(当時)から米内沢まで開業した国鉄阿仁合線にさかのぼる。阿仁合線はその後も南進を続け、1935年に阿仁前田まで、そして1963年には比立内にまで達した。
もともとは日本三大鉱山だった阿仁鉱山からの鉱石を輸送するため、1922年に角館までつなぐ鷹角線として計画されたものだったのだが、角館から松葉までの国鉄角館線が開業したのは1970年と、ずいぶん時間が経ってしまっていた。その後、両線が結ばれるかと沿線住民は期待していたのだが、国鉄の財政難等による国鉄再建法で工事は凍結。そして角館線は第1次特定地方交通線、阿仁合線は第2次特定地方交通線に指定され、両線は廃止の承認を受けてしまうことになってしまった。
しかし地元はなんとしても廃線を阻止すべく、第3セクターの会社である秋田内陸縦貫鉄道を立ち上げて阿仁合線と角館線を引き継ぎ、1986年にそれぞれ秋田内陸北線、秋田内陸南線としてスタートすることになったのである。それから3年後の1989年4月、分断されていた比立内〜松葉間が完成し、晴れて秋田内陸線として鷹ノ巣〜角館間が全通した。実に計画から67年後、沿線住民の悲願がようやく達成されたのだ。
路線の愛称はスマイルレール。訪問客と地元の人々との出会いに多くの笑顔があるようになどの理由からつけられた。魅力はなんといっても沿線に広がる絶景である。四季折々の美しい風景に加え、ところどころで日本の里山の原風景とも思える景色のなかを走っており、カメラでどこを切り取っても絵になるほど。もちろんボクも大好きな路線のひとつである。
山が一段と深まり渓谷が連続しはじめる荒瀬川橋梁や、まるで空中遊泳をしているような大又川橋梁など、路線の魅力を8つに凝縮した「秋田内陸線八景」を選定して会社としてもPRにつとめ、それらを含め車内から眺める美しい車窓は「走る美術館」とも称されている。
大好評の企画列車から冬景色を
また各駅停車の列車を使用し、駅に停車するたびに地元農家のお母さんの手作り料理が車内に持ち込まれる「ごっつお玉手箱列車」や、6〜7種類の地酒と地元老舗料理店のお弁当が楽しめる「地酒と地場産食材のマリアージュ列車」などの企画列車も大好評だ。
さらには沿線自治体や高校生などと協力し4つの場所にて田んぼアートを作成したり、全面畳敷きだったりミニステージを備えた貸切やイベント用の車両も充実させるなど、さまざまな取り組みや試みをおこなっている。しかしながら2024年度は2億円近い赤字で、今後の沿線自治体の支援も減額していく方向が決定しており、経営が厳しいことに変わりはない。
とはいうもののこれからの時期、秋田内陸縦貫鉄道には魅力がいっぱいだ。まずは水墨画のような冬景色。雪によって白と黒とで表現された墨絵のような眺めには、しばし絶句。さらに沿線のお母さんたちが手づくりしたつるし雛と、園児たちによるひな飾り作品をデコレーションした「おひな様列車」も企画列車として運転される。
そして最大のイベントといえば、上桧木内駅近くでおこなわれる紙風船上げだ。地域に100年以上前から続く小正月行事で、無病息災や五穀豊穣、家内安全などの願いを込め、灯火をつけた巨大な紙風船約60個が真冬の夜空に舞い上がる。それは冬蛍とも呼ばれ、この上なく幻想的なシーンである。毎年2月10日におこなわれるので、是非この機会に秋田内陸線に乗ってご覧あれ。
(編集協力:春燈社 小西眞由美)
筆者:山﨑 友也