火山爆発で蘇るトラウマ「ブレンド米」を生み出した平成のコメ騒動とは何だったのか?

2022年1月17日(月)19時23分 キャリコネニュース

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トンガで発生した大規模噴火を受け、1993年?94年の「平成の米騒動」を思い出す人が相次いでいる。中でも、この時期を知る人たちのトラウマになっているのが、タイ米と日本米とが混ざっている「ブレンド米」の存在である。この暴挙は、いったいどうやって生まれたのだったか。振り返ってみた。(文:昼間たかし)


コメが記録的な不作に


そもそものきっかけは1991年のフィリピン・ピナトゥボ火山・大噴火だった。1993年の日本が異常な冷夏となったのは、その影響と言われている。この年はいつまでたっても梅雨が明けず、真夏になっても気温は低いまま。日本列島各地で気温が例年に比べて2度?3度も下がり、稲の成長に深刻な悪影響をもたらした。


本来、稲穂が黄金色に輝く収穫時期にも、まだ田んぼは青々としたまま。平年を100とする作況指数は、全国平均で74。とりわけ東北地方では青森県28、岩手県30、宮城県37という大凶作になった。青森県内には米が一粒も収穫できない地域まであった。


凶作は国民の食卓を直撃した。まず東北の都市部でスーパー店頭から米が消えていった。農村部では米泥棒が頻発した。「日本人ならコメを食わねば」という意識が強かったこともあり、コメは今でいう転売ヤーの格好の標的になった。このころのコメ流通は政府がいったん買い上げ、卸すという仕組みで、政府買い入れ価格が1俵(60キロ)約1万6400円だったところ、「ヤミ米業者」は1俵1万8000円以上を出してコメを買い占めていった。


当然ながら、小売価格も高騰。値上がりを見越して、売り惜しみする米屋も後を絶たず、「近所の米屋に、法外な値段を要求された」といった話もザラにあった。


コメ不足の余波は、飲食店にも波及した。『週刊朝日』1993年12月31日号によると、「カレーハウス CoCo壱番屋」が食べ切れたら無料の目玉メニューを取りやめ、専修大学がゴハン大盛りを廃止し「パン、麺類を食べましょう」と掲示したという。


政府方針の大転換


対抗策として政府が打ち出したのは、外国米の輸入だった。この年まで日本は米の国内自給率だけは常に100%。多くの農産物を輸入に頼る中で「コメは一粒たりとも入れない」という方針を貫いてきた。


だが、国産米の不作という事実を突きつけられ、政府は方針を大転換。タイや米国、中国、オーストラリア、台湾、ベトナム、ミャンマーなどからも、コメを緊急輸入することにしたのだ。


ただ、当時は戦後の食糧難のときに輸入された「外米」の悪印象が残っていたうえ、「食の安全意識」が高まっていた時期で、輸入米のイメージは悪かった。


そこで国が打ち出した「常識に囚われない、トンデモアイデア」が、悪名高い「ブレンド米」の推奨である。ようは、悪評判の輸入米と国産米を混ぜて売ってしまえという話だ。


国が、輸入米と国産米とを「混ぜて売る方針」を初めて公式に示したのは、1993年11月9日のことだった。


翌日付『朝日新聞』によると、食糧庁の鶴岡俊彦長官は「国産の短粒種に長いコメ(タイ産などのインディカ米)を10%ほど混ぜて試したが、味はもちろん、見た目にも、よくわからない。混米そのものに抵抗感はない」と話したという。


えー。マジかよと言いたくなるが、当初から「ブレンド米」は批判されていたようだ。この朝日の記事でも、赤堀千恵美・赤堀料理学園校長のコメントとして



「昔の外米はまずかったが、いまは違う。各国のコメの香り、形、味を楽しみながら、ピラフやパエリヤには粘りのない長粒種、カリフォルニア米なら焼きおにぎりやおすしという具合に、料理を楽しめる。産地はむろん、値段もまちまちにしてほしい」



という意見が、さっそく紹介されていた。


そうした批判を無視しても、国が「ブレンド米」を実行してしまった理由は、何だったのだろうか? 前述の朝日記事が紹介していたのが、流通関係者のこんな見方だ。



輸入米のブレンド販売は、政府が輸入米の味を国民に知られるのを恐れているため、との見方が流通関係者の間にはある。これを機に市場開放要求が強まりかねないからだ。



つまり、「輸入米が意外と美味しいことに国民が気づくと困る政府が、わざとブレンドした」という見方を、流通関係者がしていたのだろう。


その説の当否は知らないが、東南アジア料理が一般化した今となっては、なんともアホくさく聞こえる話だ。タイ米などの長粒種は、国産米の短粒種とは全く別物だと、多くの国民が知っている。


輸入米がやってきた時期には、こんな「消費者からの厳しい評価」が報じられている。


『朝日新聞』(1994年1月14日付朝刊)は、愛知食糧事務所が開いた試食会の様子を次のように報じている。



国産米には「おいしい」「いつものご飯」との評価だったが、カリフォルニア米、中国米は評価が分かれ、タイ米は「ぱさぱさ」「硬い」「味がよくない」。ブレンド米はタイ米をまぜたものに厳しい評価が出た。



このとき輸入されたコメは、新米だけでなく前年度から貯蔵されていた「古米」も含まれていたというから、味が落ちても当然だ。さらに言うと、タイ米を日本米と同じように試食させたら、違和感を抱く人が続出しても無理はない。そして、ブレンド米の評価はやはり「厳しい」ものだった。


このころになると、輸入米の評判は地に落ちていて、ニュースでも「カリフォルニア米からカビが発見された」「タイ米からネズミの死骸が」「発がん性のある薬品が検出された」などなど散々だった。実際、急に無茶を言って世界中から集めてきたのだから、保存環境が悪いコメも混じっていたのだろう。


こうした中で「国産米」の需要は急増。政府がいう「正規価格」を大幅に言わ回る「ヤミ米」が横行したり、コメを通常価格で売る業者に大行列ができたりと、狂乱が起きていたのである。


さて、この頃のコメの国内需要は年間1000万トンとされていたが、コメの需要はどんどん落ち込んでいる。農水省によると令和元年産米の需要は713万トンだったそうだ。


コメをめぐる意識は激変した。博報堂生活総研の意識調査によると、「お米を1日に1度は食べないと気が済まない」と答える人は1992年には71.4%いた。しかし2020年ではわずか42.8%。この間28.6ポイントもダウンしているのである。


これを踏まえれば、今回の噴火による影響はまだ未知数だが、仮にコメが少々凶作になったぐらいでは、以前のようなパニックにはならなさそうだ。何にしても「ブレンド米」のような、わざわざまずい食材を作り出すような間抜けな政策だけは、避けてもらいたいものである。


 

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