誰よりもディープに! 大河ドラマ『おんな城主 直虎』の舞台をめぐる
2017年1月17日(火)11時0分 マイナビニュース
1月8日からスタートしたNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』。しかし、「直虎って誰? 」という声もよく聞かれる。確かに直虎は、大河ドラマ史上でも屈指のマイナー人物である。だが、知らない人物だからドラマがおもしろくないかというとそんなことはなく、むしろ直虎は、歴史の予備知識がなくても楽しめるつくりになっている。
覚えておくことは、「戦国時代が舞台である」ということと、「直虎(幼名をおとわ、出家名を次郎法師)という女性が井伊家滅亡の危機を救った」ということだけ。あとは、5話目から登場する柴崎コウさんを中心としたホームドラマとして楽しむことができるだろう。
さて、その直虎が活躍した場所が、浜名湖の北側に位置する静岡・井伊谷だ。現在ものどかな農村である井伊谷は、大河ドラマの舞台ということで、早くも観光客でにぎわっている。そこで今回、メディアや観光ガイドで取り上げられる機会が少ない、ディープな直虎関連史跡を案内しよう。
○史跡の数々から直虎の暮らしぶりを想像する
井伊谷散策は、「共保公出生の井戸」からスタートしたい。ドラマの第1話でも触れられていたが、井伊家のルーツとされる井伊共保は井戸の中から生まれたとも、井戸の脇に捨てられていたとも言われる。田園の真ん中に白壁の塀と門がぽつんとたたずむ、とてものどかで不思議な史跡だ。
この共保公出生の井戸のすぐそばに、井伊家の菩提寺である「龍潭寺」が建つ。直虎巡りのメッカと呼べる場所であり、多くの観光客が押し寄せているが、ほとんどの人が見逃しているのが「松岳院跡地」である。松岳院とは財前直見さんが演じる直虎の母のことで、夫である井伊直盛の死後、彼女はここに住居を定めて住んだという。現在はただ碑が立つのみだが、松岳院が余生を静かに暮らした姿を想像したい。
龍潭寺の北側には、「井伊谷城」がそびえる(と書いたが、天守などは建っていない)。まさに直虎が、"女城主"として君臨した城だ。10分ほどのハイキングを要するが、山頂からは井伊谷を一望することができる。井伊家城主が常にこの不便な山頂で生活したのかというとそんなことはなく、普段は山麓の館に居住した。現在は跡形もなく、引佐町第四区公民館の前に説明看板が立つのみである。
井伊谷城の山麓には、井伊家の氏神を祭る「渭尹神社」もある。ここで必ず訪れていただきたいのが「天白磐座遺跡」。いくつもの巨石が立ち並ぶこの地は、古代人が神さまに祈る祭壇場だったとされ、今も厳かな空気が漂っている。1話目のオープニングシーンで、おとわらが鬼ごっこをするロケ地として使用されていた。
1話目でおとわの許嫁とされた亀之丞(井伊直親)。成人した井伊直親を演じるのが三浦春馬さんで、ドラマ前半の準主役となる。数奇な人生を送る直親の墓も井伊谷に残るのだが、この場所が大変分かりにくい。里を流れる都田川の北側の土手沿いに残るのだが、携帯電話などのマップでは検索に引っかからず、土手から一段下がる場所にあるため見逃しがちだ。近くに駐車場もないため、のんびりと土手を歩きながら探してみるのもいいだろう。
○三浦春馬演じる直親を追いかけて渋川の地へ
ドラマで井伊家や井伊直親に興味を持った人は、さらにディープなスポットをめぐってみよう。井伊谷から車で約30分程度、山々に囲まれた自然豊かな渋川の地にも、井伊家ゆかりの史跡が残る。観光ガイドなどではあまり紹介されることがない、隠れ家的な里だ。
