〈高齢者の運転〉「免許返納」の見極め基準と説得のコツ、教えます

2月8日(土)18時0分 婦人公論.jp


イラスト:泰間敬視

高齢になれば誰しも脳の機能が落ち、運動機能が低下するもの。ちょっとしたミスの積み重ねやとっさの判断能力の衰えが、重大事故につながるのです。高齢者の運転について取材を重ねている小山朝子さんが考える、やめどきとは。(構成=古川美穂 イラスト:泰間敬視)

* * * * * * *

脳の機能の衰えは検査ではわからない


高齢ドライバーによる交通事故のニュースが相次いでいます。2018年度の交通事故のうち、75歳以上の高齢運転者が関与したのは約8%。全体の比率としては決して多いわけではないのですが、高齢ドライバーの場合は被害者が死亡に至るような大事故が多いのが特徴です。

17年に道路交通法の一部が改正され、75歳以上は3年に1度の免許更新時に認知機能検査を受けることが義務付けられました。しかしこれにパスしても、次の更新までの3年の間に認知機能や身体機能が低下することも考えられます。

また認知症ではなくても、脳の機能は年齢とともに衰えていきます。たとえば、前頭葉の機能が低下すると起きるといわれる現象が、性格の先鋭化です。自信満々な人はさらに自信家に、頑固な人はさらに頑固になる。

このような脳の働きにより、「自分はまだ大丈夫」という過信が生まれ、身体機能の衰えを過小評価して事故につながるケースもあります。しかしこうした変化は認知機能の検査をしても判断できません。

親が事故を起こしてからでは遅いと思うけれど、運転をやめさせるのは難しい。このように悩んでいる方は多いと思います。高齢者の免許返納に関する、子ども世代の不安を解決する方法を考えてみましょう。

■《家族の悩み1》

運転を「やめるほうがいい」はどこで判断すれば?


⇒1件の重大事故の背後には300もの事故寸前がある

高齢ドライバーによる交通事故の発生原因は、「ブレーキとアクセルの踏み間違い」や「わき見や考え事などによる発見の遅れ」など、さまざまなパターンがあります。

そうした状況をもたらすのは主に、記憶力、判断力、注意力など認知機能の低下です。しかしそのほかにも視力や聴力、筋力の低下、反射神経が鈍くなるなどの身体機能の衰えや、脳梗塞や高齢者てんかんといった病気も考えられます。

そこで具体的に運転のリタイアを検討する一つの目安が、ヒヤリとしたりハッとしたりするような危険な体験が増えること。

1件の重大事故の背後には、重大事故に至らなかった29件の軽微な事故が隠れており、さらにその陰には事故寸前だった300件の異常事態、つまり“ヒヤリハット”が隠されている。これは「ハインリッヒの法則」あるいは「1:29:300の法則」と呼ばれる有名な法則です。

ドライバー自身が自分の運転に不安を感じる場合は、「運転時認知障害早期発見チェックリスト30(http://sdsd.jp/untenjiniunchisyougai/checklist30/)」(NPO法人 高齢者安全運転支援研究会)を使ってチェックしましょう。

「スーパーなどの駐車場で自分の車を停めた位置がわからなくなることがある」「右折時に対向車の速度と距離の感覚がつかみにくくなった」など、30問中の5問以上にチェックが入ると要注意です。これは専門医への受診を検討する際の目安になります。

しかし高齢の方に自分で細かいリストをチェックしてもらうように頼んでも、面倒がられるかもしれません。そこでぜひやっていただきたいのが、リストをもとにした家族による判断です。

できれば親の運転する車に何度か同乗し、本当に危険かどうかを見極めるのが確実です。実は親も内心では運転に不安を感じ始めていて、返納のきっかけを探しているという場合もあります。

【家族によるチェックポイント】


以下の症状に一つでも当てはまったら、運転を見直すことを考えてみましょう。
□ 車間距離を一定に保つのが苦手になった
□ 車庫入れに時間がかかるようになった
□ 運転中にミラーをあまり見なくなった
□ ウインカーを出し忘れることがある
□ 駐車場の枠に合わせて車を停められない

■《家族の悩み2》

やめてもらうにはどう伝えれば……


⇒説得するよりも納得してもらう

避けたいのは「もう年なのだから」と頭ごなしに返納を迫ること。本人のプライドを傷つけるばかりか、怒りからさらに聞く耳を持たなくなる可能性があります。

また、車の鍵や免許証を隠すという方もいますが、本人が自分で新しい鍵を作ったり、免許証不携帯で運転してしまうケースもあるので、お勧めできません。信頼関係を損なうと将来、介護が必要になったときまで引きずることになりかねません。

