樋口恵子×鈴木秀子 <親子の力関係>が逆転しがちな人生100年時代。樋口「周囲では家族が優しく親切な人ほどボケが進行している傾向も…」

2025年1月22日(水)6時30分 婦人公論.jp


(写真提供:Photo AC)

内閣府が公表する「令和6年版 高齢社会白書」によると、令和19年には国民の3人に1人が65歳以上になると見込まれているそうです。超高齢化社会の中、92歳の評論家・樋口恵子さんは「ある時期から嫌な気分を引きずって生きるなんて、なんともったいないことだろうと考えるようになりました」と語っています。そこで今回は、92歳の聖心会シスター・鈴木秀子さんとの共著『なにがあっても、まぁいいか』より、毎日を機嫌よく生きるヒントの一部を、お二人の対談形式でお送りします。

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老いても子には従いたくない


樋口 何しろ私は娘に頼みごとをするのが嫌なのです。頼めば一応はやってくれるのですけれど、それだけでは済まなくて「もっとしっかりしろ」だの「こうしたほうがいい」だの、いろいろと言ってきますので。

「老いては子に従え」という諺がありますけれど、私は老いても子には従いたくないといった心持ちでして。シスターはどうお考えになりますか?

鈴木 私には子供がおりませんから、喧嘩をしながらでも支えてくださる娘さんがいらっしゃるなんて、羨ましいくらい。

でも子供とはいっても立派な大人。親が80代、90代になれば子供だって60代、70代になるわけですから、親との力関係は逆転して当たり前ですよね。いつまでも親任せでは困るということを考えれば、頼りがいのある子供でよかったのではないですか?

樋口 私達の世代は、子供が親に意見したりするなどというのは言語道断だっただけに、自分が子供に意見されたりすると何だか情けなくなってしまうのです。

でも昔の人が特別に偉かったというのでも、教育がきちんとなされていたというのでもないという気がいたします。昔は人生50年といわれていました。つまり親子の力関係が逆転する前に親が死んでいたということなのかもしれません。

鈴木 親子の力関係が逆転し、長期化するというのも人生100年時代ならではということですね。

シスターの口喧嘩


樋口 子供に偉そうなことを言われて自尊心が傷ついたというご同輩もおられることでしょう。我が家の場合、娘の言っていることは間違ってはいないと思うし、私のためを思って言ってくれているのもわかるのです。でも言い方が気に入らない。

鈴木 わかるような気がいたします。内容以前に、言葉にカチンとくるということはありますよね。言葉はキャッチボールですから、激しい球が飛んで来たら激しい球を投げ返す。これが口喧嘩の正体でしょうから。

樋口 シスターでもカチンとくることがあるのですか?

鈴木 もちろんです。人間ですから。

樋口 シスター同士で口喧嘩をするということなども?

鈴木 そんなに派手な喧嘩はしませんが、実はあるのですよ。「報告した」「聞いてません」というような行き違いからお互いに不機嫌になったりするといったことが。

「夫婦喧嘩は犬も食わない」ならぬ……


樋口 そんな時、シスターはどうなさるのですか?

鈴木 投げた言葉に準じた言葉が返ってくるとわかっていますので、年の功で、できる限り気持ちを静め、柔らかな言葉を返すよう心がけています。大抵、それで治まります。

樋口 私と娘のバトルは激しいですよ。互いに言いたい放題で。もう娘とは暮らせないと幾度思ったことか。ところが不思議なもので、大喧嘩をしても5分後には一緒にお菓子なんか食べながら過ごしているのです。あれはどういうことなのか。

鈴木 「夫婦喧嘩は犬も食わない」ならぬ「母娘喧嘩は犬も食わない」といったところでしょう。本気で喧嘩できる人がいるというのは素晴らしいではありませんか。時には大声を張り上げて喧嘩をするということがストレス解消になることもありますから。そもそも親子関係は千差万別で、これが正しいありようだなんてものはないと思います。

樋口 家族が仲良くなくても、「まぁいいか」と流せば楽になりますね。近頃では私も娘とのバトルは「まぁいいか」と受け止めて、深刻に捉えることはなくなりました。無視し合うよりマシかなと。

家族が優しくて親切だという人ほど……


鈴木 程度問題にもよりますけれど、喧嘩はコミュニケーションの一環だといえるのではないでしょうか。

樋口 親子喧嘩をしているうちが花かもしれません。口喧嘩とはいえ喧嘩は体力勝負ですからねぇ。それに「こう来たか」「ならばこう言い返してやろう」と脳が一気に活性化するのも感じます(笑)。

鈴木 刺激的なのですね。そういう娘さんがおそばにいてくれて、ありがたいですね。

樋口 日本は世界一の長寿国だとはいえ寝たきり大国なのです。寝たきりにならないようにするためにはどうすればいいのか? という問題に対して娘は優秀かもしれません。周囲を見渡してみますとね、家族が優しくて親切だという人ほどボケが進行している傾向にあるんですよ。

お嫁さんが親切だと「お母さん、もう台所には立たなくていいですよ」と言ってくれるじゃありませんか。子供が優しければ、スマホやパソコンの使い方がわからないという場合でも、嫌な顔一つせず操作してくれるじゃありませんか。だから本当に何もする必要がなくなって、だんだんボーっとしてくるのです。

※本稿は、『なにがあっても、まぁいいか』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。

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