その場がパッと華やかに! 究極の和菓子をご紹介。日本の伝統美に息をのむ
2025年1月17日(金)12時25分 All About
2024年、私事都合で仕事を休みに休んだ筆者。しこたま休んだことを一瞬で吹き飛ばすほどの土産を手に、編集部メンバーのご機嫌うかがいに行ってきました。
「ごめんなさい」と「ありがとう」の感謝を込めて
年末の猫の手も借りたい忙しさの中、編集部へ到着した筆者。編集部一同が鬼の形相でパソコンに向かう中、「見て〜! お土産、これ見て〜!」と、一切の空気感を無視して、“とある物”をかばんから出しました。

ケースを外すと、妖艶な美しさを放つ


「これ、どうやって作っているんだろう?」

この大きな和菓子の正体は?

山崎氏(以下、山崎):これは、「大業物(おおわざもの)と言います。いくつかデザインはありますが、その中でこのデザインは「はさみ菊」と言って、今回のように下から上へ切るものと、上から下に切るものなど、複数のデザインがあります。もともと、「はさみ菊」は冠婚葬祭に用いられる引菓子でした。今ではほとんど見なくなりましたが、当時は「三つ盛り」と呼ばれる上生菓子の1つに入ることが多かったお菓子です。この「三つ盛り」は200〜250gと重さが決まっているため、当店ではこのサイズでのご提供となっています。

山崎:はい。慣れはありますが、集中力を要する繊細な作業なので、都度、初心に戻るがごとく、気を引き締めてお作りさせていただいています(笑)
石井:確か、この「大業物」は、2020年に放送された夏ドラマ『私たちはどうかしている』(日本テレビ系)のメインビジュアルでも使用されていましたよね?
山崎:そうです。菓道家で店主の三堀純一が手掛けました。この「大業物」は見た目の美しさが魅力的ということもあり、お声が掛かったようで。当店では、現代の人たちに職人の技術を駆使した「大業物」を知ってもらいたく、受注販売にてたまわっております。お時間をいただく作品のため、タイミングによってはお受けできないこともあるのですが、本店には私が作った「大業物」を複数展示していますので、ぜひ多くの人に見てほしいです。
キャラクター和菓子の販売、斬新な試みも
石井:2024年には『にこにこ、ぷん』(NHK)のキャラクター「じゃじゃまる」「ぴっころ」「ぽろり」をモチーフにした大業物や煉切なども販売されましたよね! あれはめちゃくちゃかわいかった……。山崎:ありがとうございます。ちょっと照れちゃいますね。実は、私自身が『にこにこ、ぷん』の大ファンで。同番組の制作会社「スタジオじゃぴぽ」とコラボしました。
若い世代にもっと和菓子の魅力を伝えたい
石井:販売当日、私もお邪魔しましたが、本店前はもう長蛇の列で大盛況でしたね。伝統的な和菓子のデザインは奥ゆかしい美しさがある一方、キャラクターが和菓子になっちゃった! っていうのは、とても斬新でした。山崎:普段は工場に引っ込んでいる私ですが、たまに売り場へ立つこともあります。お客さまとの会話を通じて、若い方でも“あんこ”が好きという人が結構いらっしゃる印象を受けるんですね。これからの日本を担う若い人たちに和菓子をもっと身近に感じてもらい、日本の文化として誇りを持っていただけるようなアプローチを、こちら側がしていかなくてはと思います。『にこにこ、ぷん』とのコラボ販売も、その1つの手法だったんです。
石井:和菓子をこよなく愛する山崎さんですが、もともと和菓子職人の道に進もうと思っていたんですか?
山崎:当初は、パティシエになりたかったんです。約1年にわたり洋菓子店で働いたんですが、製菓学校で学んだ和菓子作りの楽しさが忘れられず、洋菓子から和菓子の道へ転向しました。キャラクターも大好きなので、そうしたかわいらしい人目を引く作品作りも頑張りたいのですが、やはり原点回帰と言いますか。「わびさび」のように質素ながらも美しい、日本古来からある“美”を和菓子で表現することを道しるべに、日々精進しています。
普段は穏やかな山崎さん。しかし、和菓子の話になると目の奥がキラリと光ります。取材後の雑談中、「大業物」を見た編集者たちの感想を伝えると、「うれしい。なんか、安心しました。和菓子の未来が見えた気がします」と笑いながら話しました。「先が見えない」「未来に希望が持てない」という声が方々から聞こえる昨今の日本で、山崎氏は間違いなくこれからの菓道界に伝統と革新をもたらす職人の1人となることでしょう。今後の活躍に、注視したいです。
山崎加奈氏プロフィール

(文:石井 有紀)