ではどうすればよいか。ポイントは「説得するよりも納得してもらう」です。具体的にどう危ないのか、なぜ運転をやめるほうがいいかを指摘する。その際、主語を自分にして「私が」心配だからやめてほしいと言うのもコツです。

家族の中で誰が説得するかはよく考えたいですね。私が取材した家庭で、長女がいくら返納を迫っても聞き入れなかった父親が、長男の提案には応じたというケースがありました。

この長男が巧妙だったのは、年金で暮らす父親に「ガソリン代やメンテナンス費用、税金、保険料などをこの古い車にかける価値があるのか」と、コスト面を計算してから切り出したこと。

また高齢の男性はプライドが高い傾向があるので、本人が一目置く人から言ってもらうと効果的なケースもあります。子どもの声には素直に従わなくとも、主治医やかつての上司などの言葉なら耳を傾けるかもしれません。

一方、女性は同性の友達など周囲の意見に影響を受けやすい傾向があります。母親の友達に頼んで「みんなもう運転はやめているわよ」と言ってもらい成功した例も。人によってそれぞれのツボがあるので、それを見極めて試すのも一案です。

自主返納で受けられるサービスも


免許返納後の買い物や病院通いなど、移動手段をどうするか一緒に考えることも大切です。介護の専門職は「手まめ、足まめ、口まめ」という言葉を使うことがあります。親が免許を返納した方に話を聞くと、親のために連絡をしたり、工夫を考えたのが親にとってはうれしいこととして残るようです。親を思う気持ちが最終的には心に響くのでしょう。

また免許を自主返納することで受けられるさまざまな特典もあります。引っ越しの割引、金融機関の定期預金の金利優遇、ホテル、レストランや娯楽施設の割引、デパートやコンビニなどの無料配送のほか、いろいろなサービスが提供されています。

自治体によっては「65歳以上の返納者にタクシーチケット3万円分交付、また満75歳未満の返納者は町内どこでも、1回600円でタクシーが利用できる」(広島県神石高原町)、「返納者全員に市共通商品券1万円分」(石川県かほく市)などの特典を用意しているところもあります。説得材料にも使えますので、お住まいの地域のサービスを調べてみてください。


■《家族の悩み3》

それでも運転を続けたいという親。気をつける点はありますか?


⇒最新技術を活用するのも○

少しでも運転に不安を感じたら、急に車を手放すのは無理でも、徐々に運転の機会を減らしていくことをお勧めします。その間に代替の移動手段や、運転に代わる親のやりがい、家族の中の役割などを一緒に見つける試みをしてはいかがでしょうか。

運転する本人が、まだしばらくは運転できそうだということであれば、高齢者対応の車に乗り換えるのもひとつの選択肢です。

いま各自動車メーカーの車両に搭載されている運転支援システムには、以下のようなものがあります。

・人の目と同じような左右2つの高性能ステレオカメラで、歩行者や自転車などを識別してくれる、スバルの「アイサイト」

・センサーが障害物を検知するとシステムが作動し、障害物への衝突を緩和する、トヨタの「インテリジェントクリアランスソナー」

・歩行者を認識してブレーキまでかけてくれる、ダイハツの「スマートアシスト」

そのほか今、お使いの車に後付けできるものとして、オートバックスが急発進防止装置「ペダルの見張り番」を発売しています。

また、鹿児島県ではドライブレコーダーの無償レンタル制度を導入しています。ドライブレコーダーは車両に大きな衝撃が加わると、その前後の映像を記録する車載カメラ装置。ヒヤリハットの場面を記録することができます。後でこの映像を見て、運転機能の低下をドライバーも家族もともに確認できるわけです。

いずれAIの自動運転車も一般化されるでしょう。しかし普及にはまだしばらく時間がかかります。

免許返納というのは、単に車を運転するか、しないかだけの問題ではありません。返納を考えること自体、すでに介護が始まっていると捉えてください。返納後の生活の送り方、具体的な移動手段をどうするかまでが課題になります。

それらの課題を親とともに解決し、次の段階の準備をすることも免許返納を促す第一歩だと考えて、前向きに取り組んでいただければと思います。

婦人公論.jp

「高齢者」をもっと詳しく

「高齢者」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