ホープフルステークスを制したクロワデュノール、果たして皐月賞は?名馬それぞれのクラシックレースまでの道のり
2025年2月7日(金)6時0分 JBpress
(堀井 六郎:昭和歌謡研究家)
桜花賞・皐月賞の優先出走権がかかるトライアルレース
新しい年が明け、昨年デビューして新馬戦や重賞レースを勝ち上がってきた馬たちがいよいよクラシック戦線に登場。これから新たにデビューする良血馬に対してもアンテナを張っておかなくてはいけません。
競馬の大きな魅力の一つである3歳の牡馬・牝馬によるクラシックレースを楽しむためには「桜花賞(牝馬の1冠目。4月13日)」「皐月賞(牡馬の1冠目。4月20日)」が開催される4月まで、この期間のレースを見ておくことが重要なのは言うまでもありません。
「クラシックへのトライアルレース」と称されたいくつかのレースがあります。
桜花賞をめざす牝馬の場合、桜花賞の1か月前に同じ阪神競馬場で同じ1600メートル芝コースで争われるチューリップ賞(2025年は3月2日)があり、皐月賞をめざす牡馬の場合、皐月賞の1か月前に同じ条件(中山競馬場・芝2000メートル)で争われる弥生(やよい)賞(同3月9日)が開催されます。
どちらもG2レースで、弥生賞は名馬ディープインパクトが初めて重賞勝ちしたレースであることにちなんで「ディープインパクト記念」としても知られています(正式名称は「報知杯弥生賞ディ—プインパクト記念(皐月賞トライアル)」)。
もう一つ3月16日に行われる「スプリングステークス」、こちらも「皐月賞トライアル」と銘打たれていて、これらのレースは3着までに入ればそれぞれ桜花賞・皐月賞の優先出走権が与えられます。
弥生賞に勝利した馬たちには三冠馬となったミスターシービー、シンボリルドルフ、ディープインパクトをはじめ、そのほかフジキセキ、スペシャルウィーク、マカヒキ、タイトルホルダーなど、のちに名馬として名を成した馬たちの名が綺羅星のごとく並んでいます。
私が競馬と親しむようになった1970年代、弥生賞の優勝馬といえば、ロングエース、ハイセイコー、カーネルシンボリ、カブラヤオー、クライムカイザー、ラッキールーラ、ファンタストなどがいます。「幻のダービー馬」と言われたカーネルシンボリを除いて、どの馬も皐月賞かダービーに勝利しており、カブラヤオー、クライムカイザー、ラッキールーラは3年連続のダービー馬となっています。つまり、弥生賞はそれだけクラシックレースの登竜門としての役目を果たしていたレースだったのです。
近年はこのレースを足場にクラシックへ乗り込む馬が減りました。馬の脚への負担軽減のためクラシックレース本番前はレースを少なくする傾向があり、弥生賞を通過して直接皐月賞に向かう馬が増えたことも影響しています。
「地方競馬の怪物」ハイセイコーの弥生賞
JRA(中央競馬会)では年間に重賞レースを全138レース設定しています。内訳はG1=26レース、G2=38レース、G3=74レースとなっていますが、ハイセイコー、テンポイント、牝馬のテスコガビーが活躍した1970年代には、年が明けても4月に行われるクラシックレース「桜花賞(牝馬の1冠目)」「皐月賞(牡馬の1冠目)」まで今のG1レースに該当するような大きなレースはありませんでした。
現在では、4月に開催される桜花賞まで、フェブラリーステークス(2月23日)、高松宮記念(3月30日)、大阪杯(4月6日)という3つのG1レースが開催され、月ごとにファンを楽しませてくれています。
では、こうしたG1レースが設定されていなかった当時、1月から3月までの期間は盛り上がりに欠けていたかというと、そんなことはなく、我々ファンがG1レースを見つめるのと同じような熱視線を注ぐレースはいくつもありました。その一つが前述のG2レースを中心としたトライアルレースです。
前述のハイセイコーは公営・大井競馬から「地方競馬の怪物」として中央競馬に移籍、1972年3月4日、移籍後初のレース・弥生賞(現在だとG2に該当か)が中山競馬場で行われ、12万3000人ものファンが押し寄せました。テレビ観戦していた私にも、現地の興奮ぶりが伝わってくるようでした。
ハイセイコーは勝利しましたが、ファンの期待するようなぶっちぎりの勝ち方ではなく、2着馬との差は1&3/4馬身でした。
理由は明白で、ハイセイコーがそれまで出走していた公営競馬と中央競馬の馬たちとの実力の相違、ハイセイコー得意のダートコースではなく芝コースだったこと、あまりにも多い観衆の声に馬たちが平静でいられなかったこと、距離が1800メートルに延長されハイセイコーにとって少し長かったこと等々あげられましたが、これらはすべて後付けの説明にすぎません。
当時は血統に詳しい人や、その馬の適距離や芝・ダートコースの巧拙について語れる人も数少なく、馬の評価は出走歴での勝ちっぷり、着差、母馬の実績くらいの情報でマスコミや専門家のみなさんが判断していたからでしょう。
クロワデュノールの皐月賞勝利は成るか
昨年(2024)の皐月賞はジャスティンミラノがレコード勝ちしていますが、前年11月の新馬戦に続く2戦目に陣営がトライアルレースとして選択したのは3月3日の弥生賞ではなく、2月11日の共同通信杯でした。そして、3戦目が4月14日の皐月賞で、3戦全勝でのクラシック制覇でした。
ジャスティンミラノはその後、次なる目標として余裕を持った日程で5月26日のダービーを選択、わずか4戦目でのダービー挑戦でした。2.2倍という1番人気でしたが、残念ながら9番人気の人気薄、
昨年末の12月28日に行われた2024年最後のJRA主催G1レース「ホープフルステークス」に勝利したのが、クロワデュノール。近年、「ホープフルステークス」は年末に行われる2歳馬の決定戦という位置づけとなり、クロワデュノールがサラブレッド新人戦のMVPということになりました。
同馬はこのレースでの勝ちっぷりから今後のさらなる活躍が期待されますが、次戦の予定が「皐月賞」であることが公表されました。レース間隔がおよそ4か月あき、皐月賞はデビュー4戦目のレースとなります。前述した弥生賞を通過して直接皐月賞に向かうケースです。
近くは世界一の名馬となったイクイノックスの場合、皐月賞(2着)が3戦目、ディープインパクトは4戦目での挑戦でした。はたしてクロワデュノールの選んだ道がこの両馬に迫るような「名馬ロード」へとなるかどうか、厩舎スタッフの腕の見せ所でしょう。
トライアルレースでは、新馬勝ちした馬たちや連勝を続けている馬たちが集結することもあり、クラシックの前に優劣を競うレースは大いにファンの興味を惹きます。
競馬は、馬自体が持っている実力だけでなく、枠順、騎手、レース展開、当日の天候、馬自身の気分・状態などに左右されることも多々あり、トライアルレースで勝ち負けが出たとしても、それは決着がついたことではないことは歴史と私の馬券が物語っています。
2025年のクラシック戦線を前に、1月13日のシンザン記念で優勝したリラエンブレム、現在2戦2勝のデンクマール、タイム指数の高いアルテヴェローチェら、クロワデュノールの休戦中に次の王座を虎視眈々と狙っている馬も数知れず、4月の皐月賞決戦までの動向に目が離せません。
(編集協力:春燈社 小西眞由美)
筆者:堀井 六郎