直虎の許嫁である直親は一時、今川家に命を狙われ信濃(長野県)に逃れたのだが、井伊谷に帰還する際に立ち寄ったのが「直笛山宝蔵寺」。ドラマ内の直親はことあるごとに笛を吹いているが、直親はこの宝蔵寺に逗留した時に「青葉の笛」を寄進したとされ、「直笛山」という山号も「直親の笛」が由来だという。
渋川にある「東光院」も、逃避行した直親が身を寄せたという古刹だ。今川家の刺客に追われた直親は、信濃に落ちのびる前にこの寺にかくまわれていたとも伝わる。寺の墓地には、直親の小さな墓碑がひっそりとたたずむ。
ドラマでは前田吟さんが円熟味のある演技で扮する、直虎の曾祖父・井伊直平。彼の墓は、渋川から南へ下った川名の地に残る。この直平の墓が、今回紹介するスポットの中でも最も難しい。ガイドやパンフレットで墓の存在は紹介されていても、アクセスの詳細がほとんど書かれていないからだ。カーナビや地図アプリでもおそらくヒットしないだろう。筆者が調べた限りでは、ブログ「シルバー気のまま人生」さんの掲載ページ(「井伊直平の墓、山中の謎」)がもっとも親切だった。
墓は民家の畑の一角にある。詳しいアクセスが載せられない理由はここにもあるのだろう。伝承によると、直平は今川家に通じていた家臣に毒を盛られて暗殺され、別の従者が追っ手を逃れてこの辺鄙な地まで直平の遺骸を運び、人知れず埋葬したとされる。井伊家の苦難の歴史を象徴するかのようなエピソードと言えるだろう。私有地のため大声などあげることなく、節度あるお参りをしたい。
(文・写真/かみゆ歴史編集部 滝沢弘康)
○筆者プロフィール : かみゆ歴史編集部
「歴史はエンタテインメント! 」をモットーに、ポップな媒体から専門書までの編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。ジャンルは日本史を中心に、世界史、美術史・アート、宗教・神話、観光ガイドなど幅広く手がける。最近の編集制作物に『鳥瞰イラストでよみがえる歴史の舞台』(学研プラス)、『開運・日本の神社と御朱印』(英和出版社)、『日本の山城100名城』『「山城歩き」徹底ガイド』(ともに洋泉社)、『必ず一度は訪れたい! 日本の世界遺産ガイド』(彩図社)など。代表の滝沢は、歴史や城関係の講演や講座、メディア出演も行う
「かみゆ」
覚えておくことは、「戦国時代が舞台である」ということと、「直虎(幼名をおとわ、出家名を次郎法師)という女性が井伊家滅亡の危機を救った」ということだけ。あとは、5話目から登場する柴崎コウさんを中心としたホームドラマとして楽しむことができるだろう。
さて、その直虎が活躍した場所が、浜名湖の北側に位置する静岡・井伊谷だ。現在ものどかな農村である井伊谷は、大河ドラマの舞台ということで、早くも観光客でにぎわっている。そこで今回、メディアや観光ガイドで取り上げられる機会が少ない、ディープな直虎関連史跡を案内しよう。
○史跡の数々から直虎の暮らしぶりを想像する
井伊谷散策は、「共保公出生の井戸」からスタートしたい。ドラマの第1話でも触れられていたが、井伊家のルーツとされる井伊共保は井戸の中から生まれたとも、井戸の脇に捨てられていたとも言われる。田園の真ん中に白壁の塀と門がぽつんとたたずむ、とてものどかで不思議な史跡だ。
この共保公出生の井戸のすぐそばに、井伊家の菩提寺である「龍潭寺」が建つ。直虎巡りのメッカと呼べる場所であり、多くの観光客が押し寄せているが、ほとんどの人が見逃しているのが「松岳院跡地」である。松岳院とは財前直見さんが演じる直虎の母のことで、夫である井伊直盛の死後、彼女はここに住居を定めて住んだという。現在はただ碑が立つのみだが、松岳院が余生を静かに暮らした姿を想像したい。
