田中角栄を追い詰めた女、オールヌードに…戦後最大の政治汚職と「蜂の一刺し」とは?

2024年1月17日(水)19時0分 tocana


 「蜂の一刺し」は、 自らの命を懸けて相手に致命傷となる一撃を与えることを意味する 用語である。ミツバチが、相手を一度刺したら死んでしまうということから生まれた言葉であ るが、古くから辞書に掲載されていたような言葉ではなく、ある事件がきっかけとなって誕生した言葉である。その事件とは、1976年2月に明るみになった、世界的な大規模汚職事件と言われているロッキード事件のことだ。
 アメリカの航空機製造大手であったロッキード社が、自社の機体を採用させるため世界各地の政治家を相手に賄賂を渡していたというこの事件において、当時の首相である田中角栄が5億円の賄賂を受け取ったということで逮捕・起訴となった。実刑判決を受けた田中は控訴するも、田中が死去したことで棄却されることとなり、その真相の多くはわからずじまいとなった。
 1981年10月28日に行なわれた東京地裁の公判でのこと。検察側の切り札として出廷した榎本三恵子により、田中の秘書であった榎本敏夫が5億円の受領を認めていたという旨の証言が展開された。両者は元夫婦の関係であったが、事件発覚後に離婚していた。決め手に欠けていた裁判が、 彼女の証言によって覆されることとなり、さらに彼女から重大な発言が次々に繰り出されたことによって、 田中側は有罪に追い込まれることとなった。公判後の記者会見で彼女は、「ハチは一度刺したら死ぬという。私もそれだけの覚悟はしていました」と発言、これが「蜂の一刺し」という言葉の由来となった。この証言は各紙一面トップを飾り、女性側からは「従来の女性観を変えた」といった称賛が寄せられる一方で、男性側からは「女性は怖い」といった困惑の意見が多数寄せられたという。「蜂の一刺し」はその年を代表する流行語ともなった。
 余談となるが、相手に致命的な一撃を与える蜂というのはミツバチのみであり、一度刺しただけで致命傷を負わせるというのは、メスの針にある「逆棘」(かえり)と呼ばれる部分に由来する。相手に針を刺すとこの逆棘が引っ掛かる構造になっているのだが、このためミツバチ自身も針を抜くことができなってしまい、無理に針を抜こうとすると腹部がちぎれてミツバチも絶命してしま うのだ。自らの命を懸けてというのは、このことに起因している。
 記者会見において自身も失うものは大きいと語った彼女であるが、その後はオールヌードを披露、人気テレビ番組『オレたちひょうきん族』に出演、未婚のまま男児を出産するなど次々に話題となり、「蜂の一脱ぎ」「死ぬどころか世間に一刺し」とまで呼ばれる存在となった。2003年ごろから姿を見せなくなったという彼女であるが、その後2021年11月、彼女の一人息子で東京都北区区議であった榎本一が覚醒剤取締法違 反により逮捕された際に再び彼女の名が話題にあがることとなった 。
 公判における証言については称賛の声があがる一方で、夫婦喧嘩を法廷に持ち出したといった意見もある。証言以後、振り回されるような形でメディア露出を続けていた彼女であるが、「蜂の一刺し」を通して受けたその代償は、じわじわと痛み付けられるようなある意味で呪いのようなものであ ったのかもしれない。


【参考記事・文献】
榎本三恵子はロッキード事件でなぜ証言した!経歴や今現在
田中角栄を追い込んだ榎本三恵子は下着訪問販売員として優秀
蜂の一刺しの意味や由来はどうなっている?


【文 ナオキ・コムロ】

tocana

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