胸部レントゲン検査 肺がんの見落としが発生する理由

1月21日(火)7時0分 NEWSポストセブン

せっかく撮影したのに、なぜ見落とされてしまうのか

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 日本人の死因1位であるがん。健康寿命に関わる重大疾患だけに、健康診断ではがんに関わる項目が多い。


 だが「異常なし」と診断されても過信は禁物だ。実際に日本人男性の部位別がん死亡数第1位の肺がんにおいて、「胸部X線検査(レントゲン)」で異常が見つからなかったのに、その後、がんで患者が死亡した事例がある。


 2018年1月、東京・杉並区にあるクリニックが、区から受託した区民健康診断の肺がん検診として、40代女性の胸部X線検査を行なった。検査画像には腫瘤の影が写っていたが、担当医師2人は「異常なし」と診断した。


 しかし受診から約3か月後、女性は呼吸困難や手足のしびれを訴えて、同年6月に死亡した。


 問題が明るみに出るとクリニックは、2014〜2017年の肺がん検診で「異常なし」と診断された約9400人分の検査画像を再検証した。その結果、70代の男性2人が肺がんと診断されそのうちのひとりが、杉並区在住のAさんだ。


 Aさんは2017年8月にクリニックで胸部X線検査を受けた際、画像診断で「異常なし」と診断されていたが、女性の死をきっかけに1年後に受けた再検査では「ステージIIIの肺がん」を言い渡された。


 ショックを受けたAさんはクリニックを運営する社会医療法人と杉並区に損害賠償を求める訴訟を起こした(2019年8月に区が謝罪するなどして和解)。Aさんの代理人を務めた梶浦明裕弁護士が指摘する。


「2017年の検診画像には明らかに異常を疑うべき影が写っていました。仮に最初の検査で肺がんが見つかっていれば、AさんはステージI程度ではなかったかと考えられます」


 Aさんは現在、別の病院に通い抗がん剤治療を続けている。


「当時Aさんは『かかりつけ医としてクリニックを信頼していたのに』と、非常に落胆していた。治療のためアルバイトもやめざるをえない状況で、経済的にも苦しんでいた」(梶浦氏)


 この杉並区のケースをきっかけに胸部X線検査の見落としが注目を集めたが、「これは医師のレベルが低かった、という問題ではありません」と指摘するのはNPO法人医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師だ。


「もともと胸部エックス線は結核を調べるために健康診断に導入された検査でした。しかし、副次的に“肺がんも見つけられる”ことや、機材が安価で導入しやすいこともあり、健康診断の項目に採用された経緯がある。


 初期の肺がんは1〜2センチ程度ですが、X線写真は解像度が低く、その大きさのがんを見つけにくい。しかも心臓や肋骨と重なった部分のがんや、血管や横隔膜の影などに隠れたがんは見つけられない可能性が高いのです」


 日本医療機能評価機構の報告では、胸部X線検査における肺がんの偽陰性率(実際は陽性なのに「陰性」の検査結果が出た割合)は、最大で50%だったとのデータがある。制度上の問題点もある。医療事故に詳しい石黒麻里子弁護士が指摘する。


「本来、X線画像を診断するのは放射線専門医が望ましい。しかし法的には医師免許を持つ者なら誰でも診断できるので、医療機関によっては研修医のアルバイトがX線画像を任されることが多いのが現実です。専門的な知識や経験の乏しい医師が診断することで、がんを見落とすケースが少なくない」


 肺がんを調べるうえでレントゲンしか選択肢がないならある程度のリスクは許容せざるを得ないだろうが、そうではない。


「より高精度で発見できる検査が採用されていないことが問題です。


 小さかったり、ほかの臓器に隠れてしまっていたりするなどの理由でX線検査では見つけられないがんでも、『低線量CT』なら見つけることができます。自己負担で1万〜2万円程度で受けることができます」(上医師)


※週刊ポスト2020年1月31日号

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