龍潭寺の北側には、「井伊谷城」がそびえる(と書いたが、天守などは建っていない)。まさに直虎が、"女城主"として君臨した城だ。10分ほどのハイキングを要するが、山頂からは井伊谷を一望することができる。井伊家城主が常にこの不便な山頂で生活したのかというとそんなことはなく、普段は山麓の館に居住した。現在は跡形もなく、引佐町第四区公民館の前に説明看板が立つのみである。
井伊谷城の山麓には、井伊家の氏神を祭る「渭尹神社」もある。ここで必ず訪れていただきたいのが「天白磐座遺跡」。いくつもの巨石が立ち並ぶこの地は、古代人が神さまに祈る祭壇場だったとされ、今も厳かな空気が漂っている。1話目のオープニングシーンで、おとわらが鬼ごっこをするロケ地として使用されていた。
1話目でおとわの許嫁とされた亀之丞(井伊直親)。成人した井伊直親を演じるのが三浦春馬さんで、ドラマ前半の準主役となる。数奇な人生を送る直親の墓も井伊谷に残るのだが、この場所が大変分かりにくい。里を流れる都田川の北側の土手沿いに残るのだが、携帯電話などのマップでは検索に引っかからず、土手から一段下がる場所にあるため見逃しがちだ。近くに駐車場もないため、のんびりと土手を歩きながら探してみるのもいいだろう。
○三浦春馬演じる直親を追いかけて渋川の地へ
ドラマで井伊家や井伊直親に興味を持った人は、さらにディープなスポットをめぐってみよう。井伊谷から車で約30分程度、山々に囲まれた自然豊かな渋川の地にも、井伊家ゆかりの史跡が残る。観光ガイドなどではあまり紹介されることがない、隠れ家的な里だ。
直虎の許嫁である直親は一時、今川家に命を狙われ信濃(長野県)に逃れたのだが、井伊谷に帰還する際に立ち寄ったのが「直笛山宝蔵寺」。ドラマ内の直親はことあるごとに笛を吹いているが、直親はこの宝蔵寺に逗留した時に「青葉の笛」を寄進したとされ、「直笛山」という山号も「直親の笛」が由来だという。
渋川にある「東光院」も、逃避行した直親が身を寄せたという古刹だ。今川家の刺客に追われた直親は、信濃に落ちのびる前にこの寺にかくまわれていたとも伝わる。寺の墓地には、直親の小さな墓碑がひっそりとたたずむ。
ドラマでは前田吟さんが円熟味のある演技で扮する、直虎の曾祖父・井伊直平。彼の墓は、渋川から南へ下った川名の地に残る。この直平の墓が、今回紹介するスポットの中でも最も難しい。ガイドやパンフレットで墓の存在は紹介されていても、アクセスの詳細がほとんど書かれていないからだ。カーナビや地図アプリでもおそらくヒットしないだろう。筆者が調べた限りでは、ブログ「シルバー気のまま人生」さんの掲載ページ(「井伊直平の墓、山中の謎」)がもっとも親切だった。
墓は民家の畑の一角にある。詳しいアクセスが載せられない理由はここにもあるのだろう。伝承によると、直平は今川家に通じていた家臣に毒を盛られて暗殺され、別の従者が追っ手を逃れてこの辺鄙な地まで直平の遺骸を運び、人知れず埋葬したとされる。井伊家の苦難の歴史を象徴するかのようなエピソードと言えるだろう。私有地のため大声などあげることなく、節度あるお参りをしたい。
(文・写真/かみゆ歴史編集部 滝沢弘康)
○筆者プロフィール : かみゆ歴史編集部
「歴史はエンタテインメント! 」をモットーに、ポップな媒体から専門書までの編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。ジャンルは日本史を中心に、世界史、美術史・アート、宗教・神話、観光ガイドなど幅広く手がける。最近の編集制作物に『鳥瞰イラストでよみがえる歴史の舞台』(学研プラス)、『開運・日本の神社と御朱印』(英和出版社)、『日本の山城100名城』『「山城歩き」徹底ガイド』(ともに洋泉社)、『必ず一度は訪れたい! 日本の世界遺産ガイド』(彩図社)など。代表の滝沢は、歴史や城関係の講演や講座、メディア出演も行う
「かみゆ」