とどまることを知らない再開発での「タワマン」建設。<過剰に住戸を供給し続けてしまう>その構造的な副作用について川崎市を例に見てみると…
2025年1月18日(土)17時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
都市部や郊外で、タワーマンション建設や新規の住宅地開発が積極的に進められている昨今。しかし「不動産価格の高騰で、住宅の入手困難化が深刻」と指摘するのは、都市政策や住宅政策を専門とする、明治大学政治経済学部・野澤千絵教授です。そこで今回は、野澤教授の著書『2030—2040年 日本の土地と住宅』から一部引用、再編集してお届けします。
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再開発でタワーマンションばかり建つ理由
近年の市街地再開発事業は、タワーマンションをつくることだけが主眼のようなケースが増えています。
その背景には、コロナ禍以降、特にオフィス需要が低下しており、オフィスの床をつくっても借り手を見つけるのが困難になっていることがあります。また、商業もアマゾンをはじめとするインターネットショッピングが普及する中、店舗で床を埋めるのが難しくなっていることも影響しています。
特に近年、工事費や設備費の上昇が著しい状況の中で事業性を確保するため、より高額に売れる・貸せる床を多く確保する必要が生じています。その結果、大量の保留床が生み出せて、そのほとんどが売れると見込めるタワーマンションにするという選択がなされるケースが急増しています。
デベロッパー等の立場で保留床を売却することを考えると、特にタワーマンションなら高く売れる可能性が高く、分譲なら短期で事業費を回収できて「売りっぱなし」で良いため事業リスクも低減できるということで、メリットが大きいのです。
投資層・富裕層・外国人のニーズ
再開発特有の問題に加えて、投資層・富裕層・外国人が「都心のタワーマンションは資産価値の上昇が見込める」「転売すれば更に儲かる可能性がありそう」とみて、不動産投資を活発化させていることも大いに影響しています。
こうしたニーズもあり、近年は、再開発を推進するデベロッパー側も、投資層・富裕層・外国人などからの需要が見込めるような高級路線のタワーマンションの建設に力を入れるようになっています。正直、こうしたトレンドから、ちょっと便乗値上げではと疑問に思うケースもあります。
『2030—2040年 日本の土地と住宅』(著:野澤千絵/中央公論新社)
特に東京都では、都市政策として、オフィスや商業施設だけでなく、「都心居住の推進」ということで住宅供給に対しても容積率等の緩和を行ってきました。
要件を満たせば、東京都とデベロッパー等との協議を通じて、最大で300%(2019年12月末までは500%)もの容積率ボーナスが得られるようになっていることも、タワーマンションの建設を後押ししていると言えます。
また、東京都以外の自治体も、長期的に人口減少が進むことへの危機感が強く、民間資金やノウハウを活用してタワーマンションが建てば人口と税収が増えるため大歓迎と、容積率等の規制緩和に積極的なところが多いのが現状です。
このような理由から、都心や駅前などの市街地再開発事業でタワーマンションばかりつくられています。そしてこの流れが止まらないのです。
やめられない 止まらないタワマン建設
筆者が特に問題視しているのは、個々の市町村ごとの視点で再開発が進められるため、都市圏全体でみた場合、需要を超えて過剰に住戸を供給し続けてしまう現状です。
現行の都市計画には、都市圏全体を見渡したうえで、供給する住戸数のボリュームを調整するという仕組みがありません。このためこうした事態に歯止めをかけることができていないのです。
2000年以降の地方分権化の流れの中で、都市計画に関わるほとんどの権限は市町村が持つようになりました。政令指定都市は都道府県とほぼ同様の権限を持っています。こうした地方分権によって各基礎自治体の創意工夫を生かした街づくりが進められることは地域の実情に応じた都市政策を行っていくうえで非常に重要です。
ただ、各市町村は少しでも自分たちの街に人口や開発を呼び込みたいために、同じようなタワーマンションの建設が続く事態から脱却できないという事態に陥っています。
川崎市周辺の再開発
こうした構造的な副作用は日本全国の市町村に共通する問題ですが、ここでは川崎市を例に考えてみましょう。
川崎市では、これまで武蔵小杉などの川崎市南部の工場跡地等の再開発などでタワーマンションが林立しました。今後はさらに、市北部の麻生区や多摩区でも再開発の計画が浮上しています。こうした再開発の計画を進めていこうという地域は、自治体が策定する「都市再開発の方針」といったマスタープランの中に位置づけられる必要があります。
実際に、川崎市の「川崎都市計画 都市計画区域の整備、開発及び保全の方針の変更等の素案について」(2024年4月)を読み解くと、下図表に示すとおり、今後、新百合ヶ丘駅周辺地区、虹ヶ丘2丁目地区(新駅周辺)、鷺沼4丁目地区、武蔵中原駅前地区、延伸予定の横浜市高速鉄道3号線沿線の市街地、北部市場の市街地、津田山駅周辺などが「1号市街地」・「整備促進地区」・「2号再開発促進区」といった地区に指定されていることがわかります。
これらの地区の中には、すでに再開発によってタワーマンションの開発が予定されているところもあります。
例えば、小田急線の柿生駅南口の「柿生駅前南地区第一種市街地再開発事業」では、低層部に商業施設等を入れた約300戸のタワーマンション(高さ約110m)が2026年の竣工に向けて建設中です。
また、同じ小田急線の登戸駅では、「登戸駅前地区第一種市街地再開発事業」の都市計画決定が2023年11月になされました。低層部に商業施設を入れた約450戸のタワーマンション(高さ約140m)が建てられ、2028年度に竣工予定です。
さらに東急田園都市線では、「鷺沼駅前地区第一種市街地再開発事業」の都市計画決定が2023年9月に行われました。駅前街区では、商業施設と市民館(大ホール)や図書館等とともに、約340戸のタワーマンション(高さ約133m)が2029年に竣工予定となっています。
また、北街区も、区役所と市民館(小ホール)等を入れた約110戸のタワーマンション(高さ約89m)が2032年に竣工予定となっています。
もちろん、再開発自体は駅や駅前の再整備に必要です。しかし、特に川崎市は、市域が南北に細長い形状なので、川崎市が行う再開発は、同じ鉄道沿線にある近隣自治体の開発需要にも大きく影響します。しかし、周辺の自治体と協議・調整をした上で、各自治体が再開発を進めていくといった仕組みが現行の都市計画の中にないのです。
「部分最適」ではなく「全体最適」の視点を
概して市町村は、どうしても自分たちの街を中心とした「部分最適」の視点で都市政策に取り組みます。これは否定されることではなく、各市町村の立場からすれば当然のことです。
しかし、特に郊外や地方都市では、再開発エリアだけが人口増加の一人勝ちを続けてもあまり意味がありません。というのは、実際にタワマンがつくられても、市町村内で人口移動が起きているだけだったり、周辺自治体から流入しているだけだったりと、都市圏全体として見ると人口が増えているわけではないケースが多いからです。
つまり、今後、住宅を取得しようと考える年齢層がますます減少していく中では、限られた住宅需要に対して、都市圏の中でどうバランスをとりながら、それぞれの地域がどう持続可能な状態をキープしていくのかという「全体最適」の視点が非常に重要となるのです。
そのため、少なくとも大量の住宅供給を伴う再開発については、周辺の市町村と、開発内容や供給する住宅戸数のあり方などについて広域的に調整するための、法的な都市計画の枠組みづくりが不可欠です。
※本稿は、『2030—2040年 日本の土地と住宅』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
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